目 次
ヤナーチェクに興味を持ったら次はこれ
ヤナーチェクのことを色々と紹介してきた。
作品としては2曲の弦楽四重奏曲を真っ先に取り上げたわけだが、これを聴いてもらってヤナーチェクの音楽に興味を持たれた方は、是非とも今回取り上げる「シンフォニエッタ」というオーケストラ曲を聴いてもらいたいと思う。
ヤナーチェクの生涯とその独自の音楽に興味は持ったものの、まだ弦楽四重奏曲は聴いていないという方には、むしろ良かったと申し上げたい。
「クロイツェル・ソナタ」「ないしょの手紙」という2曲の弦楽四重奏曲よりも、今回取り上げる「シンフォニエッタ」の方が、ヤナーチェクの入門曲、初めてヤナーチェクを聴くには相応しいからだ。
「シンフォニエッタ」は、ヤナーチェク作品として最も良く知られた曲であり、あの奇怪なと呼んでもいい風変わりなヤナーチェクの音楽を初めて聴いてもらうには、うってつけなのである。
ヤナーチェクならではの極めて独創的な音楽が存分に現れてその魅力を満喫できるばかりか、非常に分かりやすく感動的な作品でもある。
シンフォニエッタ=ミニ交響曲
「シンフォニエッタ」というタイトルは少し聞き慣れないものかもしれないが、これは「シンフォニー」の変形だと思ってくれれば間違いない。
シンフォニーはもちろん交響曲のことで、「シンフォニエッタ」はズバリ、ミニ交響曲といった意味である。
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「シンフォニエッタ」の概要
作曲されたのは1927年。ヤナーチェクが亡くなったのは1928年なので、最晩年、亡くなる1年前の73歳のときに作曲された作品ということになる。
73歳の作品とは到底思えないエネルギッシュでバイタリティに溢れた力作である。
大オーケストラのための「シンフォニエッタ」は、当初は「軍隊シンフォニエッタ」や「ソコルの祭典」と呼ばれていた。
第一次世界大戦が終了した1919年に、ボヘミアやヤナーチェクの故郷であるモラヴィアは「チェコスロバキア」として独立を果たし、オーストリア=ハンガリー帝国から解放された。
ヤナーチェクは「勝利を目指して戦う現代の自由人の、精神的な美や歓喜、勇気や決意といったもの」を表現するために本作を作曲したとされる。
そして、この力作の作曲に当たっても、例のカミラ、カミラ・シュテスロヴァーが関わってくる。
38歳年下の人妻で、年老いたヤナーチェクが猛烈に愛した女性だ。
ヤナーチェクはカミラと一緒に野外コンサートで吹奏楽を聴き、それによって「シンフォニエッタ」の開始楽章の霊感を得たらしい。
ここでも、伝統的なソナタ形式やロンド形式などヨーロッパのクラシック音楽を支配し続けた古典的な手法は排除されている。
全体の概要 約25分
以下の5つの楽章から成り、全曲を通して演奏すると25分程度を要する。各楽章には、タイトルが付いているわけではないが、当初は描写的な副題が添えられており、標題的な意図があったと言われている。
ここではその当初のタイトルも表記しておく。
5つの楽章は、それぞれ全てが非常に個性的で、聴いていてハラハラドキドキさせられるだけではなく、無条件に楽しくなってくる第一級の名作だ。
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第1楽章 約2分半
【ファンファーレ】(当初の副題)
文字通り吹奏楽によるファンファーレである。これもいかにもヤナーチェクならではの、極めて独創的な音楽だ。ファンファーレならではの解放感に浸ることができるが、ヤナーチェクはそんな余裕を与えない。
テンポが自由自在に変幻し、たちまちその音楽に翻弄されてしまう。これが楽しみの一つである。
第2楽章 約6分半
【城塞(シュピルベルク城)】(当初の副題)
この楽章にヤナーチェクの音楽の独自性、独創性が如実に表れる。いかにもヤナーチェクならではの驚嘆すべき音楽が流れ出す。
テンポの自在さが半端ではない。ゆったりとした伸びやかな楽想が、次の瞬間には細かいリズミカルな音楽に急変し、またテンポを下げと、次から次へと変化していく。
そこに規則性は感じられず、即興的にテンポと楽想を変えていく。そんな何のルールも束縛もない自由自在な音楽。
ヤナーチェクの音楽の特殊性が7分足らずの中に凝縮されているような驚くべき音楽だ。
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第3楽章 約5分半
【修道院(ブルノの王妃の修道院)】(当初の副題)
この楽章が凄い。とにかく聴いていてビックリさせられて、鳥肌が立ってくる。
これを初めて聴いたときの衝撃は忘れられない。そして驚くべきことは、これだけ繰り返し聴いた後でも、聴く度に新たな衝撃と感動を受けること。
すすり泣くかのような哀切を極めたメロディがゆったりと流れ出す。本当に繊細を極めた美しい音楽だ。そのゆったりとしたメロディに身を委ねていると、いつの間にか少しずつ様相が変わっていって、最後には想像もつかない音の展開、音の洪水に引きずり込まれる。
知らないうちに曲想がガラッと変わって、聴く者を未知の世界に引きずり込んで行く。
これはちょっとした恐怖体験に近いかもしれない。こんな感覚を味わえる音楽はヤナーチェクしかない。
「シンフォニエッタ」全体のクライマックスと呼ぶべき、脳裏にこびり付いて離れなくなってしまう音楽がここにある。
これまた驚嘆すべき5分半。
第4楽章 約3分
【街路(古城に至る道)】(当初の副題)
いかにもヤナーチェクらしい細かなリズムによる闊達な曲。最高傑作と言われているオペラ「利口な女狐の物語」とそっくりな節回しが随所に出て来る。
3分の短い曲だが、ここにもヤナーチェク節が満載だ。
第5楽章 約7分半
【市庁(ブルノ旧市庁舎)】(当初の副題)
この最後の楽章も大いなる聴き物である。ぎっしりと詰まったヤナーチェク節が炸裂する。
細かいリズムと伸びやかなメロディが同時に奏でられる不思議な音楽。正に不条理を描く現代劇がここでも展開される。
それらがやがて、聴いていて解放感一杯のウキウキする音楽に収れんされてくる。大らかな音楽が伸びやかに奏でられ、最後には第1楽章のファンファーレが戻ってくる。
力強く鳴り響く管楽器とティンパニとで大いに盛り上げて、最後はひと際力強い響きとなって感動的にフィナーレを迎える。
思わずお腹が一杯になるような音の洪水が気持ちいい。
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ヤナーチェクの入門曲にして神髄がタップリ
「シンフォニエッタ」はヤナーチェクの最も良く知られた作品で、代表作と言っていい。
ヤナーチェクは他に類例のない極めて独創的な作品を作り続けた作曲家だけに、大オーケストラによる25分足らずのこの作品は、ヤナーチェクの入門曲として、これ以上最適なものはない。
ヤナーチェクの音楽の特徴とその神髄がタップリと収められている。
独自の音楽語法を迷わず展開
伸びやかさと闊達さ。
ヤナーチェクならではの類例のない独自の音楽を既に確立した後で、試行錯誤を重ねるのではなく、自らが独創的に作り上げた特殊な音楽を思う存分に使いこなして、悠々自適に余裕をもってヤナーチェク節を何の躊躇いも迷いもなく展開する。
そんな印象を受ける。ここにはヤナーチェクが自ら生み出し、辿り着いた音楽手法の全てが込められていて、これでもかとばかりに展開される。
全体を通じてテンポの自在さには舌を巻くばかり。何のルールもなく、勝手気ままに次々に音楽が姿を変えていく様には驚くしかない。
夢見心地なゆったり感と神経を逆なでる刺激的なパッセージが隣り合わせとなっている不可解な音楽。
繊細の極みのような音楽とバイタリティに満ちたエネルギッシュな音楽が同時に奏でられる極端な音楽だ。
まさに現代の不条理劇そのものだ。
死を翌年に控えた73歳の老作曲家が書いた音楽だとは到底思えない。
奇跡の10年間の最後を飾る集大成のような作品だ。
それを入門曲と言っては失礼だろうが、その音楽があまりにも変わっているだけに、惜しみなく最も明確に特徴が出ているものを、入門曲と呼ぶわけである。
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ヤナーチェクの音楽は空恐ろしい
我々が過去に聴いたことのない音楽を全面展開する。そこに全く迷いがない。音楽史上の突然変異のような音楽はどうして生まれたのだろうか?
しかも65歳からの10年間に限定。これは長い音楽史の中にあっても最大の謎、ミステリーの一つであろう。
その音楽は、我々聴く者を、全然知らない未知の世界、想像もつかない世界に連れて行ってくれる。
思わず戦慄し、鳥肌が立ってしまう想像を絶する音の宇宙だ。
恐ろしい。それでいて、その音楽は親しみやすさにも溢れていて、直ぐに我々を虜にしてしまう魔法のような音楽でもある。
「シンフォニエッタ」を聴けば、その全てが理解できるだろう。
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狂詩曲「タラス・ブーリバ」も名曲
狂詩曲「タラス・ブーリバ」は、ヤナーチェクが1918年に作曲した管弦楽曲である。
ロシアの文豪ゴーゴリの小説「タラス・ブーリバ(隊長ブーリバ)」に基づく標題音楽で、ヤナーチェクのオーケストラ曲の傑作として知られているものだ。
作曲された1918年は、ヤナーチェクが驚異的な創作力を爆発させた「奇跡の10年間」のスタートに当たる。
厳密に言うと、初稿は1915年に作曲され、その後ヤナーチェク自身によって改訂されて、抜本的な変更が加えられ、ほぼ現行版の第2稿が完成されたのが1918年ということになる。
まだヤナーチェクの爆発的な創作力が発揮される前の作品に、カミラと出会うことによって爆発した創作力によって全面改訂されたということだろう。
ここにはまだ「シンフォニエッタ」の余裕と達観はないが、非常に力強いエネルギーに満ちた力作となっている。
以下の3つの楽章から成り、ゴーゴリの小説の登場人物とその死が描かれている。
第1曲 アンドレイの死
第2曲 オスタップの死
第3曲 タラス・ブーリバの予言と死
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「利口な女狐の物語」の管弦楽組曲まで収録
このCDの凄い点は、「シンフォニエッタ」と「タラス・ブーリバ」に加えて、ヤナーチェクの最高傑作と言われるオペラ「利口な女狐の物語」の管弦楽組曲まで収録されていること。
この「利口な女狐の物語」は、僕が最も気に入っているオペラの一つ。近日中にじっくりと取り上げるつもりなので、ここでは簡単に触れるに留めておくが、本当に何とも不思議なそれでいて実に感動的な奇跡のようなオペラ。
そのオペラのオーケストラ部分だけを約20分間ほど抽出している。
改めてオーケストラ部分だけを聴いていても、あまりにも類例のない独自の音楽で、驚嘆させられる。
ヤナーチェクの音楽の真骨頂がここにギッシリと詰め込まれている。
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マッケラスの超名演がこれだ
この1枚のCDは、ヤナーチェクのオーケストラ作品を聴くにはこれ以上のものはないという超名演である。
指揮はチャールズ・マッケラス。オーストラリア出身という変わり種だが、多くのチェコ出身の指揮者を退けてヤナーチェクの最高の指揮者と言われている。
多くのオペラ作品を含めて数多くのヤナーチェク作品のレコーディングを精力的にこなし、今日ヤナーチェクの作品が世界的にここまで普及し、愛されるようにようになったのは、マッケラスのおかげと尊敬を集める指揮者だ。
しかも凄いと思うのは、マッケラスのヤナーチェク作品の録音は、全て世界最高のオーケストラであるウィーン・フィルとタッグを組んだ点だ。
オーストラリア出身のマッケラスがウィーン・フィルと組んで、チェコ、それもモラヴィアで活躍したヤナーチェクの作品を次々と録音した!
しかも演奏は驚くべき名演の数々。
こうしてモラヴィアのヤナーチェクが一挙に脚光を浴びて表舞台に華々しく登場し、今日のヤナーチェクブームの到来となったわけだ。
この1枚には、そんなマッケラスとウィーン・フィルの最高のヤナーチェク演奏がギッシリと収められている。70分近い収録時間で、ヤナーチェクの音楽の神髄を存分に味わうことができる。
一人でも多くの音楽ファンに聴いていただき、ヤナーチェクの音楽の素晴らしさを体験していただきたいと切望するばかり。
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入ください。
1,113円(税込)。送料495円。合計1,608円(税込)。
輸入盤だが、これが最高の演奏。「タラス・ブーリバ」もヤナーチェクの最高傑作であるオペラ「利口な女狐の物語」の管弦楽組曲まで収められた素晴らしい1枚。
これさえあればヤナーチェクの管弦楽曲は十分だ。
【輸入盤】 Janacek ヤナーチェク / シンフォニエッタ、タラス・ブーリバ、『利口な女狐の物語』組曲 マッケラス&ウィーン・フィル 【CD】