実に感動的な素晴らしい映画

素晴らしい映画を観た。レニー・アブラハムソン(エイブラハムソン)監督の「ルーム」。6年程前に公開された話題作で、アカデミー賞では作品、監督、脚色、主演女優賞と主要4部門でノミネートを果たし、主演女優賞を獲得したこの年の話題作だった。

2017年のキネマ旬報ベストテンの第10位。読者選出ベストテンでは第4位に選ばれている。

僕はその当時、実際には観ることができず、ブルーレイだけは直ぐに買い込んでいたのだが、それをようやく最近観たという次第。
素晴らしい映画。深い衝撃を受けると共に、いたく感動した。

これは大絶賛に値する感動作である。今まで素晴らしい映画、衝撃的な映画は数え切れないほど観てきたが、この映画の衝撃と感動はちょっと別格で、じわじわと後で効いてくる感動と言うか、とにかくいつまでも心の奥深くに刻み込まれる稀有の作品のように思う。どうか一人でも多くの方に観ていただきたいと切に願う。

紹介した映画のジャケット写真
この映画の最も代表的なワンシーンがジャケット写真に。この写真は素晴らしいの一語。この母子の絆に心癒される。
紹介した映画の裏ジャケット写真
ブルーレイの裏ジャケット写真。少し映画の雰囲気が伝わってくる。

映画の基本情報:「ルーム」

カナダ・アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画 118分  

2016年4月8日  日本公開

監督:レニー・アブラハムソン(エイブラハムソン)

脚本:エマ・ドナヒュー

原作:エマ・ドナヒュー「部屋」 

出演:ブリー・ラーソン(アカデミー主演女優賞)、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ウィリアム・H・メイシー 他  

ジャックが閉ざされた部屋の中から天井の天窓を見つめる姿が感動的だ。これをディスクに印刷するとは何といいセンスだろう!

 

この映画「ルーム」は、世間を大いに騒がせた衝撃的な「フリッツル事件」を基にエマ・ドナヒューが書いた「部屋」が原作となっている。

それを作者のエマ・ドナヒュー自身が映画のために脚色した作品である。監禁事件がテーマとなっているが、スキャンダラスな側面にはほとんど触れられてはいない。

この映画が衝撃的だというのは、事件そのものの猟奇的な衝撃性ではなく、もっと精神的な面に向き合っているのと、母と息子の絆の在り方にある。それがこの映画の傑出したところなのである。

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どんなストーリーなのか

映画の冒頭、ある男の子(ジャック)の5歳の誕生日がママと本人の二人だけで祝福されるのだが、どうも様子がおかしい。

二人はある狭い部屋の中だけで暮らしていて、誕生日ケーキに立てるローソクがない。外に買い物に行けない事情がそれとなく伝わってくる。母と息子の二人は天井に天窓が一つあるだけの狭い閉ざされた部屋の中だけで生活し、外に出ることが一切できないようだ。

そしてある男が、定期的にこの部屋を訪ねてくる。

そう。実は、この母と息子はその男にズッと監禁されているのだった。

ジャックは生まれた時からこの「ルーム」と呼ばれる部屋の中しか知らず、5年間生きてきた。ママが外は恐ろしいところで、世界はこの部屋の中にしか存在しないと言い聞かせてきたのだ。

そんな風に成長してきたジャックは、ママの言葉をズッと信じてきたのだが、5歳の誕生日を迎えた日に、ママから思わぬことを聞かされる。
母は一大決心をして、全ての真相を幼い息子に伝えたのだ。そして、ここから脱出して、外に出ようと。
母親は7年前に悪い男に拉致され、ジャックはその中で生まれ育った子供だったのだ。

ママは知恵を絞って、このルームからの脱出作戦を考える。男を騙して、とにかく幼い息子を脱出させ、そして外と連絡を取るしかない。
その大役を「世界」を全く知らない5歳のジャックに託すのだった。

果たして、ジャックは無事に部屋から外に脱出できるのか?そしてママも救出されるのか?

ママが考えた危うい脱出劇に挑む幼いジャックの一か八かの挑戦が始まる。果たしてどうなるのだろうか?

実話を元に書かれたベストセラーを作者自身が脚色

エマ・ドナヒューが書いたベストセラー「部屋」を原作に、ドナヒュー自身が脚色した異色の映画。

原作の小説は、世界を震撼させた耳を疑うおぞましい猟奇的な拉致監禁事件を元に書かれたものだ。

その実際にあったおぞましい監禁事件はオーストリアで起きた「フリッツル事件」。実の父親が18歳の娘を地下室に監禁し、強姦を繰り返して7人もの子供を産ませていたという信じられない事件だった。42歳の時に救い出されたので、24年間に渡って監禁され続けたことになる。

発覚した当時、日本でもかなり話題になったのでご記憶のある方も多いだろう。

この事件を元にしたドナヒューの「部屋」そのものが、この異常な猟奇事件をことさらスキャンダラスに暴いたものではない。

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異常性や猟奇性は皆無で、安心して観られる

この映画はおぞましいかぎりの「フリッツル事件」とは全く別物で、似ても似つかないもの。「フリッツル事件」の猟奇性や近親相姦的な要素は皆無である。

そもそも設定がまるで違うので、その点だけはくれぐれも注意してほしい。

主人公の母親はある男によって拉致監禁され、そこで男の子を生み、定期的に母親に会いにやってくるのだが、つい想像してしまう性的な描写は皆無であり、この二人の間にそういう行為があったのかどうかさえ判然としないほどだ。

ズッと監禁され続けていたので、この愛くるしい男の子は犯人との間にできた子供であることは明らかなのだが、母親はその男に子供との接触を激しく拒んでいる。父親であるはずの犯人の男と5歳になる男の子との間には、ほとんど接点がない。

そんなわけで家族揃って安心して観ることができるし、一方でいかがわしい描写を期待している人には、その期待は見事に裏切られることになるので、観ない方がいい。

「ルーム」以外の世界を知らなかった男の子の話し

そう。この映画の真の主人公は生まれた時から狭い部屋の中しか知らずに、この世界は部屋の中が全てだと信じて育てられた男の子ジャックなのである。

その汚れなきジャックが、ルームを脱出して今まで全く知らなかった「新しい世界」を知って、戸惑いながらもその魅力に目覚めて行く話しなのだ。

そこが限りなく魅力的で、感動させられる。信じていた世界がひっくり返るという稀有な体験をしたジャックの成長物語、と言ってもいい。

脱出のスリルとサスペンスは期待しない方がいい

ママが計画した一か八かの生命をかけた脱出劇は確かにハラハラさせられるが、この映画はその点に比重を置いていない。その脱出劇が中心の映画ではないのだ。

だから、そのスリルとサスペンスに期待していると、これも虚しく裏切られることになる。

ママとジャックの「ルーム」からの脱出劇は、映画のちょうど半分くらいで完遂されてしまう。

【ネタバレ注意】その後の「再生」の話し

えっ?!そうなの?と思われる方が多いのかもしれないが、この映画は長い間、監禁され続けて来たママと幼いジャックが、新しい外の世界に飛び出した後の方が、むしろ中心なのだ。

ここからが、この映画の観どころとなる。

脱出後の二人の生き方こそ最大のテーマであり、そこがとてつもなく感動的で、心を揺さぶられるのである。

脱出してから後で、二人を襲ってくる様々な新しい試練。これを乗り越えることができるのか?これがこの映画のテーマに他ならない。

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母親と男の子、二人の演技が圧巻 

ママとジャックという主人公二人の演技がもう本当に圧巻で、素晴らしいの一言。

ママ役のブリー・ラーソンはこの映画でアカデミー主演女優賞を獲得。これには誰もが納得だろう。

ブリー・ラーソンは、この途方もなく難しい役柄を実に切実に演じ切った。揺れ動く心の葛藤が滲み出てくるあたり、本当に素晴らしいと思う。

愛する息子への無心の愛情が痛いほど伝わってくるのだが、脱出後の彼女には「脱出できて救われた」などという単純なことでは済まされない実に錯綜した複雑な感情に、身も心も崩れかかるのだが、そんな複雑な感情をものの見事に演じ切った。

天才子役があまりにも素晴らしい

そのママ役以上に観る者の心を掴んで離さないのは、ジャックを演じた子役。ジェイコブ・トレンブレイ。知る人ぞ知る天才だ。

本当に何と愛らしい、それでいて凛とした強さをも持ち合わせた5歳を驚くほど見事に演じ切る。

ママ役のブリ―・ラーソンとジャック役のジェイコブ・トレンブレイのツーショット
ママ役のブリ―・ラーソンとジャック役のジェイコブ・トレンブレイのツーショット。あまりにも素敵な写真なのでネットから拝借。

 

しかもこの5歳は閉じ込められていた狭い部屋しか知らず、それを全世界だと信じて生きてのに、ある日突然、外の広い世界に放り出されてしまう。

このとんでもない戸惑いと、一方で「世界」はこんなに広くて無限の可能性を秘めているんだと分かった時の感動と高揚感を、ジェイコブ・トレンブレイは、控えめながらも痛いほど見事に伝えてくれる。中々できる演技ではないだろう。本当に感心してしまう。

実は、僕はこのジェイコブ・トレンブレイをギンレイホールの大画面で2回観ている。

僕が激しく感動させられたグザヴィエ・ドラン監督のあの「ジョン・F・トノヴァンの死と生」に出ていたあの少年だ。ブログで詳しく紹介させてもらっている。(若き天才ドランの最新作に感涙!「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」〜)

あの映画の中でもジェイコブ・トレンブレイの存在感はもう特別なものだった。ドノヴァンに憧れて手紙を送り続けたあの男の子。あの映画の中でも、母親役のナタリー・ポートマンとのやり取りには言葉を失ってしまうほどの迫真の演技だった。

もう一本は、ジュリア・ロバーツが母親役を務めた難病を患った男の子を演じた「ワンダー 君は太陽」。これも非常に印象に残る作品だった。

「ルーム」を演じた時は9歳だったようだが、その演技は本当に素晴らしく、全世界から絶賛された。トレンブレイを観るだけでもこの映画を観る価値がある!と言ってしまっても決して過言ではない。

誕生が歓迎されない形で生まれてきた男の子が、どう世界と向き合うのか?そんな息子を抱えた母親はどう生きていくべきなのか?
この男の子が全ての鍵を握る存在となる。

この男の子のように生きていけたら世界は救われる。

本当にそう思わせてくれる感動作だ。

一人でも多くの方に観てほしい

監督のレニー・アブラハムソン(エイブラハムソン)のことは何も知らない。アイルランド出身のまだ若い監督だ。この作品でアカデミー監督賞にノミネートされただけに、人物のクローズアップを多用しながら、細部に拘った実に巧みな演出を見せて、これから先が大いに楽しみだ。

これは本当にいい映画だった。正に良心作というしかない。

拉致監禁という極めて特殊なシチュエーションを描きながら、あらゆる人の人生に力と安らぎを与えてくれそうだ。

観た者全てをしみじみとした幸福感に包み込んでくれる稀有な映画。

一人でも多くの方に観ていただきたい。

 

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