目 次
ギンレイホールに通えなくなった今も、映画三昧の日々
約4年半ほど通勤していた御茶ノ水から離れることになった今年(2021年)の4月。御茶ノ水には何かと愛着を感じていたが、一番悲しいのはギンレイホールに通えなくなってしまったことだ。これは本当に痛恨の極み。新しい職場はギンレイホールがある飯田橋や神楽坂をかすめることもなく、かなり離れた地にある。そうは言ってもこの便利な首都圏。夜の8時前後からスタートする最終上映なら観ることもできるのだが、この新型コロナ蔓延の中、感染対策として8時までに上映を終えるように東京都から要請を受けており、ギンレイホールではもう長いこと夜の8時以降の上映はない。3度目の緊急事態宣言が更に延長される中、今後も8時以降の上映が復活する日はかなり先のことになりそうだ。本当に残念でならない。
だが、ギンレイホールに通えなくても、僕の映画鑑賞の日々は一向に衰えることはない。映画三昧の日々はずっと続いている。
そうは言っても「映画は映画館で観るに限る。あの映画館の大スクリーンと臨場感溢れる音響の中に身を委ねなければダメだ」というのが僕の信念。
そこで、観ないよりはよっぽどマシだということで、仕方なしに我が家のテレビでブルーレイを観まくっているというのが、現状だ。
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2021年のGWで観た映画はちょうど10本
こうやって今年のGWに我が家で観た映画の本数は、現時点(2021.5.9日曜の正午)でちょうど10本。2021年のGWは連休は5日間しかなく、前後の飛び石休や土日を含めて休日は8日間だった。この8日間に観た映画がちょうど10本だったということだ。これは多いのか少ないのか?
映画鑑賞だけに没頭できれば、もっとたくさん観ることは可能だっただろうが、僕は映画以外にも本を読んだり、音楽を聴いたり、そして何よりもブログ書きにも没頭するなどやりたいことが山のようにあり、とにかく時間が足りなかった。
そんな中で観た10本の映画はいずれも名作・傑作の誉れ高いものばかり。どの映画からも強烈な印象と感動を受けたのだが、その中でも一番共感を覚え、強烈な感動を味わったのは、アルフォンソ・キュアロン監督の「トゥモロー・ワールド」であった。
「トゥモロー・ワールド」の基本情報は以下のとおり。公開以来15年も経つ少し古い作品だ。
映画の基本情報:「トゥモロー・ワールド」
イギリス・アメリカ・日本合作映画 109分
2006年11月18日 日本公開
監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:P・D・ジェイムズ「人類の子供たち」
脚色:アルフォンソ・キュアロン、ティモシー・J・セクストン他
出演:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、キウェテル・イジョフォー、クレア=ホープ・アシティ他
これはものすごい映画
実は、この映画はもうかなり前にも観ていて、今回は2回目の鑑賞。以前観た時から強烈なインパクトを受けたが、この映画は妙に後を引くものがあって、かねがねもう一度観たいと思っていた。それをこのGWで実現させた。
一言で言うと、ものすごい映画で、現代人必見と断言したいのだが、何故かそれほど傑作・名作扱いされておらず、そのことに不満を感じている。
一つは「トゥモロー・ワールド」というありふれたタイトルも影響しているのではないか。インパクトが弱い。コナン・ドイルや手塚治虫でも有名な「ロスト・ワールド」を連想させるし、いかにもありふれたB級SF映画の臭いがプンプンとして来る。
これはもちろん近未来を描いたSF映画には違いないのだが、そのリアルな近未来は、ある意味で現代社会の延長線上にあり、SFというよりもドキュメンタリーに近い趣がある。そして一部のSFマニアが観て喜ぶようなカルト映画ではなく、もっと切実な重要なテーマを扱った、全人類必見!と言ってしまいたくなる傑出した問題作なのである。
SFというよりも、「自らの危険を顧みずに果敢にある命を守り抜いた男の生き様」を描いた人間ドラマと言うべきか。守ろうとした命は、実は人類の未来そのものだったというスケールの大きさだ。B級SFに留めてはならない。
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どんなストーリーなのか
舞台は2027年のイギリス。人類は希望を失い、退廃を極めていた。頻繁に起きる爆発テロも政府が実行しているとも言われ、ほとんど無法地帯と化している。そんな中、人々が絶望的な面持ちで見入っているニュースがあった。18歳の少年が刺殺されたという。映画を観ていて、こんなありふれたニュースにどうして人々が衝撃を受けているのか最初は理解できない。事の真相はこういうことだ。刺殺された18歳の少年は地球上の最も若い人間だったのだ。人類は18年程前から妊娠機能が失われ、世界中のどこでも赤ちゃんは誕生していなかった。新しい生命の誕生が途絶えた社会。原因は不明だったが、もう18年間も子供は全く生まれていない。
原作はP・D・ジェイムズの「Children of Men」。日本語に訳すと「人類の子供たち」であり、映画のタイトルも同一だ。「トゥモロー・ワールド」などというありふれたタイトルでは元々なかった。
主人公は政府の役人のセオだが、希望の見いだせない社会でやる気など全くない。そんな中、セオは反政府グループのFISHに拉致されるが、その首謀者はかつての妻だった。「通行証」を求められたセオは一旦は断りながらも、結局は用立て、このFISHに関わっていく。リーダーの元妻が殺害される中で、セオが用立てた通行証を必要としていたのは、何と臨月を迎えようとしている妊婦であった。FISHは赤ん坊の政治利用を目論んでいた。政府とFISHの双方から命を狙われる中、セオは人類の希望を守るために絶望的な戦いに身を投じていく。果たしてセオは18年ぶりに誕生した赤ちゃんと母親を守ることができるのか?
驚異の「長回し」など映像技術の卓越さに打ちのめされる
映像描写がものすごい。希望のなくなった近未来の人々や街の様子が如何にもそれらしく、観始めてホンの数分で、観る者全てをその世界に引き込む映像の力は並外れている。そしてこの映画の中で、特に印象に残るのは例の「長回し」の映像だ。「長回し」のことは「1917 命をかけた伝令」の紹介の中で、詳しく書かせてもらった。
「1917 命をかけた伝令」驚異の長回し(ワンカット)で第一次世界大戦の地獄を体験する~いま観るべき熱々映画(https://www.atsutake.com/denrei-mendes/)
「1917 命をかけた伝令」は2時間を超える映画の全体を丸々一本のワンカットで撮るという途方もないものだったが、普通はそんなことはない。2時間の映画の中のホンの数分間、長回し映像を取り入れて、観ている者を画面に釘付けにし、臨場感と緊張感を高めるものだ。普通は1本の映画の中に1回用いられるかどうか。この「トゥモロー・ワールド」ではかなり頻回に長回しが用いられていることが特徴だ。
明らかに4回はかなり本格的な長回し(ワンカット)映像が出て来るのだが、特に度肝を抜かされるのが、最後のクライマックスの銃撃戦のシーン。主人公のセオは絶望的な戦いに身を投じるとは言っても、生まれたばかりの赤ん坊と母親を守るために、銃撃戦の中で身を挺して守るだけで、自らは拳銃も全く持たず、いわゆる完全な丸腰だ。全く武装していないのだ。そこがこの映画の実は一番大切なところかもしれない。丸腰、非武装で最後まで母子を守ろうとする。そのあたりのものすごさと感動は、観てもらうしかないのだが、その丸腰のセオが銃弾が飛び交う中、一旦奪われた赤ん坊を探し回り、鳴き声から何とか見つけ出して再会を果たすまでの手に汗握るハラハラドキドキが何とワンカットで撮られているのだ。約7分間弱。これはすごい。ちょっとありえないビックリ映像。
それでいて技術偏重で特別な映像になっているわけでもなく、観ている者は、そのすさまじい銃撃戦の真っただ中に身を置かれることになって、ワンカットとか長回しのことなど意識せずに、固唾を飲んで画面に釘付けに。正にそれこそ長回しが見事に成功したことに他ならない。
本当にこの映像はすごい。僕も長回しは大好きで、色々なものを夢中になって観てきたが、これだけのものは滅多にお目にかかれない。キュアロンの類まれな手腕と言っていいだろう。ちなみにこの作品はアカデミー賞で編集賞と撮影賞ともう一部門でノミネートされたが、惜しくも受賞を逃している。
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キュアロンは現在、世界で最も注目される映画監督!
アルフォンソ・キュアロンはメキシコが生んだ鬼才監督。大ヒットシリーズのハリーポッターの第3作「ハリーポッターとアズカバンの囚人」で世界的にその手腕を認められ、続いて作ったのがこの「トゥモロー・ワールド」だ。その後はこれまた大ヒットした超話題作「ゼロ・グラビティ」で世界の映画ファンの度肝を抜くと共にアカデミー賞の監督賞を受賞。更に「ROMA/ローマ」でヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞と、2回目のアカデミー監督賞を獲得するという快挙をやってのけた。現在、世界で最も注目されている鬼才にして天才映画監督。まだ当年59歳という若さがまた嬉しい。
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いまメキシコの映画監督が熱すぎる!世界をリードする鬼才・天才三羽烏
映画界では、今、メキシコが凄すぎるのだ。キュアロンの他にも彼に勝るとも劣らない鬼才・天才が2人もいる。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥとギレルモ・デル・トロの二人だ。イニャリトゥは「バベル」「バードマンあるいは(無知がもたらす奇跡)」「レヴェナント:蘇えりし者」などで知られる名監督。イニャリトゥも何と「バードマン」と「レヴェナント」の2作品でキュアロンと同様に2回アカデミー監督賞でオスカーを獲得。しかも2年連続の快挙だった。
デル・トロは何と言っても「パンズ・ラビリンス」と大ヒットした「シェイプ・オブ・ウォーター」で有名な大監督で、僕も大好きな人。デル・トロも「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞では作品賞と監督賞を獲得した。
というわけで、今のハリウッド映画はこの3人のメキシコ人映画監督で支えられているようなもの。キュアロン59歳。イニャリトゥ57歳。デル・トロ56歳と、3人揃って実に若く、ほぼ同期の仲間たちなのだ。実際にこの3人はメキシコで映画製作会社の「チャチャチャ」を共同で設立したという関係。ライバルであると同時に正に仲間であり、3人で励まし合いながら叱咤激励し会ってきた盟友なのである。
ちょうど日本のアニメをここまで引き上げた宮崎駿と高畑勲のようだ。スタジオジブリを二人で設立した話と実に良く似ている。
先ほどのこの3人のメキシコ人映画監督によるアカデミー監督賞を時系列に並べると、以下のような結果になる。驚くべき衝撃の事実が浮き彫りになる。
2013年 アルフォンソ・キュアロン 「ゼロ・グラビティ」
2014年 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 「バードマンあるいは(無知がもたらす奇跡)」
2015年 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 「レヴェナント:蘇えりし者」
(2016年)
2017年 ギレルモ・デル・トロ 「シェイプ・オブ・ウォーター」
2018年 アルフォンソ・キュアロン 「ROMA/ローマ」
一目瞭然。2013年から2018年までの6年間の中で、2016年を除いて5年間、ズッとこのメキシコの3人の監督でオスカーを独占していることが分かる。ちなみに2016年はあの「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼルが獲得。全く驚くべき実態がこれだ。
一体全体、今、メキシコで何が起きているのか。興味は尽きない。
いずれ、近日中にこのブログで3人の特集を書きたいと思っている。とにかく実に画期的なことだと声を大にして絶賛したい。
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手塚治虫の火の鳥「未来編」を実写化できるのは、キュアロンしかいないかも
さて、あらためてキュアロンに戻る。
前回熱く語らせてもらった手塚治虫の最高傑作である火の鳥の「未来編」を実写化できる映画監督は誰だろう?といつも考えている。
有力候補は「ダークナイト」や「ダンケルク」のクリストファー・ノーランや、「灼熱の魂」「ボーダーライン」「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴかな、などと勝手に想像を繰り広げているが、僕の大本命としては、このアルフォンソ・キュアロンだ。彼ならやってくれそうな気がするし、この「トゥモロー・ワールド」に描かれた世界観と映像が、いかにも手塚治虫の世界を彷彿させるものなのである。
誰か、キュアロンに手塚治虫の作品を手渡してほしい。キュアロンが読んでくれさえすれば、きっと興味を持って映画化を考えてくれるはずだと信じているのだが。
いずれにしても、どうか「トゥモロー・ワールド」を観てほしい。観てさえもらえれば、僕が言っている意味が良く分かってもらえるはずだ。
全人類必見の大傑作と呼ぶのは決して言い過ぎではない。絶対に見逃さないでほしい。
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