目 次
この本に非常に興味が持てた訳は
あるきっかけがあって、「経営理論に学ぶ病院経営戦略」という千葉大の井上貴裕先生の新刊本を読んだ。この本は昨年(2020年)の9月に刊行されたばかりの新しい本だったのだが、僕は1月、土日の二日間で一気に読み終えた。一気に読まなければという多少の義務感もあったのだが、こんな堅苦しい半分専門書のような235ページの難しい本を、そうは言っても中々一気に読めるものではない。それが一気に読めたのは、とにかく僕にとって非常におもしろかったせいである。
この「経営理論に学ぶ病院経営戦略」という本にはサブタイトルが付いている。「経営学の巨匠は、この時代に何を示唆してくれるのか」というのがそれだ。
要するに病院経営と直接的には何も関係のない「経営学」の世界の巨匠の理論が、今日の日本の厳しい病院経営にどのような示唆とアドバイスを与えてくれるのか?
逆に言うと、病院の経営難、統廃合などによってますます病院の経営が困難さを増すばかりか、生き残りそのものまで厳しくなっている日本の病院経営を担うに当たって、世界の経営学の巨匠たちが発表した様々な経営理論から、病院の経営に役立つものはないだろうかという視点から書かれた1冊だ。
僕も病院経営を日々考える立場として、興味津々。実際に読んでみて、ワクワクドキドキ、夢中になって一気に読んでしまった。この本に書かれている内容が非常に示唆に富むものばかりだったということに加えて、日頃から僕自身が考え、一部は実行もしていることについて、体系的に要領よく整理できただけではなく、理論的なバックボーンを得られたばかりか、自分が日々やっていることに対して、少し自信にもなったのである。本当に貴重な本との出会いとなった。
著者の井上貴裕は千葉大病院の副院長でありながら、経営学を極めた逸材
井上貴裕は以下のとおえい国立大学の医学部の副院長なのだが、実際に医師の国家資格をお持ちなのかどうかは僕は存じあげない。医学部で経営学も極めたという珍しい経歴の持ち主で、日本の医療界にあって非常に貴重な存在である。プロフィールを紹介する。この本の巻末に記載されているものをそのまま書き写すことにする。
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を取得
東京医科歯科大学医学部附属病院 病院長補佐・特任准教授を経て現職
東邦大学医学部医学科客員教授
医学部にあって、病院経営という医学以外の経営にも通じているという人は滅多にいない。医者でありながら法律も勉強して弁護士でもあるという人は何人も知っているが、経営学を極めたという人は井上貴裕の他にはいないのではないか。
著書もかなり多い。病院経営の本ばかりだ。その中でも僕が一番興味を惹かれたのがこの本だった。行きつけの書店で平積みとなっており、正にこういう本を待っていた!と即座に購入。そして2日間で一気に読み切ってしまったという次第。
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病院の事務長職としてずっと苦労を重ねてきたが
実は、僕自身が病院の事務長職が長く、今まで全国5カ所の病院の事務長職(病院の規模や組織によって呼び方が様々で、「事務長」「事務部長」「事務局長」など色々だ)を務めてきたが、ここにきて急に今までの経験や知識を整理したい、まとめてみたい。場当たり的に対応してきたが、この辺りで、今までの様々な自分の取り組みを理論的にもまとめ上げたい。そして、もし可能ならば、更にどこかで役に立てたいと願うようになってきた。
今までの僕は、目の前の病院、現に自分が勤務している病院が抱えている課題と問題点(病院という組織は、どこでも非常に多くの課題と問題点を抱えていることがほとんどだ)と対峙し、必死になってその課題・問題点と格闘するだけで、一部の内容を除いて、しっかりと理論的に整理されているわけでもなかった。
もっともどこの病院でも大きな課題・問題点を抱えているとは言っては、それぞれの病院によって、その課題と問題点は千差万別であり、共通する部分も多いが個別の問題点がかなり深刻な部分が少なくない。
「病気の病院を治すのが事務長職の使命」というのが僕の持論
病院は病気を治すところであり、医師が中心となって医療技術職、看護師と力を合わせて患者の病気を治す。僕のような事務長職は、「経営的に病気に陥っている病院そのものを治す」と僕はずっと信じてこの道で働き続けてきた。僕の直接の部下に当たる事務職員にも「君たちの仕事は病気の病院を治すことだ」と常々言い続けても、きた。
病気の病院を治すためにどんな処方箋を出すのか、それを考えるのが事務長職の仕事だということだ。本当にがむしゃらにやってきたつもりだが、どうしても場当たり的なものになってしまいがちだ。
今まで自分がやってきたことを理論的に体系立て、更に新しい処方箋の手掛かりはないものだろうか?
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「病気の病院を治す処方箋」となりうるアイデアの数々
そんな思いで本書を読んだら、おもしろくて、おもしろくて週末の2日間に集中して一気に読んでしまったというわけだ。読んでいてワクワクドキドキ、目から鱗が落ちるの連続で興奮させられた。これは本当に貴重な本となった。
例えば、こんな内容である。
〇ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーターの「新任CEOを驚かせる7つの事実」の病院経営への当てはめ
〇ハーバード・ビジネス・スクールのリーダーシップ論の権威であるジョン・コッターの「変革を成功へと導く8つのステップ」
〇リーダーに求められる特性、リーダーシップの類型とPM理論
〇マーケティングの3C分析
〇技術のSカーブとプロダクト・ライフ・スタイル
〇マイケル・ポーターの競争戦略からブルー・オーシャン戦略へ
〇マイケル・ポーターのポジショニング・アプローチの教え
〇ゲーム理論が教えること
〇DPCデータを用いた診療領域別のSWOT分析
〇マーケティングの4Pの視点の活用
〇PPMによる資源配分
〇PIMS研究から得られた知見
〇BSCの貢献
〇チェスター・バーナードの組織論
〇医療機関における人間関係論
〇ハースバーグの組織の動機付け理論
〇病院におけるベンチマーキングの事例
〇ドラッカーのHSR などなど
ザッと拾い出してもこんな具合だ。近現代の著名な経営学者が唱えた様々な経営理論を簡潔に分かりやすく紹介し、それを今日の日本の病院経営に当てはめるとこういう改革ができそうだという提案がなされている。特に数多くのビジネス・フレームワークの紹介は嬉しかった。
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意外にも、この本には厳しい書評が多いようだが
僕は実に興味深くこの本を読むことができたのだが、井上貴裕が日本の病院経営に当てはめる具体的な展開を巡って、少し調べるとこの本にはかなり厳しい評価があることが判明した。
一言で言うと、巨匠の経営理論の日本の病院経営への当てはめ、応用が弱い。簡単な提示に終わっていてあまり現実的には役に立たないという批判のようだ。
それはあまりにも情けないと僕は思う。
この本を読んで、そのまま現実の病院改革に直接活かせるなんて期待する方がどうかしている。そんな読み手では実際の病院改革などできるはずがないと言ってしまいたくなる。
ここには貴重なヒントとアドバイスが山のようにある。日頃から取り組んでいる改革に理論的な裏付けを与え、病院経営の壁にぶつかって日々悩んでいる病院長や事務長職にかけがえのないヒントを与えてくれるものだ。
このヒントから何を引き出して、実際の病院の改革、つまり「病気の病院を治すための処方箋」をどのように作り、実際に進めるかは読んだ側の病院管理者(病院長・事務長)の知恵の働かせどころだ。これをしっかりと読んで、ヒントを得て、後は自分の頭の中で、しっかりと考えて、行動に起こす。そうしなければ。
僕にとってはヒント満載の貴重な本となった
刺激に満ち溢れたかけがえのない一冊。僕が迷いながらも進めてきた実際の病院改革の在り方が理論的にかなり整理することができたことが何よりも嬉しい。新たなヒントとアドバイスも数多く得られることができた。こういう本は中々あるものではない。僕にとっては貴重な本となった。井上貴裕先生に心から感謝したい。
一つだけ不満があったのは
最後にクレームも書いておく。これは井上貴裕先生には直接の責任はなく、出版社の責任だと思うのだが、この本には誤字脱字の類が非常に多い。こんなお粗末な本も珍しい。中身の濃い、素晴らしい内容なのに、これはないだろう。早急の校正をお願いしたい。
興味を持たれた方はこちらから
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経営理論に学ぶ病院経営戦略~経営学の巨匠は、この時代に何を示唆してくれるのか [ 井上 貴裕 ]
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