無料で観る昨年公開映画の傑作(続・続報)【共通】

昨年公開されたばかりの話題作にしてキネマ旬報ベストテンにおいて高い評価を得た傑作が、Amazonプライムで無料で観放題という信じられない話しを取り上げ、そこで実際に観た映画を集中的に紹介してきた。

先月まで紹介した映画は5本に及んだ。

実はまだあったのだ。

そして、更に狂喜すべきニュースが舞い込んできて、またまた驚嘆!

3月中旬(2025年3月)になって、そのAmazonプライムの見放題に新たに続々と大変な傑作、話題作が加わったのだ。

本当にちょっと信じられないようなラインナップなのである。

何と言っても昨年の日本映画の話題を独占した感のある「侍タイムスリッパ―」が加わったことは、信じ難い。先日発表された日本アカデミー賞の最優秀作品賞に輝いたばかりである。

そして河合優実の「ナミビアの砂漠」、外国映画ではあの「関心領域」まで観放題に加わった。どうしてこういうことがあり得るんだろうかと、毎度疑問を呈するばかりなのだが、映画ファンとしては、こんなに嬉しいことはない。

嬉しい悲鳴が止まらない。

再度、条件を確認【共通】

① 昨年公開されたばかりの新作映画
② キネマ旬報ベストテン(読者選出ベストテンを含む)に入った高評価の映画
➂ Amazonプライムで無料で観放題の対象映画

この条件を満たす映画が、紹介した5本以外にもあって、3月に入って更に屈指の傑作、話題作が続々加わったということだ。

今回は、その新たに3月からAmazonプライムの見放題に加わった大問題作を取り上げたい。

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凄い映画を観てしまった

「関心領域」

これは本当にビックリさせられる大変な映画だった。

実験映画とも言えるが、一方で非常にリアリズムに徹した映画とも言える。一人でも多くの人に観てもらいたい凄い映画であることは間違いない。

ちょっと興奮が収まらない衝撃を受けている。

「関心領域」のブルーレイ
「関心領域」のブルーレイ。実はAmazonプライムで無料で観られる前にブルーレイを買ってしまっていた!

ブルーレイのディスク本体
ブルーレイのディスク本体。

 

これはナチスドイツによるユダヤ人迫害に関する映画である。もっと具体的に言えば、絶滅収容所としてあまりにも有名なあのアウシュビッツを描いた映画である。

アウシュビッツの所長だったルドルフ・ヘス一家を描いた映画だ。

ところが、あのアウシュビッツを描きながら、ナチスによるユダヤ人の迫害や虐殺などの残虐行為は全く出てこないのである。

大袈裟に言っているのではなく、全編を通じて1シーンも出てこない。

あまりの衝撃に言葉を失ってしまう

本当によくぞこんな映画を作ったものである。その有り得ない発想に衝撃を受けたばかりか、残虐シーンは全く出てこないのに、こんなに恐ろしく、怖くてたまらない映画は観たことがない。何とも不可解な映画体験をすることになった。

あまりの衝撃にしばらく言葉が出なくなる。

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ホロコースト絡みの映画は無数に観てきたが

こんな映画は未だかつて観たことがない

僕はヒトラーとナチスに非常に興味があって、それを探求することが自身のライフワークになっている。シネフィルでもある僕は、これまでヒトラーとナチス、ホロコーストに関係する映画は片っ端から観てきた

もう数え切れない。名作、傑作、問題作が山のようにあって、もう映画ではホロコーストとヒトラー、ナチスは描き尽くされた感すらある。

購入したブルーレイの全体像
購入したブルーレイの全体像
ブルーレイのケースの裏側に掲載された映画に登場する不思議な少女の姿
ブルーレイのケースの裏側に掲載された映画に登場する不思議な少女の姿。この少女が誰で、何を意味するのか謎だ。

 

そんな中にあって、今回の「関心領域」。正に衝撃以外の何物でもない。

ホロコーストの残虐シーンを一切描かずに、ホロコーストの恐ろしさとその本質に鋭く迫った映画。これは歴史に残る傑作と呼んでいい。

脱帽。この映画を作った全スタッフの志しの高さに胸を打たれる未曾有の傑作の誕生だ。

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映画の基本情報:「関心領域」

アメリカ・イギリス・ポーランド共同製作 105分(1時間45分) 

公開日 2023年5月19日 カンヌ国際映画祭プレミア上映
アメリカ2023年12月15日 イギリス2024年2月2日 ポーランド2023年2月9日 日本2024年5月24日

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー

原作:マーティン・エイミス「関心領域」

クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、 ラルフ・ハーフォード、ダニエル・ホルツバーグ、サッシャ・マーズ 他

音楽:ミカ・レヴィ

音響デザイナー:ジョニー・バーン

撮影:ウカシュ・ジャル

主な受賞歴:第76回(2023年)カンヌ国際映画祭グランプリ・FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞
第96回(2024年)アカデミー賞 国際長編映画賞(イギリス)・音響賞
第98回(2024年)キネマ旬報ベストテン 外国映画ベストテン第3位 読者選出外国映画ベストテン第3位 他多数

※キネ旬ベストテンで、本来のベストテンと読者選出のいずれも第3位という極めて高い評価を獲得している。 

ブルーレイの裏ジャケット写真
ブルーレイの裏ジャケット写真。簡潔な関節がありがたい。
映画のチラシ。ブルーレイの裏ジャケットとほぼ同じ内容。
映画のチラシ。ブルーレイの裏ジャケットとほぼ同じ内容だ。

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どんなストーリーなのか

ストーリーと言っても困るのがこの映画だ。

ストーリーではなく、どんなことが描かれた映画なのか、それを簡単に説明させてもらう。

あまりにも有名なナチスがポーランドに建設した絶滅収容所アウシュビッツの所長のルドルフ・ヘスは、アウシュビッツ収容所の真隣に立派な邸宅を建て、そこで赤ん坊を含む5人の子供たちと幸せな家庭を築いていた。

映画はそのヘス一家の平穏な日常生活を淡々と写し出す。

全編を通じて、ナチスによるユダヤ人への迫害、殺戮行為は一切映し出されない。つまりカメラはアウシュビッツ収容所の中には全く入らず、その隣にあるヘスの邸宅と周辺の川や草原などを写すだけ。

映画の1シーンから①
映画の1シーンから①
映画の1シーンから②
映画の1シーンから②
映画の1シーンから③
映画の1シーンから③

 

一度だけ収容所の中にいるヘスの姿が映るが、下方からヘスを仰ぎ見るアングルで、焼却所の煙とヘスの横顔が重なるだけだ。

ヘスはやがてアウシュビッツから異動を命じられるが、妻はアウシュビッツこそ総統の描いた理想的な住環境であり、絶対に離れないとアウシュビッツに子供たちと残り、ヘスは単身赴任を強いられる・・・。

映画の1シーンから④
映画の1シーンから④

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リアリズムに徹した映画と言っていい

これは実話である。先ず最初にこの点を認識する必要がある。

収容所の中の様子は一切写さず、隣のヘスの邸宅での暮らしだけを写すというのは、何だかとても無理をして、条件に添うように無理なシチュエーションを強いたように感じるかもしれないが、決してそうではない。

あくまでヘスの邸宅と周辺でのヘス一家の団欒の景観を、ヘス一家の側から描いただけで、無理はしておらず、むしろ徹底的にリアリズムに徹した映画だと言える。

映画の1シーンを使った映画の解説
映画の1シーンを使った映画の解説だ。

 

ヘスの妻や5人の子供たちは、収容所の中に決して足を踏み入れることはなかった。だから決して無理をした設定ではない。

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極めて高い評価を取得

この映画は世界中で大絶賛された。日本でもキネマ旬報のベストテンで分かるように評論家からも一般観客からも非常に高く評価された。

ホロコーストを描いた作品でありながら、全く殺戮シーンが出てこないこんな実験映画というか、風変わりな映画が、ここまで高く評価されたことに驚かされる。

アウシュビッツ収容所の隣で繰り広げられていた所長一家の平穏な姿だけを描こうとする発想に度肝を抜かされるが、これには原作があった。

この「ホロコーストの実態を全く見せないホロコースト映画」という逆説的な取り組みに、多くの観客が「やられた!」と思ったはずだ。

高評価は、その試みが、実は戦争と人間の本質にまで迫る深淵なものだったということに気付かされたという証だと思われるのだが、どうだろうか。

一部で散々の酷評もあるが

ネットなどでは、「全く観る価値のない映画」と断罪しているものも少なくない。

常識的に考えれば、そうだろう。この映画にアウシュビッツでの凄惨な殺戮を想定していた人は、愕然としたに違いない。

普通に観ていれば、最後まで何も起きずに極めて退屈なまま、映画は終ってしまう。

だが、注意深く観てもらえれば、壁一枚隔てた隣でどんな凄惨な殺戮が日々繰り広がられていたのかは、ちゃんと分かるように作られている。

映画の1シーンから⑤
映画の1シーンから⑤
映画の1シーンから⑥
映画の1シーンから⑥

 

直接生々しく描かれていないだけで、十分に暗示されている。

それが分からずにこの映画を否定する人は、少し感性が鈍感なのではないだろうか。

監督のジョナサン・グレイザー

この作品で非常に高く評価されることになった。この映画は一見退屈なようでいて、とことん計算され尽くされていて、並みの監督には到底できないことだ。

ちょっとした描写にドキッとさせられるシーンが満載だ。後述するがこの映画の音の扱いは常軌を逸している。

グレイザーはイギリスの映画監督で、「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」で一躍注目を浴びた俊英だが、この「関心領域」で一挙に才能を花開かせた。

現在60歳だが、今後の作品に目が離せない存在となった。

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ヘスの妻を演じたザンドラ・ヒュラーは

所長のヘスはそれほど嫌な奴に感じさせないのが、肝の一つだったかもしれない。家族思いの一見優しく見える男が、これだけ凄惨な殺戮をやり続け、どうやったらユダヤ人殺害の生産性を高められるか、いつもそればかりを考えていた

映画の1シーンから⑦
映画の1シーンから⑦

 

強烈な印象を受け、本当に嫌な奴だと思わせるのはヘスの妻のヘートヴィヒの方だ。演じたザンドラ・ヒュラーが実にうまく演じていて、これは見事だった。

映画の1シーンから⑧
映画の1シーンから⑧

 

ヒュラーはドイツの名優で、「関心領域」と同じ年に公開されたフランス映画「落下の解剖学」で主役を演じて大絶賛された。今、ヨーロッパで最も注目される女優だ。

ヒュラーは当初、ヘスの妻を演じるのは抵抗があったようだが、このとんでもないヘスの妻を絶妙に演じ切った

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音響の不気味さに神経が逆なでされる

この映画にはいわゆる音楽は皆無である。どんな場面でも既存のクラシックやオリジナルの映画音楽が流れることは全くない。

それにはもちろん訳があった。

映画に流れ出る映像はヘス一家の団らんと普通の家庭生活を淡々と追いかけるだけだが、実は、壁一枚を隔てた真隣の収容所の中では、日々ユダヤ人が虐待を受け、銃殺され、ガス室で集団殺戮されるなどの、凄惨な迫害が繰り返されていた。

そこから聞こえてくる音と風景は容赦なく描かれる。罵倒する怒鳴り声、悲鳴、絶え間なく続く銃声、そして煙突から立ち昇る黒煙。

それらの迫害の音を聞いてもらうために、一切の音楽が封印されている。

恐ろしいばかりの音響にやられる

それだけではない。

リアルに聞こえてくる迫害音と別に、冒頭と最後に、音楽ではない音響としての耐え難い音が延々と鳴り続ける。これが神経を逆なでする耐え難い音なのである。

この音の中に、残虐の限りを尽くされて虫けら同然に殺されていくユダヤ人の嗚咽と苦しみの全てが封じ込まれている。そう考えるしかない、耳を押えたくなるような嫌な音がいつまでも鳴り響く。

目の前に繰り広げられる映像が、あまりにも平和で平穏なものだけに、この音響の悲惨さとのギャップ、あまりの乖離に耐えられなくなる。一家団欒の真横で日々繰り広げられた殺戮を音として描く。

その音と音響はヘス一家には届かない。この音響を耳にする機会は彼らにはない。

聞こえているはずなのに無関心の恐怖

いや、そうではない。日常の迫害音はいつも普通にヘス一家の子供たちにも妻にも、至極当然のこととして聞こえていたはずだ。

それに全く動じない。全く気にしなくて済む神経、それが分からない。それが、正に「関心領域」ということで、人は自分が関心ないことには全く興味を示さないということか。

映画を観て、これ以上恐ろしい音響を聴いたことは、本当にない。ホラー映画なんて、これに比べれば何でもない。

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もの凄い問題提起で足が震えてしまう程

これほど恐ろしい映画は初めて観た。とんでもないものを観てしまったと興奮が収まらない状況だ。

ナチスの言語に絶する残虐行為は今まで散々観てきたが、そのどんな残虐行為よりもこちらの方が怖い。よっぽど恐ろしい。

残虐行為そのものより残酷な「無視」

壁一つ隔てた真隣で毎日凄惨な殺戮が行われ、それを直接目撃することはなくても、音は常に聞こえてくるのに、それをひたすら無視して、平和な一家団欒を楽しみ、美しい花に心を躍らせる人間という存在。

映画の1シーンから⑨
映画の1シーンから⑨

 

どう考えても、隣で、つまり上に頑丈な有刺鉄線が張り巡らされている壁の向こうで、何が繰り広がられているか知らないはずはない。

ヘスの妻は良く分かっている。家の掃除など家事をやっているユダヤ人の娘に辛く当たり、「夫に隣で灰にさせようか」などと面と向かって平然と言い放つ。

我々は別の存在。そうやって割り切って、真隣でリアルタイムで繰り広げられている殺戮行為を無視できてしまう人間という生き物に、唖然としてしまう。

関心のないことには心をシャットアウトできる恐ろしい生物の実態を描いた映画と言っていいだろう。

ヘスの妻は、あのアウシュビッツの自分たちの豪華の一軒家を夢の実現と呼び、転勤命令の出た夫に、絶対にこの家を手放さない。決してここを離れないと、ヘスに単身赴任を強いた。

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ヘス一家はあの時代のドイツ国民の姿

ヘス一家、特にヘスの妻には呆れ果ててしまうが、これはヘス一家に限った話しではなく、あの時代のドイツ国民の姿そのももの象徴ではないのか、そう思えてきた。

そう考えると、いよいよこの映画のテーマは深淵さを増してくる。

哲学や様々な芸術であれだけ優秀な人材を輩出したドイツ国民が、どうしてあのヒトラーとナチスの蛮行を許してしまったのか?というのは現代史の大きなテーマである。

あの未曾有のユダヤ人への大迫害、ホロコーストをドイツ人はどうして止めることができなかったのか?

ドイツ国民はあのホロコーストを知らなかったのか?

この問いかけは重いのだが、このヘス一家の在り方が、当時のドイツ国民全体の感覚だったのではないだろうか

目と鼻の先で、本当に未曾有な殺戮が行われていても、全く目に入らない、耳に入らない。関心がない。

そう考えれば、全てに納得できるような気がする。ヘス一家が特別に狂っていたわけではない。人間はそういう存在だと捉えると納得できるが、膝がガタガタと震えてしまうような衝撃と恐怖に襲われる。

そして今日の我々の姿でもある

翻って、それはまたあの時代のドイツ人だけではないのではないか。現にこうしている今も、ロシアによるウクライナの侵略戦争は終らないし、ガザでの残虐行為も全く終わる気配がない。

地球上でどれだけ理不尽な戦争や残虐行為があっても、人々は直接自分に関係しなければ、無視できて、関心の外側で平穏に過ごすことができる。

ヘス一家の姿は、今日の我々自身の姿でもある。

本当に恐ろしい映画が誕生したものだ。だが、この現実からまた目を背けたらダメだ。

どうか一人でも多くの方が、この映画を観て、追体験してほしい。あの明るく平和な一家団欒に聞こえてくる殺戮の音と、そしてスタッフが作り上げた前後の身の毛がよだつような音響を体験してほしい。

一人ひとりの生き様が問われる大変な問題作だ。

こんな歴史的な問題作をAmazonプライムで無料で観ることができる。どうか怖れずに観てほしい。

 

☟ この映画はAmazonプライムで無料で観放題なのですが、特に興味を持たれた方は、どうかこちらからブルーレイをご購入ください。

5,280円(税込)。送料無料。


関心領域【Blu-ray】 [ ジョナサン・グレイザー ]

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