また読者から紹介された絵本

僕の長年の友人でこのブログの熱心な読者から、またある絵本の紹介を受けた。

この友人は先日の合唱曲作曲家の信長貴富の感動的な朝日新聞の記事を送ってきてくれたあの高校時代の後輩にして親友でもある例の彼である。

彼が先日また朝日新聞の読者の投稿記事を送ってきてくれて、その記事がある絵本を絶賛しており、「僕は読んだことありません」と言う。

その新聞の投稿記事のタイトルは「もがく意味 絵本が教えてくれた」という興味深いものだった。

取り上げられていた絵本は、刀根里衣の「なんにもできなかったとり」だった。もちろん僕だって読んだことはない。

こうなると僕の出番だ。その記事を読んでたちまち興味を持った僕は、例によって即座にその絵本を注文し、早速読んでみたという次第。

紹介した「なんにもできなかったとり」の表紙の写真
表紙。帯に書かれた吉本ばななのごく短いコメントが本質を突いていて唸らせる。
「なんにもできなかったとり」の裏表紙。帯の解説が分かりやすい。
裏表紙。こちらの帯に載せられた短い解説が非常に分かりやすい。

 

「う~ん、これは・・・何という絵本だ」というのが僕の第一声。

次に、「絵本でこんなテーマを取り上げるんだ。そしてこの結末は、どうなんだ?!」

ズバリ「これが子どもが読む絵本なの?」

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「なんにもできなかったとり」の基本情報

NHK出版刊。現在はイタリアのミラノで活躍中の絵本作家、刀根里衣(とねさとえ)のイタリアデビュー作の日本語版である。

2015年7月10日 第1刷発行。僕が購入した本は2024年9月20日発行の第7刷。10年間に渡ってコンスタントに増刷が繰り返されてきたことが分かる。 

冒頭の見開きに奥付けが載っている変わった体裁。
冒頭の見開きに奥付けが載っている変わった体裁。オリジナルのイタリア語のタイトル名が紹介されている。

 

注目してほしい点は、まだ世に誕生して10年も経過していない非常に新しい絵本だということだ。

立てた写真
立てるとこんな感じである。

本書の裏帯に掲載されている紹介文のとおり試作版を読んだイタリア人編集者が読み終えると同時に出版を決めた、という逸話が残っている話題の絵本である。

ページは本書の中には一切振ってないのだが、全49ページ。

絵本であり、しかも短いのでゆっくりと丁寧に読んでも5分もかからない、本当にアッと言う間に読めてしまうが、絵の素晴らしさが他の絵本とは一線を画している。この一枚一枚の絵をじっくりと時間をかけて眺めてほしい。そうしなければ済まされない絵本である。

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どんな話しなのか?

絵本だけあって、話しは非常に単純明快だ。

ある幼い鳥がいて、その鳥は一緒に生まれた兄弟たちと比べて、何をやってもうまくいかない。何をやらせてもできないか、あるいは遅いか。とても不器用で、あらゆる点で劣っている。それを何とかしようと本人(本鳥)は一生懸命に努力をするが、それでもうまくいかない。努力しても結果が出せない。

そんな中、遂になにもできない鳥にも周囲から頼りにされ、役に立てることが見つかった。喜びを隠しきれない鳥はそのことに懸命に取り組むのだが、やがて・・・・。

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作者の刀根里衣のこと

僕は今回、この絵本を読むまで、刀根里衣のことは全く知らなかった。

あらためて紹介させてもらおう。例によって、本書の扉に掲載されているプロフィールをそのまま引用させていただく。

絵本の扉に載っている作者のプロフィール
作者のプロフィール。絵本の扉からの転載。

 

福井県生まれ。絵本作家。2007年、京都精華大学デザイン学部ビジュアルコミュニケーション学科卒業。
2011年、ボローニャ児童書ブックフェアに持ち込んだサンプル絵本がイタリア人編集者の目にとまり、2011年、“Questo posso farlo"を刊行。本書『なんにもできなかったとり』は、その日本語版である。2012年より2年連続でボローニャ国際絵本原画展に入選をはたし、2013年には国際イラストレーション賞を受賞。受賞作を絵本化した“El viaje de PIPO"は各国から高い評価を得、メディア等で話題となる。その日本語版『ぴっぽのたび』、『きみへのおくりもの』、『モカと幸せのコーヒー』など、子どもから大人まで幅広い層に愛される作品多数(いずれもNHK出版)。

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寄せられる絶賛の声、声

この絵本は、基本的に絶賛されている。帯にコメントを載せている吉本ばななも『なんにもできないことの豊かさがキラキラあふれてくるようです』と最上級の言葉で賛辞を送っている。

元々この絵本を知ることになった朝日新聞の記事でも、

『もがいていれば、何かの、そして誰かのためになれるかもしれない。そんな「生き方」を教えてくれた。(中略)これまで人生の選択に迷ってきた私の生き方のバイブルになっています云々』と告白している。

本書を紹介する新聞の投稿記事
本書を紹介する新聞の投稿記事。中々感動的な話しである。

 

ホンの数十ページの絵本が、人生に迷う大人の生き方に大きな影響を及ぼすということは、大変なことである。

この絵本にはそれだけ切実な、生きることの本質に鋭く切り込んだメッセージが込められており、それにぴったりとフィットした人にとっては、この1冊はまさにかけがえのない宝物のような「人生を救ってくれた本」になるのかもしれない。

すごいことだなと思う。

劣等感を抱えながらどう生きるのか

ここにあるのは子どもたちの日常や家族とのほのぼのとした家庭風景ではなく、劣等感に苛まれる主人公の生きるか死ぬか、生きることの本質と意義に一切の妥協なしに鋭く迫る切実な内容だ。

こんな絵本が他にあるだろうか?

そういう意味ではこれは絵本とはいうものの、子どもたちよりもむしろ大人が読むべき本ではないか、絵本という体裁を取りながらも、生きることに劣等感を抱えながら苦しんでいる全ての若者や大人たちに向けて書かれた絵本なのではないか、そう思えてくる。

こんな絵本があることに仰天してしまう。

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一方で、否定的な感想も目立つ

大絶賛の一方で、実はかなり否定的な感想が目立つのも本書の特徴だ。

否定する人は、もちろん最後の部分に拒否反応を示す。ネタバレになってしまうので書くわけにいかないが、絵本の最後に納得できない。あの鳥の行く末に賛同できない。あの最後は子どもに読み聞かせできないと言う。

分からなくはない。そういう感想を待つ人がいても当然だろう。

作者の刀根にとっても想定内のことだったろうと思う。

前述のとおり、この絵本は劣等感に苛まれる主人公の再生の話しである。

そもそもそんなストーリーの絵本があるのか?

しかもその再生がいかにも微妙で、簡単に言えば、このエンディングはハッピーエンドなのか、それともバッドエンドなのか判断が分かれるところ。

多くの人にとって、少なくても無条件かつ素直にハッピーエンドとは言い切れないとして、受け入れ難いものなのとなってしまう。

読み終わって一点の曇りもないハッピーエンドでない絵本は困る。せめて祈りで終わってくれる分には構わないが、こういう終わり方は受け入れ難いと拒絶してしまう。

子どもに読み聞かせするのに、そう考える読者がかなりいるであろうことは想像に難くない。

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この鳥は作者の刀根自身だという

これも本書の裏帯に書いてあることだが、この何もできない鳥は、当時、無力感を抱いていた作者の刀根里衣自身だと言う。

なるほど。そういうことだったのか、と納得してしまう。

今は大成功を収めてイタリアのミラノで活躍中の注目の絵本作家の、「誕生の苦しみ」を投影した本作。

これを前提にすると、あの賛否両論に別れるエンディングが何を意味しているのか、自ずから決まってくるようにも思われる。

もっともそれをどう捉え、解釈すべきなのかは、もちろん読者一人ひとりの自由であり、作者の人生と作品そのものはあくまでも別物ではあることは、言うまでもない。

実際のところ、どうなのか?

実際のところ、このエンディングはどうなのだろうか?どう解釈すべきなのだろうか?

具体的な内容には触れずに議論を進めることは極めて困難だが、僕は個人的には全く抵抗がなかったどころか、非常に深く共感できて大歓迎、作者に心からの賛同と謝意を評したい気持ちで、胸が一杯になった。

拍手喝采したい気持ちになった。

大いに頷けた。これは「再生の物語」として感動必至、と諸手を挙げて歓迎したい。

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絵の美しさは万人が認めるところ

この絵本の構成は少し変わっていて、左右のページを見開いたときに、絵は右側だけにあり、左側には絵どころか全く色さえ付いていないただの白地に、ごく短い文章が書いてあるというスタイルが、最初から最後まで一貫して貫かれている。

こういう装丁の絵本は初めて見た。非常に大胆で、強いインパクトがある。

絵は右ページだけ。文章は左ページだけ、しかも色さえない白地のスペースのど真ん中に書いてある。

実際の絵本からの引用写真①
実際の絵本からの引用①。左右の極端な対象が非常にインパクトが強い。
実際の絵本からの引用写真②
実際の絵本からの引用②。強烈なまでのインパクト。大胆な作りに感嘆させられる。

 

その右側だけに現れる絵は、とにかく美しい。非常にカラフルでいて、しかも深い色がどのページも覆っている。

背景の色が非常に印象的で、そのカラフルな背景の中から主役の「とり」が浮かび上がるような描き方となっている。この背景の色合いが素晴らしく、どんなに眺めていても見飽きることがない

右側の絵だけの引用①
絵だけを引用。実に美しい。背景の美しさが絶品だ。心が癒される。
右側の絵だけの引用②
深い色が心に沁みてくる。絵本というよりも絵画集と呼ぶべきかもしれない。どれだけ見ても見飽きない。引き込まれてしまう。

 

ページ毎に様々な色を使った非常にバラエティに富んだ深い色合いが、心の中にじんわりと沁み込んでくる。

ストーリーもさることながら、この絵を見ているだけで、心が洗われ、幸福感に満たされることを約束したい。

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実際に読んで、どう感じるか確認してほしい

エンディングを巡って賛否両論のある本作だが、それはそれぞれに言い分と感性の違いがあって、どちらが正しいとか間違っているとかということではないことは、もちろんだ。

どう感じるかは読む人の感性ばかりか、その人の生き様、人生観などが直接的に反映することにもなる。人生のリトマス試験紙のような気さえしてくる。

読者のお一人おひとりに実際に読んでいただいて、どう感じるのか。それを各人で確認してほしいと願わずにいられない。

そういう何とも重い内容の絵本であることは間違いない。

この先ずは大人が読むべき感動的な絵本どうか実際に手に取って、読んでほしい。そして何を感じるか自身の心と対話をしていただきたい。

またとない貴重な絵本体験となることをお約束する。

 

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