今回は、映画や本、漫画、クラシック音楽の紹介を離れて、僕の本業について語らせてもらう。趣味の世界を離れて、本家本業、プロフェショナルな話しだ。僕が病院経営に携わる医療人であることはプロフィールに書かせてもらっているとおり。

この業界に35年間以上、勤務している。7~8年前に完全にフリーの立場になって、全国の様々なタイプの民間病院や自治体病院の事務長(事務部長・事務局長など呼称は病院によって異なる)として身体一つで単身乗り込んで、日々病院の経営改善、その病院を「もっと良くする」ために奮闘しているところだ。

そこで感じていること、特に病院の事務職(事務系職員)がどうあるべきかについて、ポイントをまとめてみることにした。

病院で働く職員に語りかける形で書いてみる。

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病院という組織・マネジメントのおかしさ

病院という職場は本当に問題だらけの職場である。どうしようもない組織とどうしようもないマネジメント。これが多くの病院の姿。本当に問題だらけ。それは病院で実際に働いている職員だったら誰だって、ある程度感じていることだろう。

医師をトップにいわば江戸時代の士農工商のような時代錯誤的なヒエラルキーが暗黙の裡に存在していて、最先端の医療機器と科学の最前線を追及していながら、組織やマネジメントとしては、極めて前近代的。このすさまじいギャップ、そうしたことはホンの一例に過ぎない。これ以上おかしな職場、組織はない、と断言しても間違いじゃないように思われる。

病院の内部に巣食う、病院という組織そのものにつきものの内在の問題が先ずある。

どうしようもない組織と統制の取れないマネジメント。病院というところは、本当に厄介な職場なのである。

病院が潰されようとする時代

一方で、今は病院が厚生労働省によって潰されようとする時代なのである。病院は今、本当に大変な時代に突入している。このままでは病院は淘汰され、生き残れない。

病院で働く多くの職員は、このことをちゃんと認識してくれているのだろうか?分かってくれているのだろうか?

病院は今、「診療報酬の面」からと「地域医療構想の面」からと、2つの側面から二重に追い込まれている。

今回は詳しく説明できないことが残念だ。また別の機会に取り上げたい。

ただ、実際に多くの病院は存亡の危機に直面している、ということを認識してもらう必要がある。

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自治体病院固有のおかしさ

自治体病院の場合は、もっとことを複雑にしてしまう。

「県立の病院なんだから、市立の病院なんだから、潰れるはずがない」という変な安心感がある。

移転新築したような新しい病院であれば、現実的には確かに潰れるはずはないとは思うが、そうやって安穏としていることは許されない。

自治体病院には設置者である行政(自治体)から、例えば県や市から、「繰入金」(一般会計負担金)というものがあって、民間病院にはない特別な制度で非常に優遇されている。多額の繰入金と、全く税金を取られないという普通では考えられない特別に恵まれた病院というのが、全国の自治体病院の実態だ。

それなのに、全国の多くの自治体病院はめちゃくちゃ経営が悪く、ほとんど破綻している病院も少なくない。

民間と比べて、こんなにも恵まれているのに、黒字病院は全国でも非常に少ないのが現状。それはどうしてなのか?自治体病院はどうしてこんなことになってしまうのか?

ということを真剣に考えてみる必要がある。

事務長の仕事は病院を「もっと良くすること」だ

病院の事務長の仕事は一口で集約すると、病院を「もっと良くする」ことだと、僕は常々考えている。「もっと良くする」と言ってもそれは非常に多岐に渡っている。

僕はどの病院においても、「全ての点で、あらゆる面から自分の働く病院を少しでも今よりいい病院にしたい」と覚悟を決めているが、あらゆる面からと言っても、やっぱり一番の課題は経営面。財務の視点となる。

フリーとなって民間病院や自治体病院の事務長として請われた僕は、ズバリ、病院の経営を改善するために採用されている。だから僕にはもっともっと経営を安定させるミッションがある。

自治体病院でのミッションは

例えば、自治体病院の場合、都道府県・市町村など設立母体である自治体からの繰入金は、もちろん自治体によってマチマチではあるが、非常に多額であることが多く、一方でその繰入金は不採算部門を支えている見返りなど何ら後ろめたいものではなく、正々堂々と胸を張って貰えるものも多いのだが、基準外など民間ではもらえないものも多い。

僕としては、それらの自治体からの繰入金に頼らなくても、自分たちの病院そのものの実力だけで、つまり医業収益だけで安定した経営が達成できるようにするべきではないか、目標としてはそこにターゲットを絞るべきではないかと常々考えている。

それが自治体病院としての究極の目指すべき姿。もちろん、財務面から見ての話しである、念のため。

「繰入金などの医業外収益に頼るな!」

「病院本来の医業収益だけで黒字であるべきだ!」

民間病院はどこでもそれを目指しているし、そうするしかないということを、自治体病院で働く職員は良く知っておくべきだ。

ちなみに地方独立行政法人化していない自治体直営の病院(地方公営企業)で繰入金を除いて、自らの医業収益(病院で行われた治療などによる収入)だけで黒字になっている病院は、ホンの20病院ほど、率にして1~2%しかないのが現実だ。

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病院の経営の仕組みを理解すること。極めて単純な仕組み

病院の経営を良くする、黒字化させるということは、実は理屈の上では極めて単純明快だということも知っておいてもらう必要がある。

1.病院が稼いで売上げを多くする、収入を増やすという方向。【医業収益】

2.職員の給与(人件費)、薬剤品費や材料費、様々な費用や経費など出る方を抑える方向。【医業費用】

赤字・黒字はこの売上(医業収益)と支出(医業費用)の差額なので、どちらかしかない。つまり医業収益を医業費用よりも大きくする、言い換えれば医業費用よりも医業収益が大きければ黒字になる、それだけの話し。極めて単純な話しだ。

直ぐに成果を出そうとすれば、圧倒的に多くを占める人件費、職員の給与を下げる、これが一番手っ取り早い。月例給はともかく賞与(ボーナス)を少なくする。これが一番早くて確実。民間病院では普通に行われているが、これはもちろん最後の切り札。最初からそんなことを考える事務長は、事務長失格だ。そういう方策は考えたくはない。

そんなことはせずに経営を良くする、そのためには収入を大きくする。つまり病院がもっと稼ぐということだ。

どうやったら医業収益を増やせるか?これも明白

では、どうやったら稼げるのか?どうやったら医業収益を増やすことができるのか?

それも簡単明瞭。

「患者さんを増やすこと」それが全て。

ベッド稼働率を上げて、一日あたりの入院診療単価を大きくする。それに尽きる。

だから、病院のスタッフ、医師を中心にコメディカル、ナース、事務職も含めて全職員がやらなければならないことは、ものすごくハッキリしていて、患者を増やし、質の高い医療を提供して単価を上げること。それしかない!

それをどのようにして実現していくのか?

それを考えて、実践していくことが、病院で働く職員の仕事なのである、と僕は強調したい。

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病院で最も大切なことは「患者に元気になってもらうこと」。それは当然

経営のこと、財務のことばかり強調してきたが、病院にとって、それが一番重要なことだとは僕は夢にも思っていない。

病院にとって一番重要で、大切なことは「質の高いいい(良い)医療を提供して、患者さんに元気になってもらうこと」。これが病院の究極の使命である。これ以外にない。ここは絶対にブレるわけにはいかない鉄則だ。

だが、財務の改善は、それを、つまりいい医療の提供を実現するためにも、絶対に必要なことであるということを理解してもらう必要がある。

ここで説明したいのは、「BSC」(バランスト・スコアカード)の発想だが、BSCについてはいずれ別に取り上げることとしたい。

重要なことは、「質の高い医療の提供」と「良質な経営」は連動しているということである。

「質の高い医療の提供」と「良質な経営」は両輪。表裏一体

「医療の質が悪い」のに「経営がいい」。また「医療の質がいい」のに「経営が悪い」=大きな赤字を抱えているということは、これもない。この真理を認識してほしい。これは本当にそのとおりなのだ。

「質の高い医療の提供」と「良質な経営」は両輪であり、表裏一体の関係にあるということを頭に入れてもらわなければならない。

だとすると、さっきの話しを振り返ってほしい。

僕たちは、経営を良くするためには「患者を増やして、ベッド稼働率を向上させなければならない」が、その大前提として、質の高い医療を提供する必要があり、質の高い医療が提供されれば、患者が集まり、ベッド稼働率が向上することになるということだ。

だとすれば、次には、どうやったら質の高い医療を提供することができるかという、医療の中身にまで踏み込んでいかなければならない。

「病院を良くするために、考えなければならないことは山のようにある」ということを、分かってほしい。

僕はその鍵は、事務系職員が握っていると考えている。

「熱々たけちゃんの病院経営塾②」に続く。

 

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