目 次
「インディオの聖像」写真展が新宿で開催された
立花隆と佐々木芳郎による「インディオの聖像」のことを、出版された直後に詳しく報告した。
その際に、今回のこの記念すべき本を実質的に世に送り出した張本人である著者の佐々木芳郎カメラマンから、僕宛てに直接電話がかかってきたという感動的なエピソードは、僕のブログの熱心な読者なら、記憶してくれていることだろう。
その時にも触れたところだが、佐々木さん自身が実際に撮影した「インディオの聖像」の写真展をいずれ東京でも開催したいとの意向を伺い、是非とも実現させましょう!僕は全面的に支援させてもらいます!
という約束を交わしたのだが、コロナ禍もあり、そのままになってしまっていた。
それが、急遽、開催が決まり、既に写真展は成功裡に終わった。今年(2023年)4月の最終週、GWの前半だった。
このブログで事前に案内すべきだったところ、それができなかったことは忸怩たる思いだが、あの頃、僕は仕事を含め、非常にタイトなスケジュールに追われていて、うまく発信できなかった。
今更言ってみたところでどうにもならないが、僕の中では少し残念な思いが否めない。
佐々木芳郎さんにはもちろん、僕のブログの読者や、何よりも亡くなった立花隆に対して申し訳なかったと反省している。
ということで、既に終了して2カ月も経過してしまったが、ここで報告しておきたい。
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事前準備に関われなかったことが痛恨の極み
この東京で開催される写真展のことは、突然、佐々木芳郎さんから連絡があって知らされた。
僕は昨年、佐々木さんとの間でちょっと感動的な特別な経緯があっただけに、いずれ東京で写真展が開催される際には、何と言っても僕は東京に在住しているのだから、その写真展の会場を決めるなど、事前準備に全面的に関わらせていただくつもりでいたのだった。
というのは、感動的な出会いが佐々木さんとの間にあった際、電話とLINEを通じてではあったが、「どこで開催するのがいいだろうか。例えばあの立花隆の「ネコビル」でできないか、イエズス会の上智大学でできないか」など、かなり盛り上がった経緯があり、東京にいる僕が一肌脱いで、調整など飛び回らなければならないなと勝手に思っていたからである。
一度、大阪に出向いて佐々木さんと直々に打合せや相談をしたいと真剣に考えていた。
ところが、とにかくコロナが蔓延していたというわけだ。
僕は大病院の事務の要職に就いていることもあって、どうしても遠方に出かけることがままならず、非常に気になりながらも、徒らに時間ばかり経過してしまい、全く動けなかったのである。
何も具体的な相談などもできないまま、遂に突然、佐々木さんから一切合切が決定した旨のご報告を受け、一参加者としての参加呼びかけを受けてしまったという次第である。
これは本当に残念だった。
ハッキリ言えば、僕が勝手に、いわば一方的に自分がお役に立てるだろうと買いかぶっていただけで、佐々木さんサイドにはそんな気は毛頭なく、ある種のリップサービスを真に受けたということを思い知らされて、何だか辛い思いもしたのだった。
最初から当てにされていなかったんだ、ということを思い知らされた瞬間でもあった。
だが、そんなことを嘆いていても、どうにもならない。
そこは即座に割り切って、心機一転、僕としてできる限りの貢献をしようと気持ちを切り替えた。
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新宿での「インディオの聖像」写真展の概要
日時:2023年4月24日(月)〜30日(日) 12:00〜19:00
場所:東京・新宿 Place M(プレイスエム)
初日トークイベント:『インディオの聖像』写真展初日 記念トークイベント
4月24日(月)19時~21時(新宿区内藤町87番地 四谷区民センター9階)
出版直後に佐々木さんの地元の大阪で行われた大阪での写真展は、1日だけの開催だった。
2022年6月4日「1日だけの写真展」:大阪・中之島 大阪市中央公会堂
初日の記念トークイベントは
東京での写真展はご案内のとおり、丸々一週間に渡って開催された。
大阪での開催が1日だけだったことを考えると、これは中々の規模の写真展だったわけである。
写真展の初日である4月24日(月)には、記念トークイベントと称して、主役の佐々木芳郎さんを囲んで、広く知られた東京新聞記者の望月衣塑子さんと漫画家のいしかわじゅんさんによる鼎談が行われた。
テーマは「格差問題の深層を考える」ということだった。
「インディオの聖像」とかけ離れたテーマで語り合うのかと少々危惧したが、そんな心配はお門違いで、素晴らしいトークが繰り広げられた。
あの立花隆が亡くなって3年が経過したことを受けて、「インディオの聖像」が出版予告がなされながらも30年も経過したにも拘らず、結局、出版されないままで立花隆が亡くなってしまったことの経緯を説明しながら、30年前に立花隆が何を目撃して、何を感じ、何を書こうと思っていたのか。
結局、出版されなかったのはどうしてだったのか、という「インディオの聖像」を巡っての最大にして最高の謎に肉薄していく素晴らしいものだった。
当時の立花隆の心情と問題認識の核心に迫る貴重な鼎談だった。
熱烈な立花隆ファンである僕も観たことのない非常に珍しい立花隆の肉声や動画も観ることができて、僕は深い感銘を受けた。
今回の写真展の実行委員会の代表である原田さんの司会進行ぶりも実に見事なもので、これはかけがえのない充実の2時間となった。
パラグアイ大使館からの実に心の籠った長い御礼のメッセージにも驚かされた。
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東京での写真展の実際
写真展の会場は新宿にあるPlace Mという写真展示を専らとする会場だった。
ビルは古く、かなり老朽化が進んでおり、エレベーターも昭和を彷彿とさせる狭くて汚いもので、お世辞にもいい会場とは思えなかった。
特に酷いのは階段。ほとんどゴミ置き場のような劣悪な環境で、正直言って辟易させられたが、展示室の中は狭いとはいうものの、さすがは写真展示を専門とするギャラリーのようで、それなりのレベルを保っており、決して悪くはなかった。
だが、やはりもう少し広々とした空間に展示して欲しかったという思いは否めない。
カメラマンや写真愛好家の間では「聖地のようなギャラリー」なのだろうと思われたが、これだけ感銘深い写真を並べるに当たって、もっと広くて、綺麗な会場を用意できなかったのかというのが、僕の率直な感想である。
但し、そうは言っても、今回の写真展は完全に無料であり、採算や費用を考えると、どうしてもこういう場所になってしまうのはやむを得ないと、理解はできた。
写真はそれぞれかなりの大きさのパネルとして展示されている。
週末の最後の2日間はずっと会場に詰めていたのに、どうしてパネルの数を数えなかったんだろうと不思議でならないが、聖像そのものを写した大型の木製パネルは、40枚超といったところであろうか。
このパネルとして飾られた立派な聖像の写真を見ると、やはり深い感銘に包まれる。強い力を秘めているなあと感動を覚えずにはいられなかった。
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役に立てなかったが、僕には貴重な体験に
東京で写真展が開催されるときには、トコトン協力して、事務局として支えたいと意気込んでいた僕は、今回は結果的には何の役にも立てず、元々期待もされていなかったんだと、少し寂しい思いもしたわけだが、一参加者として加わり、その場でできることをできるだけしようと心がけた。
初日のトークイベントの後で開催された懇親会にも出させていただき、佐々木芳郎さんや立花隆を巡る色々な関係者と知り合いとなることができた点も、大きな収穫だった。
土日は会場に詰めて聖像と佐々木さんの世界にドップリ浸かる
その日からスタートした写真展には勤務の都合で、平日には全く顔を出せなかったが、最後の2日間、週末の土日にはずっと会場に詰めて、佐々木さんと一緒に過ごすことができた。
2日間、佐々木芳郎さんが撮影したインディオの聖像の見事なパネル写真に囲まれながら、当の本人である佐々木さんと一緒に過ごす時間はかけがえのないものとなった。
佐々木さんの飾らない気さくなお人柄も存分に知ることができて、忘れ難い2日間となった。
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佐々木さん撮影の聖像の写真に圧倒された
やっぱり心を動かされたのは、佐々木芳郎さんが撮影したインディオの聖像の写真そのものであった。
これがすごいものでなければ、何も始まらない。
この聖像の写真の数々に圧倒された。
被写体であるインディオたちが作った聖像がどこまでも感動的なものであり、見る者の心に迫ってくる。
その上、佐々木芳郎さんが撮影した写真そのものも、実に深い芸術性に富んだものであり、これらのパネルに囲まれているだけで、崇高な気分になってくる。
本当にいいものを見させてもらった。これは現物の写真を見てもらわないとダメだ。
あの著書の中の写真を見ても、伝わって来ない。
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立花隆が完成させられなかった「インディオの聖像」を改めて考える
それにつけても謎が謎として最後まで残る。
佐々木芳郎さんが撮影したあれだけの写真も揃っていたのに、どうして立花隆は当初の予定のとおりに「インディオの聖像」を完成させ、出版できなかったのか?
今回の佐々木芳郎さんによる出版によって、立花隆が遺したインディオの聖像に関する文章は活字となって読むことができるようになったのだが、それは立花隆が想定した全体像の中ではごく一部に過ぎない。
どうして書かなかったのか?どうして書けなかったのか?
立花隆自身が再三に渡って生涯に完成させなければならない本としてこの「インディオの聖像」を挙げていた。
それなのに完成させることができなかった。写真を撮ったカメラマンの佐々木芳郎さんが何度も完成を請願したにも拘らずである。
佐々木芳郎さんの問いかけ
今回印象に残ったことの一つは、佐々木芳郎さんが、初日のトークイベントでも語っていたことであり、写真展の会場でも来訪者に何度か語っていたこと。
「今回僕がこうしてインディオの聖像を出版したことを、天国の立花隆は喜んでくれているだろうか?それとも怒っているだろうか」という問いかけだ。
いしかわじゅんさんは「喜んでいるんじゃないかなあ」と答えていたが、これは本当に奥の深い問いかけで、俄かに答えが出せないというのが、僕の正直な感想だ。
立派な本が誕生したことは実に喜ばしいことなのだが。
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最後の最後、思わぬどんでん返しに驚嘆
佐々木芳郎さんが今回、「インディオの聖像」を出版したことに対して、肝心の立花隆その人はどう感じているだろうかという問いかけに、僕が「俄かに答えが出せない」と思ったのには、少し別の面からの理由もあった。
写真展が滞りなく全ての日程を終えて、撤収する際のこと。
僕は最後まで残っていて、その撤収にも少しだが、手伝わせてもらった。
そこで、すごいものを見てしまったのだ。
いや、「そのすごいもの」はもう何度も見ていたのだが、最後の最後に現物を手にして、僕は衝撃を受けたのだった。
一番最後に待ち受けていたショック。いわばとんでもない「どんでん返し」となった。
この世に4冊しかない幻の「インディオの聖像」が凄かった!
それはまだ立花隆の生前に作られた幻の写真集「インディオの聖像」。
当初考えられていて、出版予告までされていた、僕が非常に楽しみにしていた例の本である。
立花隆による本文は書かれていないのだが、佐々木カメラマンが撮影した写真は全て収められているいわば試し刷りである。
特別に4冊だけ作られて、今回の写真展でもガラス扉の付いたショーケースに収められていた。
一冊は佐々木さんから直接、当時のローマ法皇ヨハネ・パウロ2世に手渡されている。これは中々のすごいエピソードだが、ここでは省略させてもらう。
残りの3冊のうちの1冊が今回展示してあったのだ。
僕は興味深くガラス越しに眺めていたのだが、もちろん手にすることはできなかった。鍵がかかっていた。
展示会撤収時に手にすることができた
全てが終わって撤収する際に、例のシャーケースが開けられた。
そこで僕は、あの幻の「インディオの聖像」の立花隆の文章が載っていない、何とも奇怪な未完成の本を手にすることが許された。
それがすごい本だったのだ。
すごい代物に足が震え、手が動かない
サイズは今回佐々木さんによって出版された本よりも、遥かに大きなB4版。
その大きな立派な本のページを捲ると、佐々木芳郎カメラマンが撮影したインディオの聖像の数々が、1ページに一つの聖像写真というすごい体裁で収められていたのだ。
これには衝撃を受けた。
足が震えた。
あの時の衝撃を上手く言葉にできない。脳天から楔を撃ち込まれたような大変なショックを受けた。
これはすごい。これは稀にみる貴重な写真集だとページを捲る手が緊張して上手く動かせなくなるくらい。
立花隆も佐々木さんも、当初はこれを望んでいたんだ、とその思いが一挙に僕の心に押し寄せてきた。
そして、改めてこれをオリジナルどおりに完成させてあげたかったと思わずにいられなかった。
佐々木さん曰く、「これを今、作れば軽く1万円以上についてしまう。到底誰も買ってくれない」。
確かにそうだろう。
だが、このインディオの聖像とそれを見事に撮し切った写真集にはそれだけの価値があると痛感させられた。
本当に残念だった。
立花隆はそれを知っていただけに、あのレベルの写真集を作ることの困難さも分かり、中途半端なものは作らない方がいいのかもしれない、と考えていた可能性がある。
それくらいあのオリジナルの写真集はすごい代物だった。
あのレベルで完成させて欲しかった!それは今となっては到底果たせない夢である。
ところで、残りの2冊はどこにあるのだろうか?
佐々木さんに教えてもらうしかない。
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立花隆がいなくなった寂寥感に襲われる
写真展の会場に来てくれた来訪者に、佐々木カメラマンは「私はインディオにも、聖像にも興味があったわけではなく、立花隆について知りたかった。立花隆の実際の仕事ぶりを体験したかった。だから南米までついて行ったんだ」と繰り返し発言しているのを耳にしたが、「なるほどそうだったんだ」と妙に得心が行った。
やっぱり全ては立花隆から始まったことだったのだ。その存在の大きさ、とてつもない巨大な存在感が周囲を動かし、周囲の人々の心に火をつけ、今回のように数十年前のパラグアイへの旅が回顧され、立花隆の好奇心が、このような写真展にまでなって結実された。
全てが立花隆の子供のような純粋な好奇心から始まったこと。
改めて立花隆の「知の巨人」としての存在の大きさに思いを馳せることになった。
立花隆が亡くなって3年が経過した。その寂寥感はいよいよ耐え難いものとなってきた。
今回の写真展を通じて生前の立花隆のエネルギッシュな活動を知るにつけ、そんな立花隆が亡くなってしまったことを否が応でも思い知らされ、心の中にぽっかりと空いた穴は、いつまでも埋まらない。
佐々木芳郎さんが立花隆の意思を継いで、執念でまとめ上げた「インディオの聖像」を是非ともお読みいただきたい。
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