目 次
この森岡毅も非常に感動的だった
引き続き森岡毅の本を読んだ。著者にとっては5冊目となる本、僕にとっては通算4冊目の森岡毅の作品となる。
それが今回紹介させてもらう『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きとめた「働くことの本質」』である。
本当に長いタイトル!これだけは何とかなりませんか、森岡さん!(笑)
この本も非常に感動的だったのだが、実は今回の作品は、今までの森岡毅の本とは少し趣きを異にするものなので、留意が必要だ。
娘のために書きとめた文章
今回の森岡毅は、僕が今まで読んで、紹介もさせていただいた従来の3冊のように、「マーケティング」や「組織論」などの自説を森岡流に展開し、解説し、導入・取組みを強く勧めるということではなく、森岡毅が社会人として、希代のマーケターとして体験してきた様々な経験を通じて身に付けたスキルや人生観などを、これから社会人になろうとしている自分の娘に読んでもらうために書きとめたものを1冊の本にまとめたものだ。
娘に読んでもらうために書いたという体裁を取っているということではなく、これは実際に森岡が自身の娘のために書きとめておいたものらしい。そのあたりの本書が発刊されることになった経緯が、冒頭の「はじめに」に詳しく書かれている。
森岡毅には4人の子供がいることが、様々な著書の中でも公言されているが、本書の娘のために書きとめたというのその娘さんは、森岡の長女である。大学の卒業が近づき、就活を始めるに当たって、自分自身の考えがまるでまとまらず、分からないことばかりで焦っていた長女の様子をみた森岡が、その娘に読んでもらうために書きとめたものだという。
全ての若い人たちへのアドバイス
元々は実際の長女のために書いた文章であっても、それがその森岡の娘さんだけに留まるものではなく、全ての若い人たち、これから新社会人として新たに社会に飛び出す若者たちへのアドバイスになることは当然である。「実の娘に宛てて書いた個人的な文章ですが」と、森岡から遠慮がちに差し出された書きためた文章を読むことになった編集者たちが、いつの間にか夢中になって読み耽り、これをそのまま本にしようと飛びついたというエピソードは至極当然。
こうして本書の誕生となったわけだが、これはこれから社会に飛び出す新社会人たちにじっくりと読んでいただきたい、本当にかけがえのない貴重な1冊だ。
「苦しかったときの話をしようか」の基本情報
2019年4月10日に第1刷が発行された森岡毅の通算5冊目の本である。僕の購入したした本は2022年6月7日発行の第16刷。かなり増刷されており、広く読まれていることが分かる。
全305ページ。昨日紹介したばかりの「マーケティングは「組織革命」である」と同様に、全体的にフォントがかなり大きく、ページ数の割に、本当に直ぐに読めてしまう。集中して読めば5~6時間でしっかり読むことができるのではないか。
本書1冊に集中して読めばホンの数時間、昼間働いているサラリーマン諸氏にとっても2~3日もあれば軽く読めてしまうに違いない。
僕は今月(2022年9月)の、いわゆるシルバーウィークに家族の祝いがあって、親族総出で沖縄に出かけていたのだが、東京の自宅から羽田空港に出て、那覇空港を往復する飛行機やバスによる移動時間と帰宅後のホンの僅かな時間で、完全に読み切ることができた。
通算時間は5〜6時間もかからなかったと思う。移動中の飛行機やバスの中だ。集中して読めばもっとはるかに早いだろう。とにかく本書を読むのに、時間はかからない。
しかも内容が興味深く、今回もいつもの森岡節は健在で、グイグイと引き込まれれてしまうので、こっちも一気に引き摺り込まれてしまう。
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本書の全体の構成と内容
目次から具体的に引用するのが、森岡毅の作品の場合、一番明確になる。
「はじめに」と「おわりに」を含めて全体は8つのパーツからなる。
はじめに 残酷な世界の“希望”とは何か?・・・何と12ページ
第1章 やりたいことがわからなくて悩む君へ
・やりたいことがわからないのはなぜか?
・「経験がないのに考えても仕方ない」は間違い!
・君の宝物はなんだろう
・会社と結婚するな、職能と結婚せよ
・大丈夫、不正解以外はみんな正解
第2章 学校では教えてくれない世界の秘密
・そもそも人間は平等ではない
・資本主義の本質とは何か?
・君の年収を決める法則
・持たない人が、持てるようになるには?
・会社の将来性を見極めるコツ
第3章 君の悩みをどう知るか?
・まずは「目的」を立てよう
・君の強みをどうやって見つけるのか?
・ナスビは立派なナスビになろう!
第4章 自分をマーケティングせよ!
・面接で緊張しなくなる魔法
・「My Brand」を設計するの4つのポイント
・キャリアとは、自分をマーケティングする旅である
第5章 苦しかったときの話をしようか
・劣等感に襲われるとき
・自分が信じられないものを、人に信じさせるとき
・無価値だと追い詰められるとき
第6章 自分の「弱さ」とどう向き合うのか?
・「不安」と向き合うには?
・「弱点」と向き合うには?
・行動を変えたいときのコツ
・未来の君へは
おわりに あなたはもっと高く飛べる!
圧巻はタイトルの「苦しかったときの話」
本書は基本的にこれから新社会人となる若い人向きに書かれた本である。そうは言っても新社会人だけではなく、既に社会人となっている人が読んでももちろん十分に参考になり、様々な貴重なアドバイスが受けられるのは当然だ。
僕が思うに、本書は若い人ばかりか、40歳くらいまでのサラリーマンなど組織で働く人にとって、かけがえのない示唆を受けられるのではないかと信じている。
20代と30代でこの本に出会えたら、さぞ幸せなことだと思う。
いずれにしても若手が読むのが一番参考になることは、間違いない。
そんな中にあって、社会経験の長短を問わず、ベテランのサラリーマンであっても、非常に参考になる感動必至の部分がある。それが本書のタイトルにもなっている第5章の「苦しかったときの話をしようか」だ。
これは森岡毅自身の実体験に基づくサラリーマン時代の大きな失敗談というか、挫折経験である。3つの痛過ぎる失敗が包み隠さず赤裸々に語られているのだが、この3つのエピソードのいずれもが、本当にイタイ、辛く苦しい体験だった。
読んでいてあまりにも迫真に満ちていて、読み進めるのが辛くなってくるほど。
これはたまらん。森岡は良く耐えたなあ、良く乗り越えたなと心の中で、密かに、だが本当に心を込めて、小さく拍手喝采を送りたくなる。
とても大きな音を立てて、拍手などできない。それほどデリケートな、キツイ失敗、挫折経験なのである。
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この体験があったから今の森岡毅がいる
この部分、3つのエピソードを合わせても文量的にはちょうど50ページほどだ。
約300ページの本書にあって、この部分は全体の6分の1程度。短いものだ。
だが、そのインパクトと苦難の内容は深く重い。
結果的にはこれらの挫折経験を、森岡は持ち前のバイタリティと打たれ強さで克服し、むしろそれを糧にして、更に大きく成長を遂げていくわけだが、読ませてもらうと相当に辛かっただろうな、苦しかっただろうなと思われてならない。
森岡のような打たれ強い人間だから、乗り越えられたんだろうと思ってしまうが、そう言ってしまうと身も蓋もない。
少なくてもこの深く重いいくつもの失敗と挫折体験を経て、今の森岡毅が形成されたことは間違いないだろう。
だとすれば、やっぱりよく言われるように失敗や挫折はその人にとって極めて貴重な体験となるのだろう。
いずれにしても、この50ページを読むだけでも本書はかけがえのない価値がある。
この部分は、若い人だけではなく、ベテランにも非常に有用なので、この本をしょせん新社会人向けの本だろ、と脇によけてしまうと折角の宝物を失ってしまうことになるので、心してほしい。
森岡毅の人間を見る目は、今回もかなり厳しい
森岡毅はあんな一見温厚のように見えて、実はものすごくネクラな悲観主義者ではないかと、僕はみている。
本人は楽観主義者だと本の中にも書いているが、ペシミストかオプチミストかはともかくとして、森岡毅の人間を見る目は、恐ろしく絶望的だ。
人間の本質を驚くほどトコトン暗く、絶望的に理解している。前著の『マーケティングは「組織革命」である。』の紹介の時にもかなり詳しく引用したが、森岡毅は人間の本質は現状維持の自己保存と断定し、「アメ」と「ムチ」の使い分けの重要性を説いて、疑うことがない。
本書では、もっと驚嘆すべき人間観がはばかられることなく堂々と展開されて、正直言って、ビックリ仰天してしまう。
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人間はそもそも平等ではない!と説く
今回はこれだ。人間は元から平等ではなく、生まれた時からトコトン不平等な存在だと断言。
これから社会に出ようとする若い人に向けて、正々堂々と人間は平等じゃないと断定する本にはあまり出会ったことがない。
そんな若い人向けの自己啓発本は、聞いたこともない。
森岡の人間観が辛辣だから信用できる
だが、あらためて言うまでもなく、ここで森岡毅が断言していることは、紛れもない事実である。
僕も全く同感だ。人間が平等に生まれついているなんて、ファンタジーも甚だしい。能力的にも経済的にも、瑣末なことを言えば、容姿も含めて、この世の中はあまりにも不平等にでき上がっている。
それを認め、大前提とした上で、だからどうするんだ!?という話しである。
森岡毅は正しくそういう展開をする。
森岡毅が耳に心地よいきれいごとを一切言わず、トコトン現実的に人間と社会を見つめているからこそ、信用に値する、僕はそう考える。
この男の言っていることは間違いない、そう信用できるのだ。
資本主義の本質も残酷な捉え方
我々の社会の仕組みである資本主義に対しても、その本質を辛辣なまでに妥協抜きで捉えている。
『私は、資本主義の本質は人間の「欲」だと考えている。(中略)資本主義は、人間の「欲」をエネルギー源にして、人々を競走させることで社旗を発展させる構造を持つ。欲を人質にして人々を競走させることで、人々に怠惰や停滞を許さず、生き残るために常に進歩と努力を強いていく構造になっている』
森岡毅は決して妥協しない男である。妥協もしなければ、忖度もしない。物事を美化することもない。
徹底したリアリストというべきか。甘っちょろくないのである。
そんな姿勢に僕は大いに共感し、好感を持つ。
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辛辣な森岡毅が送る若い人たちへの必読の言葉
これには素直に耳を傾けたい。
人間と社会をここまで辛辣に、絶望的に捉えている男の、若い社会人に送る言葉は、実に温かいものだ。
本当にその言葉には、森岡よりも遥かに人生経験の長い僕も、素直に受け入れることができる。
繰り返しになるが、僕ももっと若い時にこの本と、この本の著者森岡毅に巡り会いたかった、と思わないわけにいかない。
どうか若い読者の皆さん、本書を手に取ってじっくりと読んでいただきたいと切に希望する。
ここにはかけがえのない貴重なアドバイスがぎっしりと詰まっている。
この感動的な名著をどうか見逃さないでほしい。
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