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江頭路子が描くもう一つの反戦絵本
「せんそうしない」の絵を担当した江頭路子さんに、もう一冊、戦争に反対し、平和を希求する絵本があった。それが「おかあさんのいのり」である。
これを紹介してくれたのも、例のM子さんだった。
おととい配信したばかりの「せんそうしない」の読み聞かせ会の記事で、状況を詳しく報告してきてくれたあのM子さんだ。
おの読み聞かせ会のレポートと一緒に、「実は江頭さんにはもう一冊、戦争に反対する絵本があるんですよ」って、教えてくれたのである。
M子さんは何度も書いているように、元々僕が書いた「信長貴富の記事」を読んでくれて、『「せんそうしない」を思い出した』と僕にあの絵本を教えてくれた恩人だ。
今回、その方が更に、江頭さんの「おかあさんのいのり」の存在を教えてくれたわけである。
本当に感謝するしかない。
僕はまたいつものとおり直ぐに絵本を注文して、早速読んだという次第。
今回は江頭路子さんが絵を描いたもうひとつの戦争に反対する絵本「おかあさんのいのり」を取り上げる。
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「おかあさんのいのり」の基本情報
多数の絵本を出版している岩崎書店から出ている。
2015年7月31日第1刷発行。僕の手元に届いた本は、2024年1月31日発行の第2刷である。
作は武鹿悦子。絵は江頭路子。
「せんそうしない」の方を念のため確認しておくと、2015年7月15日第1刷発行だ。
僕の手元にある本は2022年8月23日発行の第9刷なので、こちらの方がかなり読まれていることが推察できるが、ポイントは発行日である。
「せんそうしない」 2015年7月15日第1刷発行。
「おかあさんのいのり」 2015年7月31日第1刷発行。
何と同じ年の同じ月。2週間の差があるだけだ。
2015年は、日本の終戦、というよりも第二次世界大戦が終わった1945年から70周年に当たるメモリアルな年。
終戦日(第二次世界大戦終了日)はもちろん8月15日なので、この江頭路子が絵を描いた2冊の反戦をテーマにした絵本は、この終戦70周年に合わせて、その前に出版したものであることは間違いない。
総ページ数は30ページ。武鹿悦子の詩は「せんそうしない」の谷川俊太郎の詩と同様に基本的にほとんど全てひらがなだけで表示されている。
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武鹿悦子のこと
例によって、本書の扉に掲載されているプロフィールをそのまま、貼り付ける。
但し、作品名は一番省略させてもらう。
1928年、東京都に生まれる。1945年、東京都立第八高等女学校卒業。
1951年頃より、NHKの「歌のおばさん」に童謡を執筆、童謡創作グループ「鵞鳥の会」に参加する。童謡『こわれたおもちゃ』(国土社)で赤い鳥文学賞、日本童謡賞を受賞。詩集『ねこぜんまい』(かど創房)でサンケイ児童出版文化賞、日本童謡賞を受賞。『武鹿悦子詩集 星』(岩崎書店)で、日本児童文学者協会賞、日本童謡賞を受賞。2011年に、第50回児童文化功労賞を受賞。「くすのきだんち」シリーズなど著書多数。奈良県在住。
江頭路子のこと
「せんそうしない」で紹介しているが、今回は「おかあさんのいのり」に掲載されたプロフィールを貼り付けておく。
1978年、福岡県に生まれる。絵本に『あめふりさんぽ』『さんさんさんぽ』(講談社)、『なきごえバス』(白泉社)、『いろいろおてがみ』(小学館)、『せんそうしない』(講談社・文:谷川俊太郎)、(中略)などがある。また雑誌や教科書など挿絵も手がけている。現在、静岡県在住。一児の母。
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「せんそうしない」と同時期の姉妹作
日本の終戦後70年にちなんで、ほぼ同時に出版されたこの2冊の類似について、もう少し触れてみる。
文(詩)を書いた二人の詩人のことが非常に重要だ。
谷川俊太郎は1931年生まれの92歳。武鹿悦子は1928年生まれの95歳と、お二人とも驚嘆すべき高年齢。
それでいてお二人ともまだ現役でご活躍をされていることには、ただひたすら頭が下がるばかりである。
先日取り上げさせてもらったあの合唱界の神とも呼ぶべき田中信昭先生は、96歳での大往生だった。
時代に絶大の足跡を残した90代がこんなに頑張ってくれているのは本当にかけがえのないことだ。
1945年の終戦から70周年に当たる2015年に相次いで出版された江頭さんが描いた2冊の絵本。
詩(文)を担当されたお二人の詩人は、1945年の終戦当時、10代半ばから後半の若者だった。しっかり日本の戦争時代をリアルタイムで体験してきたお二人である。
あれから70年が経過して戦争の記憶がある高齢者がドンドン少なくなってくる中にあって、どうしてもあの当時の悲惨な戦争の状況を後世に伝えたい。これからの世代を担う若者に伝えたい。
そんな切実な思いから作られた詩であり、絵本であることは痛いほど良く伝わってくる。
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戦争を知らない江頭さんが見事に応えた
ところがおもしろい点は、この記念すべき2冊の戦争を起こしたくないとする絵本が、戦争を知らない若い世代に属する江頭路子が担当している点だ。
詩(文)を担当したのがいずれもリアルタイムで戦争を体験してきた現在90代の戦争の悲惨さをよく知っている世代なのに、肝心の絵を担当したのは、まだ40代前半と若い江頭さんが担当している。
谷川俊太郎・武鹿悦子と江頭路子とでは年齢差が約40年もある。ほとんど孫に当たる年齢だ。
このアンマッチというかギャップが実に興味深い。
敢えて戦争を知らない江頭に描かせた
これは僕の全くの推測に過ぎないが、谷川俊太郎と武鹿悦子という大御所お二人が、敢えて望んだ結果ではないかと考えている。
文(詩)も絵も、どちらも実際に戦争を実体験している人が関わったなら、それはそれで感動的な作品が生まれたかもしれないが、それを敢えて絵のほうは実際の戦争は知らずに、想像するしかない若い世代に描いてもらうことによって、もっと広がりを見せ、もっと大きな世界を取り込めるのではないか。
詩人たちは、この反戦の思いを若い世代に伝えていきたいと願っている。そしてその絵本の絵を描く人も実際の戦争は知らない孫世代。そんな戦争を知らない世代の代表者として悪夢のような戦争の悲惨さを想像して絵を描いてもらう。
もうそれだけで大長老たちの思いは半分は達成されている。戦争の悲惨さを実際に知っている者たちだけで作っても敬遠され、見向きもされないかもしれない。
ここに戦争を知らない孫世代の江頭路子が若手代表として作者サイドに加わることによって、オール世代、オールジャパンとして非常に幅広い年代からの変わらぬ「戦争しない」「銃は持たない」のメッセージとなる、そう考えたのないか。
僕はそんな気がしてならない。
その意味では、この絵本の制作に若い江頭路子が加わっていることの意味は、限りなく大きい。若くて戦争を実際には体験していない江頭が絵を描いているからこそ、価値がある。
僕はそう思う。
人気絵本作家の江頭に描いてもらう意義
実際問題として、もう一つあるだろう。
江頭路子は絵本作家として、絵本の絵の描き手として絶大の人気を誇る売れっ子である。江頭路子の絵本は多くの子供たちに読まれており、子供たちに読ませたいと江頭の絵本を購入する保護者も非常に多い。
かくいう僕の長男夫婦も熱心なファンで、何冊も購入して娘たち(僕にとっては孫)に読み聞かせてきた。
僕は、どうしても戦争絡みの絵本を紹介してしまうのだが、誤解があってはいけないが、江頭が反戦の絵本ばかり描いているわけでは、もちろんない。
僕が知る限り、江頭の反戦絡みの絵本は、この終戦70周年にちなんだ2冊だけのようだ。
そんな人気絵本作家が描いた絵本として、多くの子供たちや保護者に読んでもらえることは谷川俊太郎にしても、武鹿悦子にしても大歓迎のはずである。
こういうものは、実際に読んでもらうことに最大のメリットがあるのだから。
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「せんそうしない」よりもっとストレート
武鹿悦子の文は、非常に分かりやすい。あまりにもストレートで単刀直入過ぎるくらいだ。これだけ問題の核心に躊躇なく切り込まれると、それはそれで読む者の心と脳裏にグサリと突き刺さることになる。
特に10ページの「て」の話し。この部分だけは直接の引用を許していただこう。最も感動的な部分の一つである。
この かわいい ても
いつか かあさんのてを つつみこむほど
つよく おおきくなるでしょう
その てが
どうか
銃など にぎりませんように
何の解説も要らないだろう。
この絵本の文は、全てひらがなで書かれていると紹介したが、実は、正確ではない。全体を通じて、ホンの数カ所、漢字が出てくる。それが「銃」である。「じゅう」とルビが付いている。他にも「悪魔」など、武鹿悦子さんが忌み嫌う言葉には漢字が使われている。
作者のこの「銃」に込めた特別な思いが突き刺さる。
大きくなっても「銃は握るな」と心から祈る。男の子を産んだお母さんが祈る。
この絵本のタイトルは「おかあさんのいのり」である。
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武鹿悦子の言葉が心に突き刺さる
「おかあさんのいのり」は非常に分かりやすく、思いがストレートに伝わってくる。
武鹿悦子は1928年の生まれなので、日本が1945年に敗戦に至る長い戦争の時代に、最も楽しく感受性に満ち溢れていたであろう貴重な少女時代を過ごしたことになる。
18歳で終戦を迎えたということは、そういうことなのだ。
今でいう中学、高校時代をずっと戦争の中で生きてきた。
この絵本を一読すれば、そんな武鹿悦子の思いが冒頭から最後まで満ち溢れていて、涙を禁じ得ない。
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3分で読めるが、記憶は一生
「せんそうしない」を紹介したときに、僕はブログの中で「1分で読めるが、記憶は一生」というキャッチコピーを使わせてもらった。
今回の「おかあさんのいのり」は、「せんそうしない」よりもホンの少し長い。丁寧にゆっくりと読むと2~3分かかる。
僕は試しに、冒頭から武鹿悦子や江頭路子の名前を含めて、声に出して録音してみた。朗読である。
かかった時間は3分7秒だった。かなりゆっくりと嚙みしめるように読んだ。江頭さんの絵もしっかりと眺めたが、それでも3分ちょいだった。
そこであらためて言わせていただく。
「3分で読めるが、記憶は一生」。本当に一生忘れることのできない強烈な記憶となって心の一番深いところに刻み込まれるだろう。
ここにはまた瓦礫の絵が出てくる。もっと強烈な絵も出てくる。
だからこそ祈らずに要られない、戦争という名の悪魔の消滅。撲滅。
誰一人として銃を握らなくてもいい社会に、本当になってほしい。僕もそう祈らずにいられない。
現在、95歳となる武鹿悦子の後世に伝えたい渾身の思いを、この絵本を通じて伝わってほしい。
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