目 次
ようやく観た「オッペンハイマー」
色々な意味で今年前半の映画の話題を独占した感のあるクリストファー・ノーラン監督の新作「オッペンハイマー」をようやく観ることができた。
こんなに遅くなってしまったのは、ひとえに僕の怠慢が原因だった。
この超話題作の「オッペンハイマー」を僕は映画館で観ることができなかった。
ではブルーレイで観よう!と決めたのだが、「オッペンハイマー」のブルーレイの販売はかなり早く、もちろん僕は販売されると同時に購入した。
というわけで「オッペンハイマー」のブルーレイは、9月4日にはもう僕の手元にあったのだ。
それなのにほぼ2カ月間に渡って、全く観る機会がないまま、温めておいた。
もっと早く観るべきだったと後悔している。
本当にすごい作品で、僕は圧倒されてしまったからだ。
僕が最も注目し、熱愛しているクリストファー・ノーラン監督の新作にして、今年のアカデミー賞を独占した超話題の「オッペンハイマー」。
アカデミー賞では何と全13部門でノミネートされ、実際に作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、音楽賞などの主要部門はもちろん技術面でも高く評価され、合計7つのオスカーに輝いた。
日本での公開が8カ月も遅れたこと
オッペンハイマーが原爆を作り出さなければ広島と長崎に原爆が落ちることもなかったわけで、オッペンハイマーという人物の評価は、唯一の被爆国である日本ではかなり微妙なものがある。
そのオッペンハイマーを主人公として原爆が生み出される過程を詳細に描いたこの映画に対し、日本での公開が物議を醸すのは明らかだった。
むしろ人類史上最悪の兵器である原子爆弾がどのようにして作られ、その結果、広島と長崎でどのような悲惨な地獄絵が起きたのかという、原爆の暗黒面を容赦なく真っ正面から描いてくれたのなら良かったのだが、この映画では広島と長崎での原爆の被害の直接的な描写は、全く描かれない。
これはどう評価すべきなのか?
広島と長崎の被害を一切描かないのは、どう考えても問題だと感じるのは、もちろん良く分かる。
そんな中途半端な原爆誕生物語はあまりにも片手落ち、日本にとっては到底容認できないことだとして、日本での公開が、アメリカでの大ヒットが連日のように報道される中にあって、いつまで経っても未定のままで、下手をすると日本では公開されないのではないか、と訝る情報も飛び交った。
そして8カ月間も遅れて、アメリカでアカデミー賞7部門受賞の快挙が伝わった直後に漸く公開に漕ぎつけたことは、まだ記憶に新しいところだ。
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アカデミー賞独占も納得のすさまじい映画
「オッペンハイマー」を作った監督は僕が熱愛している鬼才クリストファー・ノーランである。
ノーランの映画はほぼ全て観ている。熱烈なノーラン監督のファンなのに、どうして晴れてオスカー独占したノーラン畢生の大作を、直ぐに観ようとしなかったのか?
シネフィルとしては、あってはならないことだ。本当に恥ずかしい。
その理由を正直に振り返ってみると、どうやらこの映画に対する強い批判、特に日本における批判が僕の頭の中に影響を及ぼし、確かに広島と長崎の実際の被害状況が一切描かれていない原爆映画はダメだな、と観る前から決めつけていたきらいがある。
とんでもないことだった。そういう先入観が一番良くないと常々考えているのに、自らその罠に落ちてしまっていた。
そんな批判は筋違いで、この映画の価値を貶めることには全くならない。
映画として、これは超一級品。ノーラン監督畢生の大作として、観る者の魂を激しく揺さぶらずにはおかない、すごい映画だった。
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映画の基本情報:「オッペンハイマー」
アメリカ映画 180分(3時間)
公開日 アメリカ 2023年7月21日
日本 2024年3月29日
監督:クリストファー・ノーラン(アカデミー監督賞)
脚本:クリストファー・ノーラン
原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』(2005年)
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン、クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィ(アカデミー主演男優賞)、エミリー・ブランド、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr(アカデミー助演男優賞)、フローレンス・ビュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラマー 他
音楽:ルドウィグ・ゴランソン(アカデミー作曲賞)
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ(アカデミー撮影賞)
編集:ジェニファー・レイム(アカデミー編集賞)
主な受賞歴:アカデミー賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・撮影賞・音楽賞・編集賞 ゴールデングローブ賞 映画作品賞(ドラマ部門)・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・音楽賞 他多数
キネマ旬報ベストテン 次年度取扱い
どんなストーリーなのか?
この映画はもちろん実在の「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの伝記映画なので、どんなストーリーなのか?も何もない。
第二次世界大戦の真っ最中に、アメリカのロスアラモス国立研究所の初代所長としていわゆる「マンハッタン計画」を推進し、原子爆弾を作り出した天才物理学者の波乱の人生を描いた作品だ。
映画の原作となったのは、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンが25年の年月をかけて書き上げた伝記『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』が元になっている。
この伝記そのものが2006年のピューリッツァー賞伝記部門を受賞している大変な労作にして傑作だ。
この伝記に基づいて、映画「オッペンハイマー」は、様々な困難を克服して見事に原子爆弾を作り出し、実験で成功させる前半と、それが実際に用いられ、壮絶な被害が発生した後で、深く苦悩し追い詰められていくオッペンハイマーの姿を描いていく。
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映画が描くオッペンハイマーの3つの局面
この映画では、オッペンハイマーの3つの局面というか、3つのテーマが描かれる。
先ず第1は、第二次世界大戦の末期に、オッペンハイマーが中心となって極秘に進められた原子爆弾の開発である。世に知られた「マンハッタン計画」だ。
これは目標の達成物語。困難なミッションで常に対立が絶えないチームを率いて、達成不能と思えた目標を、見事に成し遂げる成功物語だ。
これがもちろん前半のハイライト。
第2は、自らが作り上げた原爆が実際に使われてからの戦後、見事に成功したにも拘らず、オッペンハイマーが苦悩していく物語だ。
原爆が完成し、実際に使用されてアメリカは勝利し、第二次世界大戦を集結させながらも、原爆の開発が間違っていたと悔恨するオッペンハイマーの苦悩する姿が描かれていく。
第3も、原爆完成後の戦後の物語。
オッペンハイマーは最終兵器を作ってしまったと悔やむ中で、核兵器に反対する立場に回り、特に原爆を遥かに凌駕するとつてもない破壊力を待つ水爆の開発に対する反対運動を展開。
それを良く思わない当局から目をつけられ、奇しくも赤狩りの時代。オッペンハイマーが共産主義者であり、ソ連のスパイだったという疑惑で原子力委員会で追求され、最終的には公職追放されてしまうという転落の物語。
この3つが、実は同時に描かれていくのが映画「オッペンハイマー」だ。
栄光と転落
「悪」を制裁することで戦争を終結させ、アメリカを勝利に導くためにチームを率いて前代未聞の原爆を作り上げる成功エピソードから、戦後は一転して、原爆開発の後悔にさいなまれる中、救国の英雄が共産主義者、ソ連のスパイとして糾弾され、追放されてしまう転落エピソードまでが容赦なく描かれる。
成功直後の転落。栄光からの挫折。この転落ぶりが凄まじい。栄光から転落までの振幅の幅の広さが半端ない。
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3つの時間が錯綜し、混乱をきたすかも
この映画を観ていて少し混乱を招きかねないのは、振幅の幅が広過ぎるオッペンハイマーの人生の3つの局面が、映画の中では同時に描かれていくことだ。
3つの局面が時系列に沿って、順番どおりに描かれれば分かりやすい。そう描くのが普通だろう。
ところがノーランの手にかかるとそうはならない。
ノーランはこの3つの時間軸をバラバラにして、同時進行的に描いていくのである。これはいかにもノーランならではの描き方だ。
この映画、脚本もノーラン自身が書いている。
ノーランの映画の最大の特徴は、時間軸の分解なのである。時間の扱いにトコトン拘って、多くの作品で時間が重大なテーマとなっている。
この「オッペンハイマー」でもその真骨頂が示される。
3つの局面が、実際に起きた時間的前後関係と全くお構いなしに、前後の脈絡なく同時並行して描き、錯綜させるのがいかにもノーランらしいと思い知らされる。
だが、一般の観客には少し戸惑いと混乱が起きるかもしれない。
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3種類の映像に区分けされている
実は、ノーランの映画作りは凝っていて、3つの局面、いや、必ずしも僕が書いた3つの局面とは言い切れないのだが、この映画では、映像が3つに区分けされている。
先ずは、カラーで普通に描かれるバージョンと白黒バージョンがある。
更にカラーで描かれる部分も、映像の大きさが2つのパターンに分かれている。つまり3種類の映像が使い分けられているのである。
家庭のテレビでブルーレイを再生すれば、直ぐに分かるだろう。
それを理解できれば、それほどの混乱は来さないかもしれないが、カラーバージョンの2種類がどういう基準で区分けされているのかは、実際に映画を観て、それぞれが判断してほしい。
僕が書いたオッペンハイマーの人生を彩る3つの局面と、必ずしも一致するものではない。
これはある意味でこの映画の「謎の究明」となる。
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クリストファー・ノーラン監督のこと
監督・脚本のクリストファー・ノーランは、現在、最も脂が乗っている世界最高の映画監督の一人である。
ノーランがこれまで監督してきた作品は全てが話題作であることはもちろん、傑作ばかりで駄作は1本もない。
イギリス出身で、まだ54歳という若さ。今後どんな傑作を撮ってくれるのか楽しみでならない。
若さもあるが、もともと数年に1本しか撮らない寡作家で、今回の「オッペンハイマー」で、長編映画としては11本目の映画となるが、その全てが映画史に残る傑作、名作ばかりである。
このブログでも以前、「ダンケルク」を紹介している。
特に世の映画ファンから熱烈に支持されているのが「ダークナイト」。急逝したヒース・レジャーが鬼気迫るジョーカーを演じて話題となったバットマンの新シリーズだ。
これが多くの映画ファンを唸らせて、一気にノーランは世界のトップ監督に躍り出た。
こんな娯楽映画を、観た人が一生忘れることができないような強烈で妥協のない圧倒的な映像と人間描写で描いて見せたのだ。
誰だってこれを観ればみんな圧倒され、夢中になってしまう。
【後編】に続く
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