目 次
話題騒然となった「木嶋佳苗」の事件
その事件は主に平成21年に起きた。2009年の秋。木嶋佳苗による連続殺人の疑惑だった。今から約15年前のことだ。
あの当時は連日このニュースで溢れかえり、来る日も来る日も木嶋佳苗の話題で持ち切りだった。ただ内容が子供には聞かせられないようなものばかりで、当時、報道はどうなされていたのだろうか?昼のワイドショーは木嶋佳苗一色だったと思うが、そのあたりはどのように対応されていたのだろうか?
この事件の経緯と報道をリアルタイムで体験していた僕だが、ヒートアップされたであろう実際の報道がどのようなものだったか、詳細には覚えていない。
殺害を疑われる女性の周辺で、男性の不審死が相次ぎ、いずれも練炭などが用いられた計画的な犯行だとされた。
被疑者・木嶋佳苗の周辺で亡くなった男性は、一時は6名以上いると報道されていた。
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なぜここまで世間の注目を集めたのか
この事件が特に注目を集めたのは、その「稀代の毒婦」と言われた被疑者の木嶋佳苗の容姿が、普通なら男が寄り付かないだろうと思われることだった。どうやったらあんな容姿の女が、あれだけ男を集め、貢がせることができたんだ!?という疑問と驚嘆が社会の耳目を集めることになった。
木嶋佳苗はハッキリ言って「デブ」で「ブス」だったからだ。
「デブ」とか「ブス」という言葉も現在では活字にすること自体、憚られるような時代となって「ルッキズム」への批判も強まる一方だが、このブログでは当時の社会情勢の振り返りとして使わせていただく。
被疑者が美人、あるいは魅力的な女性だったら、多くの男が夢中になって言い寄り、その絶世の美女が容姿の魅力と性的欲望だけで自分にいい寄ってきたダメ男達を抹殺した、ということで済んでしまったかもしれない。
ところが木嶋佳苗はそうではなかった。誰もが、第一印象として、あんなデブでブスな女に何の魅力があって男たちが貢いだのかと、逆に異常な興味をそそられたのである。
最終的には木嶋佳苗は殺人については3人の殺害で起訴されたが、それ以外にも佳苗の周辺で原因不明で亡くなった男性が2名以上いた。
実は、あまり知られていないかもしれないが、佳苗に騙されて、あるいは自発的に佳苗に金を渡した男が20人近くいたのである。
佳苗が数多くの男性から貢がせた金は総額で1億円以上に及び、対象の男性は判明しているだけで殺害したと訴えられた3名を含めて17人にも及ぶ。
ホンの2~3年の間に17人の男性から1億円以上の金を貢がせ、その中でも特に多額の金を出した3人の男性を殺害したとされたわけである。
その人数も氷山の一角だと言われている。名乗り出た被害者はホンの一部だったらしい。
そんな女が絶世の美人だったら多くの人が納得したのかもしれない。木嶋佳苗はそうではなく、「デブ」で「ブス」だった。
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法廷でセックスが赤裸々に語られる驚嘆
あらゆるマスコミがこの事件を扇情的に書き立て、日本中の老若男女が興味本位でこの事件をフォローし始めた。
すると、実は木嶋佳苗はあんなルックスなのだが、セックスが非常に上手くて、滅多に存在しない「名器」の持ち主だった、男たちはその木嶋佳苗のセックスにハマり込んでしまったという報道が伝わってくる。
日本中が大スキャンダルに陥る。
実際に、本書を読んで改めて驚かされたが、木嶋佳苗の裁判では、その法廷の中で、木嶋佳苗自身の口によって、セックスのことが赤裸々に話された。
自分は特別な肉体の持ち主で、「みなさん私のことをほめてくださった。具体的には、テクニックというよりも本来持っている機能が高いということで云々」と、法廷の中でセックス談議が繰り広げられ、法廷内がパニックとなったようだ。
こんな事件が他にあっただろうか?
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男と女、セックス、ルッキズムなどテーマが錯綜し、深い
そんなこんなで、この連続不審死事件は、殺害の有無という範疇を通り越して、男と女の関係、セックスの本質、売春行為の是非、ルッキズムの是非と本質など、非常に多くの今日的な問題を包含し、しかもそれらが複雑に錯綜する、一般に思われているイメージよりも深遠なテーマを内在することになった。
究極的には、この社会の男女の非対称性と差別の構造が問われることになる。
容姿が悪くて、一般的には蔑まれる女性が、自分に備わった特別な武器(「名器」)を使って男どもを惹きつけ、そんな男達への復讐を果たすような側面も帯びてきて、佳苗は一時、30代の若い女性たちの熱い支援を受けて、カリスマ的な存在にまでなった。
「カナエ現象」という言葉まで誕生した程だ。佳苗を追っかける「カナエギャル」まで出現した。
どうしてこんなことになるのだろうか?ここには色々な意味での社会の闇と膿みが潜んでいるようにも思える。
僕もこの事件に非常に興味を持った。最初は多くの一般人のようにあんなルックスの女にあれだけ多くの男が群がった事実が信じられないという一心だったが、そのうちこれはもっともっと奥の深い問題だなと気づき始めた。
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木嶋佳苗事件と似たような事件が続出
更に、ほぼ時を同じくして、木嶋佳苗の事件と同じような女性が何人もの男たちを連続殺人する事件がいくつか続いた。
島根県で起きた上田美由紀事件。こちらは2人の殺害。上田美由紀の場合も木嶋佳苗とよく似た特徴を持った事件だった。いずれも30代の女性。美人でなく、太っている。
他にも京都で7人もの男性が周辺で亡くなっている筧千佐子の事件もあった。筧千佐子は事件当時67歳だったので少し状況は異なるが、結婚相談所や婚活サイトを舞台にした点では一緒である。
結婚相談所や婚活サイトを舞台にした女による連続殺人事件。それがいずれも容姿的には恵まれていなかったというあたり、根の深い現代の闇を感じてしまう。結婚できない男たちが溢れているということが背景に横たわっている。
僕は、特に木嶋佳苗に興味を持って、以前に購入してあった北原みのりの「木嶋佳苗100日裁判傍聴記」を読み始めた。
先に読んでいた本が何冊もあったので、どうかなと思いながらも読み始めると、あまりのおもしろさに止まらなくなって、一気に読んでしまったという次第。実におもしろく、興味深かった。
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北原みのり「木嶋佳苗100日裁判傍聴記」の基本情報
講談社文庫。2017年9月14日第1刷発行。僕の手元にある文庫本は2019年6月21日発行の第2刷である。僕はこの本を購入してから3年前後、積読状態にしていたようだ。ちなみに現在はこの文庫本は絶版で入手できない。非常に残念なことだ。
但し、幸い電子書籍として読むことができるのでご安心いただきたい。
本書は、元々は2012年4月に『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』として朝日新聞出版より刊行され、2013年10月に講談社文庫より文庫化されたものを改題し、巻頭に佐藤優との対談を追加したものである。
スティーヴン・キングの「書くことについて」と違って、非常に明解で分かりやすい経緯の説明はありがたい。
いずれにしても、2013年に一旦文庫化されたものを、木嶋佳苗の死刑が確定した2017年に新装改訂版=「佐藤優対談収録完全版」として追加出版したものである。
佐藤優には以前深く失望し、訣別したが
佐藤優についてはここで一言触れておきたい。僕は同志社大学の後輩だからということとは関係なく、佐藤優の熱心な読者だったのだが、ある本を契機に、佐藤優にいたく失望させられ、それ以降、佐藤とは訣別し、彼の本は今後一切読まないことにしたことはこのブログでも書かせてもらった。
今回は本書の著者北原みのりとの対談だけなので、読んでしまったのだが、悪くない。木嶋佳苗の死刑確定を受けて、佐藤優との対談を何と冒頭に持ってきて新たに新装改訂版(完全版)として出版しただけのことはあると感銘したことは、正直に告白しておく。
その佐藤優との対談を含めて、全277ページからなる。それなりのボリュームである。
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木嶋佳苗100日裁判傍聴記の全体構成
全277ページは以下のような全体構成となっている。
◎新装改訂版『木嶋佳苗100日裁判傍聴記』刊行にあたって
◎対談 死刑で事件は終わらない 佐藤優×北原みのり
◎はじめに
第1章 100日裁判スタート
第2章 佳苗が語る男たち
第3章 佳苗の足跡をたずねて
第4章 毒婦
◎おわりに
◎あとがき
◎【資料】事件概要
◎対談 母娘関係から読み解く木嶋佳苗 信田さよ子×北原みのり
◎解説 真梨幸子
かなり丁寧な作りとなっていて、この1冊で木嶋佳苗の裁判のことはもちろん、木嶋佳苗という人物のこと、北原みのりがこの事件を通じて感じているもやもや感というか、言葉にし難い複雑な感情が痛い程伝わってくるのが、本書の最大の特徴だ。
タイトルにある裁判傍聴記は、第1章と第2章にほとんど集約されていて、本書は裁判傍聴記となっているが、この社会を大いに揺るがした木嶋佳苗という人間の真相に迫ろうとする迫真のドキュメンタリーと言っていいだろう。
100日間に渡る裁判の傍聴記だけに収まらず、人間木嶋佳苗の真相に迫ろうとしているのだが、その明確な答えが出たかどうかは、何とも言えない。
それくらい、木嶋佳苗という人物は一筋縄ではいかない複雑怪奇な人間なのである。
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著者の北原みのりについて
いつものように本書に掲載されているプロフィールをそのまま流用させてもらう。
1970年、神奈川県生まれ。作家。津田塾大学卒。96年女性のためのセックストーイショップ「ラブピースクラブ」設立。著書には『アンアンのセックスできれいになれた?』、『さよなら、韓流』、『メロスのように走らない。女の友情論』、『性と国家』(佐藤優と共著)などがある。
これだけでは中々イメージが湧かない。
ここには載っていないが、北原みのりは「わいせつ物公然陳列の疑い」で逮捕され、留置場に数日間留置され、、罰金30万円の略式命令を受けたことが重要だ。
2014年12月3日、北原みのりの女性のためのセックスグッズショップで、ろくでなし子の女性器を象った石膏にデコレーションを施したアート作品を展示したことにより、逮捕された。
北原はこの時の体験を『創』の2015年5・6月号に寄稿している。その中で「私が理不尽に感じたのは、警察に対してだけではなく、警察発表のままに報じるマスコミや、私とろくでなし子さんを同一化してまつりあげる人たちや、『性器はわいせつじゃない』と言わなければいけない状況とか、ろくでなし子さんの再逮捕を招いた闘い方とか・・・色々なことに対してで、考えれば考えるほど辛かった」と書いている。
【後編】に続く
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入ください。
実は、本文中でも少し触れたが、何とこの傍聴記、文庫本(講談社文庫)は現在、絶版となって入手できない模様。何たるスキャンダル!
但し、幸い電子書籍は入手できますので、電子書籍をお買い求めください。
748円(税込)。