目 次
まだまだ続くウクライナへの激しい攻撃
ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まってから、いつの間にか5カ月近く経過した。
圧倒的な軍事力を誇るロシアが瞬く間にウクライナを制圧し、憤懣やるかたなきも、そうなるに違いないと半ば諦めていたのだが、ウクライナ兵の激しい抵抗と欧米各国の軍事支援もあって、ウクライナが想定外の頑張りを見せ、5カ月近く経過した現在も、ウクライナの必死の抵抗と反撃が続いている。
ロシアの侵略戦争の最新状況
これは一方で、世界の超大国ロシアの軍事力が、思っていたほど大したことがなかったことを暴露してしまう証左でもあったのだが。
そうは言っても、2022.7.15現在、遂にロシアの軍事力の底力が発揮されて、ロシアが一方的に独立宣言させた東部2州のうちのルハンシク州がロシアによって制圧、ウクライナ兵も撤退を余儀なくされ、もう一州のドネツク州も時間の問題でロシアが制圧してしまいそうな勢いである。
侵略戦争への関心度が薄くなることへの憤慨
ということで、今もロシアによるウクライナへの侵略戦争は続いているどころか、以前にも増して、ロシア側が攻勢を強めており、犠牲者も増え続けている一方なのに、このところ、明らかにこのロシアの未曾有の蛮行に対する関心度が低くなっていることが腹立たしくてたまらない。
僕は戦争の開始前、ロシアがどうやらウクライナに攻め込むぞと噂されていた当時から、ロシアとウクライナのニュースをずっと追いかけ続け、今でも帰宅後、毎日、4本のテレビニュースでウクライナ情勢を欠かさず確認しているのだが、以前はどの番組でも必ずトップニュースで時間をかけて丁寧かつ詳細に報道していたが、最近では、番組の中でウクライナ情勢に全く触れずに終わってしまうことすらある。
民放ならいざ知らず、NHKのニュース9でも、全く触れない日が出てきて怒りが収まらない。
戦争が下火になって来ているなら理解もするが、そうではないどころか、今がウクライナ最大の危機だというのに、そのニュースを伝えないマスコミ。
それだけではない。
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欧米でもウクライナへの関心が低くなっている
先日のNHKの国際報道2022(2022.7.4)によれば、アメリカでは、今までは民主党も共和党も一丸になってウクライナ支援に取り組んできたが、ここに来て、遂にウクライナへの軍事支援の額が大き過ぎる、と武器の供与や軍事支援の額の見直しを図る声が上がり始めている。
ウクライナにこれだけの膨大な額の支援をするなら、その金を国民の物価高の補填にあてろというわけだ。
ヨーロッパも事情は同じ。戦争の長期化に伴って有力国の足並みが揃わなくなり、ウクライナへの支援疲れ、「ゼレンスキー疲れ」が出始めているという。
何ということだろう。
今でも、ロシアは圧倒的な軍事力でウクライナを攻撃し続け、毎日、無辜の市民が殺戮されているのに、これをちゃんと報道しないなんて!
本来ならアメリカ軍そのものが、ウクライナを守り、場合によってはロシアの暴挙を止めさせるために、ロシアを攻撃することだって選択肢としてはあり得たはずだ。
アメリカは従来まで、「世界の警察」を自他共に自認し、世界各地で軍事介入をして来たではないか。
もちろんそれが引き金となって第三次世界大戦が勃発してもらっては困るので、直接の攻撃は控えるにしても、今のような軍事支援と財政支援は絶対に続けなければならない。このままでは、プーチンの野望がまかり通ってしまう。
僕自身は何もできないのだが
こんな風に偉そうに言う僕は、何もできない。
だが、いつもウクライナのことを考え、ウクライナのことを勉強し、その歴史をできるだけ深く知ろうという努力だけは不断に続けている。
それが一体何の役に立つのか!?と言われそうだが・・・。
先ずはひたすら本を読み続けている。
今回、時間をかけて読んできたのが「ブラッドランド」だ。
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「ブラッドランド」言葉を失う未曾有の殺戮
すごい本だった。漸く全てを読み終わり、衝撃が収まらない。空いた口が塞がらなくなり、言葉を失ってしまう。足の震えが止まらなくなる。
「ブラッドランド」、サブタイトルは「ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実」。著者はアメリカの著名な歴史家ティモシー・スナイダーである。
ここで描かれるのは、ウクライナ、ポーランド、ベラルーシへの未曾有の民間人の殺戮である。
本書の基本情報
上下2巻の大作である。筑摩書房。上巻:346ページ。下巻:297ページ(本文)、巻末に95ページに及ぶ詳細な索引・原注・参考文献一覧が付く。全体では約400ページ。
上下2巻合わせると約750ページとなる堂々たる大作で、読み切るには相当なエネルギーが必要だ。
2015年10月20日 初版第1刷発行
2021年05月30日 初版第6刷発行 ※下巻は2021年05月25日 初版第5刷発行
あまり一般的な本ではないにも拘らず、かなり読まれていることが分かる。実は、本書は欧米では大ベストセラーとなった話題の書である。
著者ティモシー・スナイダーについて
1969年生まれ。歴史学者。イェール大学教授。専門は近代ナショナリズム史、中東欧史、ホロコースト史。1997年、オックスフォード大学Ph.D。著書に「赤い大公ーハプスブルク家と東欧の20世紀」、「ブラックアースーホロコーストの歴史と警告」「暴政ー20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」などがある。
(以上 本書からの引用)
内容は?どんな評価を受けているのか?
これは本書の扉の解説をそっくり引用させてもらうのが、一番最適だろう。実に分かり易く、かつ適切に紹介されていると感心してしまう。
【上巻】
ホロコーストといえば、アウシュビッツに象徴される強制収容所でのユダヤ人殺害を思い浮かべるだろう。その数500万とも600万も言われるが、それはヒトラーとスターリンによる犯罪の犠牲者のほんの一部でしかない。事件は、ドイツでもソ連でもなく、両者に挟まれた不幸な地で起こった。意図的な飢饉、強制労働、放火、銃殺、ガス殺にいたるまで、ありとあらゆる手段で民間人が虐殺されたが、彼らは死者にすら数えられていない―。
ウクライナ、ベラルーシ、ポーランド、バルト三国。ドイツとソ連の双方から二度三度と侵略され、翻弄された流血地帯(ブラッドランド)。この地で起きた未曽有のジェノサイドの全貌が、いま初めて明らかにされる。
世界30カ国で刊行、アーレント賞はじめ12以上の国際賞を受賞した歴史ノンフィクション、ついに刊行。
【下巻】
ドイツとソ連に挟まれたこのブラッドランド(流血地帯)は、第二次世界大戦において最大の民間人犠牲者を出した。だが、その犠牲の全貌が明るみに出されることはなかった。ヒトラーとスターリンがこの地に舞台に虐殺を繰り広げている間、欧米諸国は意図的にそこから目を逸らし続けてきたためだ。そして戦後もなお、冷戦構造にいたる過程で事実は隠蔽・歪曲され、さらなる犠牲者を出すことになる―。
証言者なき殺人の証拠を求めて、犠牲者たちの手紙や日記、教会に刻まれた最後の言葉まで掘り起こし、歴史家が執念でたどりついたのは、政治的にあまりにも不都合な真実だった。
20世紀最大の愚行とその悲しみをリアルに描き出し、数多くの新聞雑誌が年間ベストブックに選出。全世界から圧倒的な讃辞を集めた歴史書の金字塔。
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この悲惨過ぎる歴史はもっと知られなければ
あまりにもむごい(酷い・惨い)、悲惨過ぎる民間人への殺戮行為。衝撃は計り知れない。
ウクライナは今、あれだけ酷い悲惨な戦争の真っ只中にあるが、この悲劇的な状況は今回が初めてではなく、第二次世界大戦の前からずっと辿ってきたのだった。
ウクライナだけではなく、ポーランド(僕がヨーロッパで一番強い関心を持っている国)、そして今回の戦争でロシアを全面的に支援しているベラルーシもまた。
「ブラッドランド」は「流血地帯」を意味する。文字どおり血で覆われた大地のことだ。
具体的にはドイツとロシアに挟まれたウクライナ、ベラルーシ、ポーランドの3カ国が中心となるが、バルト3国も含まれる。
この3カ国が経験した未曾有の悲劇にはただただ驚嘆し、怯え、呆れ返るしかない。
この残酷極まりない歴史を一言で説明することは困難だが、敢えて分かりやすく言うとこうなる。上述の本書の扉の引用で全て言い尽くされているのだが、僕自身の言葉で重ねて書かせてもらう。
残酷極まりない殺戮の歴史をまとめると
ヒトラー率いるナチスドイツが、ホロコーストというユダヤ人の大量虐殺をしたことは多くの人が知っている。
このナチスによるホロコーストの被害者、つまり殺されたユダヤ人の数はおよそ600万人と言われている。
そのユダヤ人は主にポーランドの地で殺されたが、ウクライナでもベラルーシでもユダヤ人は殺された。
その約600万人の被害者は、実はこの3カ国の第二次世界大戦がスタートする少し前からスターリン時代にかけて殺された民間人のほんの一部でしかなかったということだ。
スナイダーは本書の中で、殺戮された民間人の数を、常に実に細かい数字を引用して紹介している。
第二次世界大戦という純然たる戦争による死者とは別に(つまり戦闘による死者は除外)、計画的あるいは組織的に殺戮された民間人は1,400万人にも及ぶという。その中の600万人、つまり4割程度がナチスによるユダヤ人の殺戮であり、それ以外に800万人にも及ぶ民間人が、この地で殺戮されていたということなのだ。
その事実だけでも驚嘆してしまうが、そのことが今までほとんど知られてこなかったことをスナイダーは問題視している。
もう少し具体的に説明する。
1,400万人の民間人は1933年から第二次世界大戦終了の1945年までの12年間に以下に挙げる概数の合計である。
1.1933年から1934年にかけて
ソ連政府の政策によりウクライナで餓死させられたソヴィエト国民(大半がウクライナ人) 330万
2.1937年から1938年にかけて
ソ連で決行されたスターリンによる大テロル(大粛清)の犠牲者70万人のうち、西部で政府により銃殺されたソヴィエト国民(大半がロシア人とウクライナ人) 30万人
3.1939年から1941年にかけて
占領下ポーランドで独ソの軍隊により射殺されたポーランド国民(大半がポーランド人) 20万人
4.1941年から44年にかけて
ドイツの占領下において餓死に追い込まれたソヴィエト国民(多くがロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人) 420万人
5.1941年から44年にかけて
ドイツ人によりガス殺あるいは銃殺されたユダヤ人(ほとんどがポーランド国民かソヴィエト国民) 540万人
6.1941年から44年にかけて
主にベラルーシとワルシャワでドイツ人の「報復」行動により銃殺された民間人(ほとんどがベラルーシ人とポーランド人) 70万人
この6つの合計が1,400万人となる。
良く知られているナチスによるユダヤ人の虐殺は、もちろん5番。いわゆるホロコーストである。
それ以外で最近、比較的知られるようになってきたのは1番である。スターリンによる計画的なウクライナの農民たちへの飢饉による大量殺人。これはホロコーストに対して、ホロドモールと呼ばれている。
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ウクライナのホロドモールの衝撃の地獄図
このホロドモールが酷い。あまりにも酷すぎる。たまたま自然災害などで食糧が枯渇し、飢饉が起きたということではない。
スターリンがその直前に始めた集団農場、いわゆるコルホーズがうまくいかず、その責任を全てウクライナに押し付けたのである。計画的に引き起こされた飢饉であり、スターリンによる計画的かつ組織的な人民の大殺戮である。
本書でも、このウクライナでの大量殺人としての飢饉の描写は、すさまじい。銃殺やガス殺よりももっと悲惨で、痛々しい。
銃殺やガス殺なら、一瞬の苦しみで終わるが、飢饉による飢え死には本当に悲惨。人肉食が起きる。家族を殺して食べてしまうなどの身内同士の殺し合いなど、目も当てられない地獄図が延々と展開される。まともに読んでいられない程の悲惨な地獄模様に思わず足が震え、胸が苦しくなってくる。
納得できない和訳「国民社会主義」?!
この本の訳者は布施由紀子さん。ティモシー・スナイダーの著作は慶應義塾大学出版会から出ているものが多く、訳者は全て慶應の名誉教授である池田水穂氏なのだが、この人の日本語訳が頗る評判が悪い。
意味不明の日本語が多いらしく、かなり批判されている。スナイダーの作品そのものは素晴らしいのに、日本語訳が酷すぎるというのが、ネット上のもっぱらの評判だ。
本書「ブラッドランド」は別の訳者。布施さんの訳は読みやすく、僕としてはこの訳にあまり不満はない。
だが、どうしても納得できず、不思議でならないのが、ナチスの日本語訳。ナチスの日本語表記はどんな教科書でも統一されている。「国家社会主義ドイツ労働者党」。これはもう世界史の常識である。
それをこの本では、「国民社会主義」と訳している。その理由が分からない。最初は何を指しているのか理解できなかった。ナチスが「国民社会主義」?!
「国家」と「国民」では、まるで意味が違う。もし、ナチスのことを正確に日本語に訳した場合に「国家」社会主義ではなく、「国民」社会主義の方が正しいというのなら(僕はあいにくドイツ語に詳しくない)、その旨を本文中、あるいはあとがき等でちゃんと説明すべきであろう。
この訳者は、もしかしたらナチスの日本語表記を全く知らないで、このナチスに関する詳しい本を訳したのだろうか?
そんなとんでもない疑惑すら浮かんできてしまう。これは早急に対策を打つべきだ。本全体、いや訳そのものの基本的レベルと信用に関わる重大事である。
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侵略戦争の真っ只中の今、読んでほしい1冊
本書を読むことによって、ウクライナを中心にベラルーシ、ポーランド、更にバルト三国などがどれだけの苦汁を強いられ、未曽有の悲惨な体験をしてきたのか痛いほど良く伝わってくる。
これは今のウクライナ状況を知るためにもどうしても知っておいてほしい歴史的真実である。ヒトラー率いるナチスドイツと、スターリン率いるソ連という2つの一党独裁国家。片や究極の右翼、片や究極の左翼というイデオロギー的には正反対、まさしく真逆の国家が、実は内実は似たもの同士で、当初は手を携えてポーランドを蹂躙し尽くし、遂には雌雄を決する独ソ戦という人類史上の最悪の戦争に突入した。
その凄まじい両国の歴史に翻弄される中で、何と1,400万人という途方もない民間人が殺戮された。この中には独ソ戦の戦闘による死者は一切含まれていない。独裁者による国家の政策として組織的に殺戮された一般民間人の被害者である。
全く信じられないことが行われたものだ。この世界で生きている全ての人にこの事実を知ってもらう必要がある。
そして20世紀前半にこれだけの辛酸を嘗めさせられたウクライナが、今またロシアに一方的に侵略され、無辜の民間人が日々犠牲になっている現実。どうしてウクライナはここまで悲惨な歴史を辿らなければならないのか?胸が苦しくなってくる。
何とかして、誰かがこの戦争を止めなければならないのに、できないもどかしさが苦しくてたまらない。
これは本当に凄い本である。恐ろしい本である。読んでいて辛くなってしまう本である。
だが、どうしても読んでもらわなければならない。この歴史的事実から目を背けてはならない。全人類の必読書と断言したい。
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入ください。
(上巻)3,080円(税込)。(下巻)3,300円(税込)。送料無料。
ブラッドランド(上) ヒトラーとスターリン大虐殺の真実 [ ティモシー・スナイダー ]