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前作を上回る驚嘆の続編に打ちのめされる
歴史大スペクタクル「バーフバリ」の前編「伝説誕生」で映画ファンの度肝を抜いたラージャマウリは、その続編でも期待以上の素晴らしい作品を完成させて、世界中の「バーフバリ」ファンを狂喜させた。
実際にこの後編「王の凱旋」はアメリカ映画などで良くある、大ヒットした映画の後日に二匹目のドジョウを狙って作られた続編ではなく、前編と全く同じレベルを保った稀にみる高水準の続編なのである。
アメリカ映画で続編が成功したのは、「ゴッドファーザー パートⅡ」「エイリアン2」「ターミネーターⅡ(T2)」など、稀にしか存在しないが、「バーフバリ」の2部作は、1作目が大ヒットしたから、慌てて2作目を作ったということではなく、当初から2部作として製作されたものだった。
1作目の「伝説誕生」と2作目の「王の凱旋」はストーリーとして完全に繋がっており、簡単に言えば、これは「2本で1本の映画」となっている。
そればかりか、1作目の「伝説誕生」の冒頭部分は、2作目の「王の凱旋」の終盤部分とそのまま直結するという驚異的な構成となっている。
前編の「伝説誕生」で描かれた背景とその前史が、後編の「王の凱旋」で描かれるという正に前編と後編がストーリーとしては前後逆転しており、それが最後の最後で現在に戻るという、実に心憎いばかりの凝った作りを実現させている。
これは当初から2部作としてプランされていないと、到底実現できないことだ。
ラージャマウリの脚本は、「バーフバリ」という稀代の英雄の5時間半に及ぶ大スペクタクルをそれぞれ飽きさせないように、どちらにも興奮必至の大きな見せ場を均等に配置するなど、計算され尽くした精緻な作りとなっている。
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後編「王の凱旋」が更に凄い出来栄え
僕は前編の「伝説誕生」に強く惹き付けられたが、この後編の「王の凱旋」も実に素晴らしく、一般的には、前編「伝説誕生」を大きく凌ぐ興奮と感動に満ちている。
正に前作以上の血沸き胸躍る破天荒な巨編と言っていいだろう。
製作費は後編の方が巨額となっており、映画全体のスケール感や規模も、「伝説誕生」より「王の凱旋」の方が遥かに上回っている。
いずれにしても「伝説誕生」でバーフバリの魅力に開眼した人は、何としてもこの「王の凱旋」を観てもらう必要があり、これを観ずにはバーフバリの物語は完結しないどころか、バーフバリの前半生がまるで欠落してしまうことになる。
そして前編以上の満足感と感動を確実に味わえることを、約束させてもらう。
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映画の基本情報:「バーフバリ 王の凱旋」完全版
インド映画 167分(2時間47分)【テルグ語完全版】
141分(2時間21分)【日本公開版】
公開
2017年 4月28日 インド
2017年12月29日 日本
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
出演:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、サティヤラージ、タマンナー、ラムヤ・クリシュナ、ナーサル 他
音楽:M・M・キーラヴァーニ
撮影:K・K・センティル・クマール
【受賞】
第65回ナショナル・フィルム・アワード アクション監督賞 特殊効果賞 健全な娯楽を提供する大衆映画賞
キネマ旬報ベストテン:第54位
どんなストーリーなのか
前作「伝説誕生」で次期国王と決まったバーフバリと、従兄弟であり、マヒシュマティ王国の統治の実権を握る国母シヴァガミの息子である権力亡者のバラーラデーヴァとの確執。人民の人望も厚いバーフバリが邪魔でならないバラーラデーヴァがバーフバリを蹴落とし、自ら国王に収まろうと陰謀と暗躍を重ねていく。
前半は国王就任が決まったバーフバリが剣士カッタルバを伴って諸国を旅する中で、カタンダ王国の姫セーラデーヴァと恋に落ちる様が描かれる。バーフバリを憎むバラーラデーヴァもデーヴァセーナの肖像画を見て一目惚れ。母親の国母シヴァガミをうまく言いくるめて結婚の約束を取りつけることで、バーフバリとバラーラデーヴァの権力争いに、美女の奪い合いまで絡んで、複雑かつ厄介な展開になる。
これが前編「伝説誕生」でデーヴァセーナがバラーラデーヴァによって二十年間も鎖に繋がれている経緯だ。
傑出した英雄バーフバリ。そこにあの大滝の下で助け出されたシヴドゥがどう関わってくるのか。3代に渡るバーフバリの物語が、ここに完結することになるのだが。
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ラージャマウリの見事なドラマ作りに夢中に
決して複雑怪奇ではなく、ある意味で非常に分かりやすい単純な物語ではある。しかも少し時代錯誤的といってもいい程の典型的な勧善懲悪ものである。
だが、そんな勧善懲悪の単純な3代に及ぶバーフバリの物語を伝えるに当たっての、2作合わせて5時間半に及ぶ大作を、観る者を全く飽きさせることなく、興奮必至の手に汗握る雄渾な大河ロマンとして描き切ったラージャマウリの功績は絶大だ。
ストーリーは先が読めてしまうのだが、観ている我々は決して失望させられることも飽きることもなく、分かっているのにどうしようもなく心を奪われてしまう。この辺りは脚本と監督のラージャマウリの類まれな力量と絶賛するしかない。
主人公バーフバリの魅力
映画を観ている我々観客は、この作品が典型的な勧善懲悪ものだと分かっていながらも、主人公バーフバリに肩入れしてしまう。
演じた俳優プラバースの容貌の素晴らしさもあって、その人柄と人徳、民の中に溶け込み、民の命と幸福を最優先に考えるバーフバリにたまらない魅力を感じ、上に立つ者はこうありたいものだと素直に思ってしまう。
その上、他の誰もが太刀打ちできない超人的な戦闘能力と知力を備える英雄には、誰もが夢中になってしまうだろう。
こんな指導者が本当にいてほしい。そう思わずにいられない。
遊び心があって女好きな点にも好感
バーフバリの魅力はそれだけではない。実はオチャメな遊び心も備えていて、恋に命をかける愛の人でもある。そんな堅苦しい言い方はそぐわないかもしれない。
はっきり言うと、バーフバリは女好きなんじゃないのか、ちょっと好色だなと思わせる描写も少なくない。これがまたいいのである。
僕にとってはこの点が更なる魅力でもある。抜群に強くて、頭が良く、人民に寄り添い、それでいて妙に人間臭くて女好き。
バラーラデーヴァの苦悩の物語でもある
これはどうしても好きになってしまうし、人として、統治者として、全ての魅力を備えたバーフバリに、ライバルのバラーラデーヴァが異常なまでに嫉妬し、殺意を募らせるのも分らなくもない。
バーフバリにあって自分に決定的に欠けているもの。それを痛感させられ、自己嫌悪に苦しむバラーラデーヴァも悪くない。
バラーラデーヴァだって、相当の能力の持ち主だったのである。
この映画はバーフバリの縦横無尽の大活躍を描きながらも、バラーラデーヴァの物語でもある。勧善懲悪ものとは言っても、そう単純でもない。
それがあってこそ、「バーフバリ」2部作がここまで人気を集め、愛されているのだと思う。
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今回も凄まじいアクションに言葉を失う
今回の後編「王の凱旋」もその凄まじいアクションシーンの数々に圧倒されて、言葉を失ってしまう。
前編「伝説誕生」と後編「王の凱旋」は完全に一体化しているので、「伝説誕生」で書いたことがそっくりそのまま当てはまる。
とにかくそのアクションシーンの数々は、単に物量が多いとか過激だとか、力と量で有無を言わせぬ描き方ではなく、工夫と創意に満ち溢れているのである。
壮大にして激烈。空前のスケール感と類まれな様式美と斬新さに満ち溢れている。
あまりにもCGの力に頼り過ぎているなど、この驚異の映像を批判することはいくらでもできるだろう。
だが、この創意と工夫は並大抵のものではない。観るものを釘付けにする有無を言わせぬ驚異的な映像のオンパレードに、ワクワクドキドキが止まらなくなり、観る者を虜にする。
強烈な印象を残す準主役たち
この映画には、主人公のバーフバリと宿命のライバルのバラーラデーヴァ以外にも、強烈な印象を残す、極めて魅力的な準主役たちがひしめいている。
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稀代の奴隷剣士カッタッパ
その筆頭格は何といっても稀代の名剣士カッタッパだ。このすっかり禿げ上がった坊主頭の老剣士が驚くべき剣の使い手にして、王の軍隊の隊長まで務めるマヒシュマティ王国の軍事力の要となっている。
そればかりかバーフバリが父とも慕う慈愛に満ちた人格者でもあるのだが、何と国王に直接仕える奴隷という設定だ。これが物語全体の大きなバックボーンともなっている。
インドのここが非常に嫌で、引っかかる部分でもある。インドの宗教であるヒンドゥー教と密接不可分に結び付いている「カースト制度」に基づくものだ。
映画の中でも、外国から来た武器商人が「他に並び立つ者のないこれだけの天才剣士が奴隷なのか。しかもそこから抜け出すこともできないのか」と驚き、嘆くシーンが出てくるが、古今東西どこの国や地域でも存在する身分社会でも、インドのカースト制はあまりにも過酷なものであり、やり切れない。
この奴隷のカッタッパこそ、バーフバリの物語全体の語り部というか、全てを知る最も重要な人物と言ってもいい。
全ての命運を握る国母シヴァガミ
国母シヴァガミこそ、バーフバリを含めて全ての登場人物たちとマヒシュマティ王国の命運を握る人物である。
このシヴァガミの判断と決定が国の定め、今流に言えば法律となる。誰を国王にするのか、その妃を誰にするのか、敵とどのように戦うのか、その全てをシヴァガミが判断し、決定する。
シヴァガミ自身は国王ではないのだが、ある意味で独裁者と呼んでもいい最高権力者に他ならず、バーフバリの運命もシヴァガミ次第である。
そのシヴァガミは非常にバランス感覚の取れた人格者である。優れた洞察力も持ち合わせ、的確な判断を下してきたのだが、あることを巡って、実の息子バラーラデーヴァの奸計を見抜くことができず、自ら破滅の道を進んでしまうことになる。
そんな致命的な過ちを犯してしまうのだが、それでも自らの命を賭してそれを改める勇気を持っていた。それが最後にはバーフバリと王国を救うことになる。
中々感動的な人物像。演じたラムヤ・クリシュナも強烈な存在感を示し、非常に強い印象が残った。
バーフバリの気丈なる妻デーヴァセーナ
バーフバリの妻となるデーヴァセーナも重要な役回りである。前編の「伝説誕生」ではみすぼらしい姿で鎖で繋がれていたが、後編の「王の凱旋」では、逆に時間が巻き戻されて、バーフバリとの運命的な出会いと、その卓越した武術、誰に対しても忖度しない毅然とした態度を貫く姿をありったけ見せてくれる。何とも気丈な人物だ。
その美しさも形容し難い程。バーフバリの心を奪い、夢中にさせたデーヴァセーナは、映画を観る全ての観客をも魅了してしまう。
随所に現れる歌やダンスも楽しめる
インド映画には歌やダンスが欠かせない。それは不思議と誰でも知っている周知の事実である。
「RRR」でもあの「ナートゥ」始め、感動的な歌やダンスが圧巻だった。この「バーフバリ」の2部作でもそれは一緒だ。
歌やダンスが随所に現れ、激しいアクションシーンと権力闘争の中で、一服の清涼剤のごとく気持ちを和ませてくれる。
この「バーフバリ」2部作の中では、とりわけ美女を取り巻くセクシーというか少々艶めかしい歌とダンスが多いのが特徴だ。
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インド映画が映画界を席巻してしまう日が近い
インド映画がこれほどのクオリティの高い作品を次々と生み出すと、アメリカのハリウッドも本当に影が薄くなってくる。しかもこのラージャマウリの一連の作品はインド映画の中核部分である「ボリウッド」ではなく、むしろ亜流の南インドの「トリウッド」なのである。
トリウッドが生んだラージャマウリという稀代の天才がいればこそ、といえるだろうが、全体的な底上げも大きな力になっているものと思われる。
この勢いでいくと、インド映画が世界の映画シーンを席巻してしまう日が近いように思われてならない。映画ファンとしては嬉しい限りだが、この世界の映画界の地殻変動にはちょっと恐怖を感じてしまう程だ。
ラージャマウリから目が離せない
それもこれも天才のラージャマウリがいたからこそであることは、間違いない。
本当にラージャマウリの力量は凄まじい。まだ50歳にも満たない若さである。
それでいて、今回の「バーフバリ」の2部作と「RRR」。その前にも「マガディーラ 雄者転生」「マッキー」など、これまた驚くべき作品が何本もある。
これから先、どんな映画を作ってくれるのか。楽しみでならない。「バーフバリ」2部作と「RRR」を観た後、次回作がこれ以上楽しみな映画監督は他にいない。
僕が今、世界で最も期待し、楽しみにしている監督がラージャマウリなのである。
どうか騙されたと思って、「バーフバリ」の2部作を観てほしい。もちろん「RRR」もだ。映画を観る悦び、ここに極まれりと実感してくれるに違いない。
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