目 次
ヘンデルはバッハとほぼ同時に生まれた
バロック音楽の大巨匠ヘンデルのことを初めて書く。大バッハの「音楽の父」に対してヘンデルが「音楽の母」と呼ばれるまでもなく、この2人の天才は何かと対照的な存在なのだが、何と同じ年の生まれであることを、ご存知だろうか?
ヘンデルは74歳の長寿
なお、何かと若死にが多い大作曲家の中にあってヘンデルは74歳の天寿を全うした。ほぼ同時に生まれた大バッハの方は、65歳とヘンデルより10年近く前に亡くなっている。
ちなみにバロック時代には長命の大作曲家が多く、大作曲家は若死にが多いというイメージはモーツァルトやシューベルト、ショパンやメンデルスゾーンなどの古典派やロマン派の作曲家たちのイメージが強いせいである。
僕が大好きなテレマンは何と86歳で亡くなる直前まで作曲していたし、ラモーも80歳。
熱愛しているモンテヴェルディも76歳だ。
すごいでしょう?みんなシューベルトの2倍以上生きている。
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僕はヘンデルがあまり好きじゃない
実は僕は、ヘンデルの良き聴き手ではない。
バロック音楽を熱愛する僕は、もちろんヘンデルの作品もかなり聴いてきたが、深く感動したり、夢中になったりすることは、今まで一度もなかったと、正直に告白するしかない。
「メサイア」を中心とするオラトリオの数々。バッハの「ブランデンブルク協奏曲」と双璧と称えられる「12のコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)作品6」、「水上の音楽」など、ヘンデルの名作として名高い様々な作品を聴いても、どうしても心を動かされない。
別に嫌いなわけではないが、特段魅力を感じることはない。
テレマン、ラモーの方が何倍も、何十倍も好きである。
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「ハレルヤ」の「メサイア」もつまらない
多分ヘンデルの膨大な作品の中でも最も有名なオラトリオ「メサイア」、これもあまり好きではない。
「メサイア」は2時間に及ぶ大作だが、その中で圧倒的に有名な曲が合唱曲の「ハレルヤ」だ。よく「ハレルヤコーラス」と呼ばれ、感動的な合唱曲の定番である。
合唱をずっと続けてきた僕も、様々な機会にそれこそ数え切れないくらい歌ってきたし、指揮もしてきた。
「ハレルヤ」の悪口をちょっと
でも、正直な話し、一度もいい曲だと思ったことはない。確かにそれなりに盛り上がることは認めるが、感動には程遠い。いかにも表面的で陳腐な音楽だ。
こんなことを書くと、熱心なヘンデルファン、合唱ファンから猛烈な抗議を受けて炎上してしまいそうだが、嘘はつけない。
あれは合唱初心者なら喜べるだろうが、それを喜んでいられるのは暫くの間だけだ。世の中にはハレルヤよりも感動的な合唱曲が、数え切れないほど存在する。
メサイアにはハレルヤの他にも合唱曲がたくさんある(29曲)が、どれも僕の心に響くものはない。
どうして「メサイア」が、バッハの「ロ短調ミサ曲」や「マタイ受難曲」、「ヨハネ受難曲」と同列に並べられようか?
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ヘンデル嫌いを驚嘆させた凄い作品と演奏
そんなヘンデル嫌い(ちょっと言い過ぎで、決して嫌いというわけではない)を驚嘆させる凄い音楽と演奏に、遂に巡り合ったので、今回はそれを取り上げたい。
僕が最も好きな指揮者の一人であるジョン・エリオット・ガーディナーが指揮をしたオラトリオ「セメレ」のライヴ映像である。
僕の手元にあるのはその傑出した演奏会を収録した輸入盤のブルーレイである。輸入盤とは言っても日本語の字幕があるので、鑑賞には何の問題もない。
これが言葉を失う程の素晴らしさで、興奮が収まらない。
ヘンデルは凄い!今までの僕の認識を改めなくちゃ、ダメだ。そう痛感させられた。
どうかこのとんでもなく素晴らしい上演記録を観て、聴いていただき、ヘンデルの魅力をトコトン満喫してほしいと切に願うものである。
その前に、ヘンデルのこと、更に近年のヘンデルの大ブームのことに触れておきたい。
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バッハ・ヘンデルと同年生まれの天才もう一人
ヘンデルは、あの大バッハことヨハン・セバスチャン・バッハと同じ1685年にドイツに生まれた。
ヘンデルの誕生日は2月23日。大バッハは3月21日なので、何とこのバロック音楽の2大巨匠の誕生日は1カ月も離れていないことになる。
実はこの1685年は音楽史にとって驚くべき年であり、もう一人、大作曲家を誕生させている。
チェンバロ(ピアノでも演奏される)の「ソナタ」で有名なドメニコ・スカルラッティだ。スカルラッティの誕生日は10月26日なので、日本の学年的な発想でいけば、バッハ、ヘンデルとは1学年ずれていることになるのだが。
ドメニコ・スカルラッティはイタリアのナポリで生まれ、スペインで活躍した。ちなみにドメニコ・スカルラッティの亡くなった年齢は71歳。バロック音楽の巨匠たちはみんな驚く程の長命を誇っている。
ヘンデルとバッハの対照的な生き様
大バッハとヘンデルはどちらもドイツに生まれながら、この2人の巨匠の生き様はまるで異なっていた。
ほぼ同じ時に同じドイツに生まれた音楽の天才でありながら、両者の間には全く合流がなく、実はこの2人は生涯一度も会ったことがない。
狭いドイツで不思議でならないが、理由はかなり明確だ。
生涯一度もドイツを出たことがなかったバッハに対して、ヘンデルはコスモポリタン、すなわち国際人で、若くしてドイツからイタリアに渡って、そこで大活躍をするのだが、その後はイギリスに渡り、ロンドンで大成功を収めて、最後はイギリスに帰化。ヘンデルはイギリス人となっている。
今日でも、イギリスではヘンデルは自国が生んだ最大の作曲家とされている。
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ヘンデルの生涯が作品の変遷に直結
ヘンデルはバッハ程ではないが、かなりの量の作品を残している。約600曲程ある。作品番号(HWV)では612曲。モーツァルトよりも若干少ないくらいか。正確に言っておくと、モーツァルトのケッヘル番号の最後はあのレクイエムで、K.626。ヘンデルとほとんど一緒だが、モーツァルトにはケッヘル番号の付いていない作品も相当数あって、全体で約900曲ほど作曲したと言われている。
ちなみにヘンデルにはHWV番号が付いていない作品はほとんど存在しない、念のため。
作曲家であると同時に優れたプロデューサーでもあって、営業能力にも恵まれ、ヘンデルの生涯は実に波瀾万丈でおもしろい。
イタリア時代は当時の音楽界にあって圧倒的に人気の高かったオペラを作曲し続け、その作曲と上演を勝ち取るためにエネルギーを使い果たし大成功。
25歳で一旦ドイツに戻るが、しばらくしてロンドンへ移って、最終的にイギリスに帰化する。
ロンドンでもオペラを作曲し続けたが、一方で英語を台詞とした「オラトリオ」というジャンルに挑戦し、それが大成功を収めるのである。
ヘンデルの生涯と作品との関係を簡潔に言うと、イタリア時代はイタリア語によるオペラ、イギリスに移住してからは引き続きのイタリア語のオペラと英語によるオラトリオという構図になる。
ちなみにオペラの作品数は約40曲。オラトリオは25曲である。
例の有名な「メサイア」はオラトリオ。「メサイア」の大成功で、オラトリオへの道が開けた格好だ。
ヘンデルの評価が一変した
ホンの40〜50年程前まで、ヘンデルの作品はロンドン時代の晩年のオラトリオには聴くものがあるが、イタリア時代とロンドン時代のオペラは失敗作と一般的には言われてきた。
ところが、最近ではその評価が一変し、オペラに熱い注目が集まっている。ヘンデルの演奏史と作品の受容の変遷が、今日大きく様変わりしていることを先ずは知って欲しい。
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ヘンデル・ルネサンスとオペラの復活
20世紀後半のバロック音楽の大ブームを受けて、バロックやその前のルネサンス時代の様々な作曲家やその埋もれた作品が発掘されることが珍しくなくなった。
しかもそれが演奏史とも直結し、バロック音楽の演奏と演奏曲目は一変してしまっている。
演奏ではほとんど例外なくピリオド楽器と呼ばれる作曲された当時のオリジナルの楽器、いわゆる古楽器で演奏されるのが常である。
そんな中でヘンデルの音楽にも大きな注目が集まり、大バッハの影に隠れていた感のあるヘンデルにもっと注目しよう!という一大ムーブメントが巻き起こり、今でもその真っ只中にある。
ヘンデルに熱い視線が集まる!
今日ヘンデルに熱い視線が集まり、ヘンデル・ルネサンスが巻き起こっている。
ここでの最大の特徴は、オラトリオで成功を収めたとはいっても、何故か「メサイア」一色だったものが一変し、ロンドン時代の様々なオラトリオが続々と発掘されて、今日では日常的に演奏されるようなってきた。
そればかりではなく、ヘンデル・ルネサンスは、遂にヘンデルのイタリア時代からロンドン時代の膨大な量のオペラの発掘に矛先が向かう。
従来まで考えられなかったヘンデルのイタリア語によるオペラが頻繁に録音され、舞台に取り上げられ、その上演を収めたディスクが続々と世に出ている。
かつてヘンデルのオペラといえば、何故か「ジュリアス・シーザー」1曲だけが知られていたが、今では状況一変。
「ジュリアス・シーザー」という英語のタイトルも、イタリア語の「ジューリオ・チェーザレ」と呼ばれるようになった。
他にもすっかり埋もれてしまっていた約40曲もあるイタリア語のオペラのCDや実際のオペラ上演を収めたブルーレイなどが、雨後の筍の如くに販売されている。
ヘンデルの受容は、大きな流れで言えばここ半世紀の50年間、特に近年の20年から30年間程ですっかり様相を変えてしまった。
正しく今日はヘンデル・ルネサンスの真っ只中にある。
今回取り上げた「セメレ」も、バロック音楽ブームとそこから続いたヘンデル・ルネサンスの中で復活してきたものだ。
このブルーレイに収められた2019年に上演された舞台のライヴ映像を観てもらえば、ヘンデル・ルネサンスの到達点がどれほどの高さにあるのか、まざまざと知ることができるだろう。
(続く)
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