目 次
久々に満喫した邦画の骨太な本格的ミステリー
2年前にかなり話題となったミステリー映画をようやく観ることができた。
「罪の声」である。
主役は2人いる。一人は「鎌倉殿の13人」で主人公の北条義時を演じて一躍時の人になる直前の小栗旬。
もう一人は大人気のミュージシャンにして、俳優としても活躍しているあの星野源である。
公開当時はかなり宣伝され話題となったので、既にご覧になっている方が多いだろうと思うが、僕は最近観たばかり。
大変な感銘を受けた。邦画(日本映画)としては、近年稀な素晴らしい傑作だと感動が収まらなかった。
すっかり心酔してしまった。邦画でここまで夢中になって心をときめかせ、深い感動に包まれたのは稀有なことだ。すごい作品を撮ってくれたものである。
しかも、この映画の題材は中年以上の日本人なら知らない人のいない実際にあった未解決大事件をモチーフとしたものである。
ズバリあの「グリコ森永事件」である。あの一時は日本中を巻き込み、大騒動となりながらも、結局は未解決のまま終わってしまった日本初の劇場型事件だ。
あの未曾有の混乱と社会問題を引き起こしたグリコ森永事件を題材に、その事件の真相に迫ろうとした大作である。
もちろん、グリコ森永事件そのものを扱ったものではない。ほぼ同じ事件を扱いながら、その真相はこうだったのではないかというミステリーなのだが、その切り口が非常に変わっていて、冒頭から観るものを唸らせてやまない。
僕は映画が始まるなり、すっかり引き込まれてしまった。
こんな発想を誰が考えたんだと感嘆してしまうが、正にちゃんと考えた人がいるのである。この映画は知る人ぞ知る、非常に高く評価された原作の小説があって、その小説の映画化なのだ。
褒められるべき人は先ずはこの原作者なのである。
「罪の声」の原作本
2016年に発表された塩田武士によるサスペンス小説である。この小説は非常に高く評価されて、当時大ベストセラーとなったらしい。
2016年度週刊文春ミステリーベストテンの国内部門の第1位に輝いている。第7回山田風太郎賞を受賞した名作だ。
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映画の基本情報:「罪の声」
日本映画 142分(2時間22分)
2020年10月30日 公開
監督:土井裕泰
脚本:野木亜紀子
原作:塩田武士「罪の声」
出演:小栗旬、星野源、松重豊、宇野祥平、古舘寛治、市川実日子、日野正平、宇崎竜童、梶芽衣子、浅茅陽子、塩見三省 他
主な受賞歴:第95回(2021年)キネマ旬報ベストテン 日本映画ベストテン第7位 読者選出ベストテン第5位 助演男優賞(宇野祥平) 日本アカデミー賞については僕はその価値をほとんど認めていないが、何と12部門で受賞。独占した格好だ。
どんなストーリーなのか
京都で紳士服のテーラーを営む曽根俊也(星野源)が、ヒョンなことから父の遺品の中からカセットテープを発見し、再生すると、幼い頃の自分の声が録音されていた。本人には何も記憶がなかったが、それが世間を震撼とさせた未解決事件の際に使われた脅迫電話の声であることは明らかだった。
父があの事件の犯人だったのか?そして幼い自分が利用されて、事件に加担したのだろうか?
衝撃を受けた曽根は真相を確認するために親戚や関係者への聞き取りを、絶望しつつも内々に進めていく。
一方、新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、気乗りがしないながらも、上司からの指示を受けて、昭和最大の未解決事件の真相を追いかけ始め、イギリスにまで行って調査するが中々真相に辿りつけない。
そんな中で阿久津も脅迫に使われた何人かの子供の声が気になってくる。
やがてこの2人がクロスした時に、想像を絶する事件の真相が明らかになっていく。曽根の他にも録音に加担した子どもたちがいたのだが、どうなったのだろうか?
そもそもこの事件の首謀者は誰で、その狙いはどこにあったのか?
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秀逸な第一級のミステリー
これは秀逸な第一級の本格ミステリーである。
事件の真相を究明しつつ、その事件に巻き込まれた加害者でありながらも、大人に利用された被害者に他ならない無垢な子供たちの辿った悲惨な運命を真っ正面から捉え、決して逃げることなく描き切る。
大したものだ。心から感動させられた。
犯罪そのものと、それに巻き込まれたことで悲惨な人生を送らざるを得なかった周囲の人々。
それを一切妥協することなく、とことん描き切った。
実に感動的な歴史に残るミステリーにして、堂々たる人間ドラマといっていい。
巻き込まれた子供たちの悲惨な運命に嗚咽
何と言っても一番心に迫ってくるのは、金に目のくらんだ大人たちに利用されて、重大な犯罪に加担することになった子供たち。
まさかそれが実際の犯罪に使われるものとは全く知らず、親の言うままに脅迫文を朗読させられた子供たち。
それが世間を震撼させた未曾有の劇場型事件に使われたことを知った後は、もう真っ当な人生を送れるわけがない。
それぞれ将来に夢を抱いていた少女も少年も、すっかり人生が狂ってしまう。
その顛末を冷静に見つめる脚本も監督もすごいとしか言いようがない。
この子供たちの悲惨な運命に涙が止まらなくなる。
曽根は例外的にまともな人生を歩んでくることができたことが伴明したとき、曽根も、映画を観ている我々も嗚咽しか出てこなくなる。
新型コロナを呪いたい!そう思わずにいられない。
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真摯な人間ドラマに深く感動させられる
この映画には感嘆させられた。悲惨だったのは、巻き込まれた子供たちだけではなかった。
犯人にもそれなりの思いはあった。決してただの愉快犯ではなかったのだ。
それがある意味で、ドンドン一人歩きしてしまう。
一旦事件となればそれを利用して暴利を貪ろう、不当な利益を搾取しようとする厄介な連中が関わってくる。
こうして、この事件に関与したあるいは巻き込まれた全ての人間が不幸になっていった。
これは事件の真相の究明だけをする単純なミステリーでは決してなく、実に奥の深い人間ドラマなのである。
あの「逃げ恥」の監督と脚本!
この素晴らしい脚本と監督を務めたのは、星野源と後に奥さんとなった新垣結衣が主演を務めたあの「逃げ恥」こと「逃げるのは恥ずかしいが役に立つ」のスタッフなのである。
監督は土井裕泰。脚本は野木亜紀子というあの黄金のバッテリーが作り上げた映画なのである。
何といっても原作の塩田武士の原作の素晴らしさがあるのだろうが、この細部にまで神経の行き届いた丁寧な脚本と、観る者を引き付けて離さない堂々たる演出が、この映画をここまで感動的なものにしたと思う。
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豪華俳優陣の演技はいずれも観応え十分
ダブル主演と言っていい小栗旬と星野源はいずれも印象深く、秀逸だった。
実は正直に言うと、僕は俳優としての星野源はあまり好きではない。だが、この映画では星野源のいいところが全面に出たのではないだろうか。
中々味わい深いものがあった。
この映画には主演の2人以外にも錚々たる役者が勢揃いしている。みんな実にいい味を出しており、見事な演技合戦となった。
中でも圧倒的に強いインパクトを受け、圧倒されるのが宇野祥平だ。本当に強烈な印象を受け、胸を打たれてしまう。
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映画の最後に流れるUruの主題歌が感動に拍車
映画を観終えて感無量の中、何とも素敵な美しい女性の歌が流れてくる。
その声はどこまでもピュアで、心の琴線に響いてくる。
何とも切なく、胸に迫る透き通った声。この歌にまたやられてしまう。
映画を観て深く重い感動に包まれている胸中に、この切なくも美しい歌が拍車をかけ、また涙が込み上げてきてしまう。
これはあの正体不明の歌手として有名なUruが歌う「振り子」。
実に美しく心に染みる歌。歌詞が映画の内容と上手くシンクロし、夢中になって字幕、つまり歌詞を追いかけてしまう。
そしてどうしたってウルウル来てしまう、これには。
暗くて重い映画だが本当にいいものを観たな、と映画のワンシーン、ワンシーンを思い浮かべながら、その至純な歌声に身を委ねることになる。
どうしても観てほしい邦画の大傑作
これは本当に観応えのある日本映画に久々に登場した堂々たる感動作だ。スタッフ、キャスト、この映画に関わった全ての人がこの作品の持つ感動を真摯に伝えようとベストを尽くしているのが、肌で感じられる。
グリコ森永事件の真相にまで迫り得た稀有な傑作
これはもちろん完全なオリジナル作品で、グリコ森永事件の真相に迫ったドキュメンタリーでもなければ、その事件の真相を想像したものでもない。
グリコ森永事件をモチーフにした全く別の事件を描いている。
だが、実際に起きたグリコ森永事件もきっとこういうことではなかったのだろうか、と思わせるほどの迫真性と説得力に満ち溢れている。
果たして、ここに描かれた世界がどこまで実際のグリコ森永事件に肉薄しているのかは、分かろうはずもないが、実に感動的な素晴らしい内容に仕上げてくれたことは、どんなに感謝しても仕切れない。
これは映画ファンならどうしたって観てもらいたいものだ。
決して期待を裏切らない稀有な傑作だと断言したい。
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