【第2楽章】からの続き
目 次
若き日の「コンポジション第1番」への挑戦
高校2年で間宮芳生の「合唱のためのコンポジション」を聴いて、間宮芳生の音楽にすっかり心を奪われてしまった僕は、やがて実際に自分でこの音楽をどうしても演奏してみたくなった。
間宮芳生の音楽を実際に演奏してみようということだ。
初めて間宮芳生の音楽に接した僕は、当時、高校の音楽部(合唱団)の指揮者を務めていた。
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高校時代の挑戦
そこで、間宮芳生の音楽を演奏する決心をした。
音楽を好きになってその音楽を演奏したいと思うことと、実際に演奏してみる、つまり演奏できるのかどうかとは別のこと。両者の間には大きな乖離がある、当然のことだ。
僕が目指したのはもちろんコンポジションの第1番「混声合唱のためのコンポジション」だった。
この曲は4つの楽章から構成されていて、第1楽章は例の木やりで男声合唱。これは除外するとして第2楽章から第4楽章までの3つの曲がターゲットとなる。
散々検討したが、僕のような音楽の専門教育を受けた人間ではなく、しかも松本の田舎の高校生には、到底手が出せないと諦めざるを得なかった。
だが、僕は諦めが悪いというか往生際の悪いところがあって、ここまで心を奪われてしまった間宮芳生の音楽を演奏することを、どうしても諦め切れなかった。
そこでコンポジション第1番の3つの楽章の中から、一番演奏しやすいと思われた第3楽章にトライしてみることにした。これならもしかしたら何とかなるだろうという考えだった。
この1曲と取り組むだけでも、間宮芳生の「コンポジション」を演奏してみたということにはなるだろう。
僕は間宮芳生と「コンポジション」に拘っていた。
だが、いくら何でも1曲だけというわけにはいかない。最低でももう一曲は必要だった。
そこで、別の手を考えた。間宮芳生のコンポジション以外の合唱曲の演奏だ。
もう一曲、間宮芳生の合唱作品から選曲することにした。
間宮芳生の混声合唱のための「北国の二つの歌」という曲の第1曲目を取り上げ、第1コンポジションの第3楽章と組み合わせて1ステージとすることにした。
「北国の二つの歌」も間宮芳生の渾身の作品だった。従来までの日本民謡の合唱編曲とは一線を画した大変な意欲作で、非常にレベルの高い難曲だった。田舎の高校生が歌うにはあまりにも無謀な曲だったと言ってもいい。
僕の高校の音楽部には、顧問として音楽の教諭がいたが、指揮者はあくまでも団員である高校生であり、普段の練習も本番でもその学生指揮者(高校生指揮者)が全ての責任を受け持っていた。選曲も指揮者が決める。
ということで、当時高校2年生だった僕は音楽部の指揮者として、間宮芳生の「北国の二つの歌」の1番と「合唱のためのコンポジション第1番」の第2楽章の2曲を取り上げ、これを春の市民会館での市内高校合唱大会の演奏曲とすることにした。
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メンバーの誰もが夢中になった音楽
結果は大成功だった。
目新しい間宮芳生の音楽に、同級生はもちろん後輩たちも非常に魅力を感じてくれて、かなり感動的なステージとなったことを良く覚えている。
そして夏の「縣陵祭」という文化祭での定期演奏会では、この間宮芳生の2曲と、以前、田中信昭が亡くなった際のブログで詳しく報告させていただいた例の感動的なエピソードを呼ぶことになった高田三郎の「わたしの願い」の2曲がメインとしてプログラムが組まれたわけである。
指揮者の僕にとっても合唱団のメンバーにとっても、間宮芳生の音楽は技術的には非常にレベルが高く、演奏には大変な困難を伴ったが、ほとんどのメンバーが間宮芳生の音楽の虜となった。
そして、驚いたことにその後、数年間に渡って、我が母校の音楽部では定期演奏会で間宮芳生の作品を連続して取り上げることになった。
一つには、僕が間宮芳生の音楽は我が音楽部に向いていると強く勧めたことも大きな理由だったが、みんなが間宮芳生の作品を好きにならなければ、いくら先輩が勧めたからといってもその作品を取り上げ続けるなんてことは有り得ない。
やっぱり間宮芳生の音楽そのものの魅力が、若い歌い手たちの心をガッチリと掴んでしまったのである。
特に僕が3年生だった時の新入生である1年生が間宮芳生の音楽を気に入ってくれて、その中から2年後に指揮者になったのが、今日でも親交が続く例の友人だ。
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後輩が間宮芳生を引き継いだ驚異
その彼も間宮芳生の「コンポジション」に夢中になって、僕が初めて間宮芳生作品を取り上げてから2年後、遂に彼が指揮者としてコンポジションの第1番の三曲を全て演奏会で取り上げてくれるに至った。大した後輩たちだった。
こうして高校時代から間宮芳生にどっぷりと浸かり切った僕は、大学生になっても更に間宮芳生の音楽への憧れと、もっと演奏したいという思いが強まる一方だったが、それは直ぐに実現することになった。
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大学の演奏会で遂に第1番を演奏した
僕は同志社大学のある混声合唱団で、副指揮者を含めて通算して3年間指揮者として活動することができた。その間、様々な傑作や名作を演奏する機会に恵まれたが、何と言っても忘れ難いのは間宮芳生の「合唱によるコンポジション」の第1番の演奏だった。
これは僕が同志社の2回生、某混声合唱団の正指揮者としての最初の大きなステージでのことだ。
この混声合唱団でもプロの合唱指導者や指揮者を置いておらず、選曲はもちろん練習指導も本番の演奏会での指揮も全て学生たちだけで活動していた。
幸運なことに僕は晴れて正指揮者に任命されたのだが、その指揮者としの最初の大きな舞台であった京都市内での有力合唱団とのジョイントコンサートで、思い切って間宮芳生の「合唱によるコンポジション」の第1番を取り上げることにした。
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画期的な演奏会となって大成功
実は当時、僕は大きな壁に直面し、指揮者としての試練の場を迎えていたのだが、そんな不安や心配点を全て払拭することになった僕にとっても忘れ難い音楽体験となったのが、間宮芳生の「合唱のためのコンポジション」であったことは、非常に感慨深い。
僕はこの間宮芳生の「コンポジション」の練習を進める中で、失いかけていた自信を取り戻し、メンバーの信頼も獲得することができて、名実ともに指揮者として新たな確固たる出発を期することができたのだ。
それが間宮芳生であり、コンポジションであったとは、今となっては運命的なものを感じてしまう。
ジョイントコンサートでのコンポジションの演奏は大成功となり、わざわざ松本から聴きに来てくれた例の後輩指揮者が、「こんなにすごいコンポジションは初めて聴いた」と絶賛してくれたことを、昨日のことのように鮮烈に覚えている。
それ以来、間宮芳生のコンポジションは常に僕の傍らにあった。
あの最高傑作の「鳥獣戯画」も、さすがに合唱団全体として取り上げるわけにはいかなかったが、パートリーダーを集めての技術委員会では一部を歌ってみるなどして、大いに楽しませてもらった。
僕にとっての一里塚となった「合唱のためのコンポジション第1番」は、僕と合唱団の十八番となって、機会ある度に何度も演奏を繰り返してきた。
こうして、間宮芳生の作品、特に「合唱のためのコンポジション」は、僕にとって最も重要な合唱曲の一つとなった。以来50年近く、間宮芳生の音楽は僕にとって特別な音楽としていつも僕の身近に鳴り響いてきた。
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モンテヴェルディ・モーツァルト・三善晃・間宮芳生
僕は「4M」という言葉を普通に使っている。音楽史上の天才で、僕が愛して止まない作曲家4人のことだ。
「モンテヴェルディ・モーツァルト・三善晃・間宮芳生」の4人である。この4人は並び立つ存在。
僕は日本の三善晃と間宮芳生は、モンテヴェルディとモーツァルトに遜色のない天才だと信じて疑わない。
ちなみに、これに「バッハとドビュッシー」を加えてくれれば他には要らないと言いたくなる。
実際には、テレマンやシャルパンティエ、ラモーのバロック音楽。シューベルトとシューマン、ロッシーニやスメタナ、ヤナーチェク、ムソルグスキーなども外せないのだが。
さて、そんな僕にとってかけがえのない作曲家の間宮芳生が亡くなってしまった。95歳だった。さすがに寂しい。
間宮芳生の音楽を熱心に指揮し続けてくれた田中信昭も96歳で亡くなってしまった。三善晃はもう少し早く80歳で亡くなってしまっている。
好きな作曲家も指揮者もみんな死んでしまったような気がする。やり切れない。
【第4楽章】に続く
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