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追悼本として別冊太陽に半藤一利が登場
二つ前のブログ記事で「立花隆のすべて」を紹介した際に、この本のことについては触れさせてもらった。
本年1月に90歳の天寿を全うして亡くなった半藤一利さん。その死から半年以上が経過する中で、その追悼本として今回、あの別冊太陽に新たに加えられたのだ。
長野県在住の非常に親しい友人からその新聞広告を送ってもらい、それを急いで購入しに行ったところ、その別冊太陽と並んで平積みとなっていたのが、待ちに待った「立花隆のすべて」だったというエピソードはもう繰り返さない。
元々はこの別冊太陽の半藤一利を買いに行ったのだった。
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別冊太陽とはどんな本なのか
そもそも、別冊太陽とはどんな本なのだろうか?これは本に親しむ人なら知らない人のいない非常に良く知られたシリーズで、今ではその発行数も随分多くなった。今回の最新刊の半藤一利で292号となる。
一言で言うと、日本の文化や著名な人物を豊富な写真などのビジュアルと資料でまとめ上げたグラフィックマガジンである。
発行元の平凡社による説明をそのまま紹介すると、こうなる。
「美しいビジュアルと豊富な資料で、毎号一つのテーマを深く掘り下げて紹介します。
日本初の本格グラフィックマガジン、月刊『太陽』の創刊が、1963年。それから10年後、「よりデラックスな雑誌を」という読者の声に応え、別冊太陽はスタートしました。以降約半世紀に渡って、美、芸術、伝統・文化を圧倒的なビジュアルと貴重な資料で提供しています。」
なるほど、分かりやすい。そういうことなのである。
半藤一利の別冊太陽の内容は
これを読んで、様々な写真や絵などのヴィジュアル、更に豊富な資料を眺めれば、半藤一利の全てが理解できるという体裁で作られている。
半藤一利の90年に渡る生涯を、当時の貴重な写真をふんだんに用いながら、非常に分かりやすくかつ深く掘り下げて、紹介してくれている。
名著の数々を貴重な写真とヴィジュアルで紹介
そして、この本のメインはもちろん膨大な量の半藤一利さんが残した様々な著作の中から代表作を取り上げ、丁寧にその本の内容を紹介している部分にある。
取り上げられた著作(作品)は27冊。
一番良く知られ、愛読者も多い「昭和史三部作」を始め、「日本のいちばん長い日」「ノモンハンの夏」など、あらためて眺めると錚々たるラインナップである。
それらの作品を、池上彰や保阪正康、佐藤優など名だたる評者が丁寧に解説を加えている。ポイントはその作品に相応しい当時の貴重な写真や絵などのヴィジュアルがふんだんに用いられていること。歴史的にも貴重な写真がたくさん掲載されている。
この辺りはさすがに別冊太陽と嬉しくなってしまう。別冊太陽ならではの、それは見事な編集である。
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半藤一利の知られざる世界
その他に、それほど知られておらず、見る機会もあまりない半藤一利さんの知られざる世界を詳しく紹介してくれているのが、これまた嬉しい。
特に目を引くのは、半藤一利さんが作った木版画の数々。話しには聞いていたが、まとめて見させてもらうとかなり見応えがある。いかにも玄人はだしの立派なものだ。
半藤さんは木版画だけではなく、絵や俳画もものにした。自身の作品に半藤さん自身が書いた絵や俳画が掲載されているものも多いのだが、ここではそれらをかなりまとめて見ることができるのも嬉しい。実に味わい深い絵が多い。
半藤さんは俳句も熱心に作った。代表的な俳句がグラフィックとして味わえるように掲載されているのも貴重だ。
注意が必要なこと
一方で少し不満というか、注意が必要なことがある。
最大の不満と注意点は、この本はあくまでも半藤一利という人物とその著作物を、豊富な写真と適切な解説で紹介しようとしたビジュアル・グラフィック本であって、この本の中に、半藤一利自身の文章や記事が載っているわけではないことだ。
あくまでも、写真や豊富な資料を伴って解説や紹介をする本であって、半藤一利の文章そのものを読むための本ではないことには、注意してもらう必要がある。これは人によっては不満を感じる向きもあるだろう。
厳密に言うと、半藤一利の文章が全くないわけではなく、評者による作品の紹介と解説に加えて、半藤さんの本の中の大切なフレーズであるとか、キーワードは豊富に盛り込まれている。これはグラフィック本としては、当然のことだろう。
その本の中で書かれた最も印象的な、大切なフレーズが大きな文字で、紹介・解説文の中に目立つように掲載されている。
正に視覚に訴える名著の紹介となっているわけだ。これを拾い読みするだけでも、とても楽しい。
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「東京駅幻想」という貴重な未発表原稿は感動的
半藤一利自身の記事はないかのように書いてしまったが、それは正確ではない。実は1本だけだが掲載されている。それが「東京駅幻想」という未発表原稿である。わずか6ページだけの非常に短いものだが、他のどこでも読めないもの。
「山手線・各駅停車」と題して、山手線各駅にまつわる歴史的な遺構とともに、江戸から昭和の東京を歴史散歩する企画が進められていたが、結局まとまることはなかったということだ。この「東京駅幻想」は、その第一回に収録される予定だったもの。
非常に印象に残る感動的な一編で、これを読めたことは思わぬ収穫だった。これはファンならずとも読んでほしい珠玉の一編だ。
半藤一利の全体像を俯瞰的に把握できる優れもの
この情報量が非常に多いグラフィック本によって、半藤一利の全体像を、さまざまな視点から俯瞰的に把握できる点は本当に貴重である。
半藤一利と、彼が取り扱った幕末から昭和にかけての日本の近現代史に興味のある方には、必携の一冊。
写真などがふんだんに用いられたヴィジュアル・グラフィック本だけに、少し値は張るが、それだけの価値は十分にある。
前に紹介した文春ムックの「半藤一利のすべて」と並ぶ、もう一冊の新たな家宝となることは間違いない。
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半藤一利(292) 歴史とともに生きる (日本のこころ 別冊太陽) [ 別冊太陽編集部 ]
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