目 次
スピルバーグの初めての自伝的作品
このところのスピルバーグの勢いが止まらないことは以前にも書いた。80歳近くになってまたまた最盛期を迎えている感がある。ちなみに2023年現在76歳である。
そんなスピルバーグが意外にも自らのこと、どうやって映画に目覚め、どのように映画と関わって、この未曾有の大監督が誕生したのか?その時の家庭環境はどうだったのか?
そんな自らの自伝的というか自画像というか、既に30本以上の映画を撮っているスピルバーグが意外にもそんなテーマは描いて来なかった。それが遂に描かれた。
それが新作の「フェイブルマンズ」である。
映画作りや映画館を描いた映画には名作が多い
映画作りや映画館、映画監督の若き日の映画との出会いを描いた映画は古今東西、非常に多い。それが一つのジャンルになっていると言ってもいい。
しかもそれらの映画は映画史に残るような名作、傑作が多いのも特徴だ。
誰からも愛されている「ニューシネマ・パラダイス」や、最近のものではこのブログでも最近取り上げたばかりの「エンパイア・オブ・ライト」もその好例だ。
そんな中にあって、あのスピルバーグが自らの少年、青年時代を振り返って自分がどういう過程を経て映画監督になったのかという大監督の誕生物語に興味を持たない映画ファンはいないだろう。
僕もワクワクしながら観始めた。一気に引き込まれた。
期待を裏切らない感動的な作品となっていた。これが嬉しい。
僕は大いに堪能した。嬉しいことだ。
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映画の基本情報:「フェイブルマンズ」
アメリカ合作映画 151分(2時間31分)
公開
2022年11月11日 アメリカ
2023年3月3日 日本
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:スティーブン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ガブリエル・ラベル(英語版)、ジャド・ハーシュ 他
撮影:ヤヌス・カミンスキー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
受賞:第47回トロント国際映画祭 観客賞(最高賞)、2023年ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)、監督賞
キネマ旬報ベストテン 2023年外国映画ベストテン第5位 読者選出外国映画ベストテン第3位
どんなストーリーなのか
アリゾナで仲良く暮らすユダヤ人のフェイブルマン一家。長男サミーは初めて両親に映画館に連れて行ってもらった時には、怖くて入館を泣いて嫌がったのに、そこで初めて映画(セシル・B・デミル監督の「地上最大のショウ」)を観てからは、完全に映画に心を奪われてしまう。そんなサミーの思いを後ろから押したのはピアニストの母だった。
先ずは父譲りの8ミリカメラを使って、ことある度に家族や友人たちを撮り続け、メキメキと上達していく。サミーの家には優しい両親と2人の妹、それに父の仕事上の仲間であるベニーがいつも一緒にいた。
優しい家族に見守られながら、特に芸術に理解を示す母親の支援を受けて、サミーの映画への情熱は高まるばかりだったが、その母にはある秘密があった。それを知ってしまうサミー。
父親の栄転でロサンゼルスに引越してからは、その土地になじめず、学校でも酷いいじめに遭うなどして、映画作りからすっかり離れてしまうのだったが・・・。
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スピルバーグの近年の絶好調ぶり
このところのスピルバーグの快調ぶりには驚かされるばかりだということは、このブログでも何度も書いてきた。
スピルバーグという人は、何本かのごく僅かな作品を除いて、愚作や失敗作は驚くほど少ない。
大きなスランプもほとんどなかったのだが、そんな天才監督の一連の名作、傑作の森の中にあっても、このところの、70歳代に入ってからの作品の質の高さは驚異的なのだ。
かつてのようなお金をかけた大スペクタクルのSFやアクション映画、戦争巨篇はさすがに影を潜めたが、小粒ながらも実に質の高い良心作を連発している。
ストーリーがどうしようもなかったが、映像の質の高さとダンスシーンが圧巻だった「ウエスト・サイド・ストーリー」もあった。
今回の「フェイブルマンズ」は、初の自伝的作品、映画監督になった少年の成長物語を描くと聞いて、こんな大切なものを低いレベルで撮られちゃ困るなと少し心配していたのだが、全くの杞憂だった。
このところの質の高さは今回も維持されていたどころか、とりわけ素晴らしい感動作に仕上がったことは、本当に嬉しい。
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感動的なスピルバーグの誕生物語
ここに描かれた映画の魅力に取り憑かれ、その映画作りを諦めずに貫き通した少年と、それを支え続けたかけがえのない家族。
そんな恵まれた環境の中でも、様々な試練が襲いかかってくる。
激しいイジメに合うこともあった。映画作りが嫌になることもあった。あんな素敵な家族が崩壊の危機に直面したこともあった。
そんな苦悩を体験しながらも、やっぱり映画から離れることができなかった若き日のスピルバーグ。
これがやっぱりとてつもなく魅力的で、感動してしまう。
順風満帆ではなかった映画への志し
今回の映画が、実際のスピルバーグ誕生にどれだけ忠実なのかは分からない。相当に創作部分が入っているのか、それともほぼ実話なのか?
その点は僕にはハッキリしないが、この映画を観る限り、順風満帆のように見えたサミー少年(スピルバーグ)の映画への志は、決して平坦な道ではなく、紆余曲折と苦悩に満ちた茨の道だった。
少年時代から青年時代の若きスピルバーグのそんな悩める魂が痛いほど伝わってくる。
それだけに最後の最後、ハリウッドの地で、あの映画の神様ジョン・フォードとの思いがけない対面が実に感動を呼ぶのである。あれは本当にいいシーンであった。
ちなみにあのジョン・フォード役を演じたのは、「童夢」の実写映画化のところでも触れたあの鬼才監督デヴィッド・リンチその人であることに気づいた人はどれだけいるだろうか。
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芸術家だった母の生き様が圧巻
この映画の中で最も忘れがたい人物がサミーの母親であることに、異論はないだろう。
サミーの映画への道をしっかり支え、常にサミーを映画に向けさせたのはこの母親だったし、一番熱心な観客でもあった。
好奇心旺盛で天真爛漫でいながら、芸術家ならではの繊細さも併せ持った母親に、思わぬ秘密があった。
それをサミーがはからずも知ってしまう、僕にとってはそこがこの映画の最高の見せ場、感動シーンであった。
母の秘密を知ってしまうシーンに嗚咽(ネタバレ注意)
それをサミーがどのようにして知ってしまうのか、という点がこの映画の中核、本質部分にもなる。
旅先や日常の生活風景など常日頃から家族の様子を8ミリで熱心に撮影していたサミーは、その撮影した映像を編集して1本の家族映画に完成させる際に、その自らが撮った映像を繰り返し観る中で、母の秘めた思いに気が付くことになる。
この時の驚きはサミーならずとも、ちょっとしたスリルとサスペンスで、僕は思わず鳥肌が立ってしまった。
その母の秘密を知ってしまった後の、母親との確執。
「どうして私を避けるの?何があったの?」とサミーを問い質す母親に、黙ってフィルムを渡すサミー。
そこで全てを悟り、泣き崩れる母親。
このシーンにはやられた。嗚咽が止まらない。涙が次から次へと込み上げて止まらなくなった。
凄い演出だ。映像の持つ力、映画の持つ有無を言わせぬ力に打ちのめされた。
スピルバーグの天才に脱帽。これは実話なのか創作なのか分からないが、これを表現したスピルバーグの才能は本当にすごいとしか言いようがない。
スピルバーグが今まで山のように作り続けた何十本にも及ぶ名作、傑作の中にあっても、このシーンは最高のシーンではないか。これほどのシーンは俄かに思い出せない。
本当に僕は激しく打ちのめされ、しばらく放心状態が続いてしまった程だ。
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映画の持つ力の本質に肉薄(ネタバレ注意)
同じようなシーンはもう一つ出て来る。
ロサンゼルスの高校でいじめ抜かれたサミーは、同級生の卒業記念映画を撮るに当たって、その映画は演技をさせて撮影するのではなく、あくまでも学校行事などの際に撮り貯めた映像を編集したものなのだが、その中で図らずも自分をいじめた張本人に映画を使って仕返しをする。
サミーはそれを狙ったわけでは決してない。しかもサミーはその学校一のモテ男を格好良く写し、編集しただけだったのに、それを観たいじめの張本人は怒り狂う。
それがどうしてなのか?なぜ、スーパーヒーローとして描かれた映像が、彼をここまで怒らせたのか?
それは映画を実際に観て確認してほしい。
いずれにしても映像の持つ力、その本質に鋭く肉薄する貴重なシーンである。
今回のこのスピルバーグの自伝的映画で、僕がほとほと感心するのは、映画青年スピルバーグの誕生をただ描くだけではなく、映像と映画の持っている力とその本質を紐解いてくれたことが、何よりも嬉しい。
これは中々できることではない。スピルバーグはやっぱり凄いとあらためて痛いほど思い知らされた。
青年スピルバーグを演じたガブリエル・ラベルが最高
俳優陣はいずれもいい味を出しているが、若き日のスピルバーグことサミーを演じるガブリエル・ラベルが最高だ。
実にいい味を出していて、非常に好感を持った。身長は低めだが、爽やかでもあり、悩める表情や怒りなど暗い表情が良く似合う。陰影に満ちた表情が素晴らしい。
僕はこの俳優のことは全く知らなかったが、これから大いに活躍してくれるだろう。注目の若手俳優の出現だ。
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あまり知られていないアメリカ社会の実態
この映画を観ると、今まであまり知ることのなかったアメリカ社会の暗黒部分が色々と浮かび上がってきて、実に興味深かった。
ユダヤ人への激しい差別の実態
アメリカ社会でユダヤ人に対してこんな酷い差別があったのかと驚かざるを得ない。
アメリカはあんなにイスラエルと蜜月にあるため、むしろユダヤ人には非常に寛容な国だと思っていたのだが、この差別の実態、ユダヤ人であることを理由に繰り返される酷い差別に、胸が塞いだ。
ロスは映画を撮る理想の地ではなかった
非常に意外な点は、サミー一家が父親の栄転に伴って、アリゾナからロサンゼルスに移り住んだことが、この一家に崩壊の危機を招いたことだ。
映画の都ハリウッドはもちろんロサンゼルスにある。
僕はこのロサンゼルスへの移住が、サミーにとって映画監督になる決定的な要因となるものと踏んでいた。アリゾナの地で素人アマチュア映画作家だったサミーが、ロスに移ることでハリウッドを知り、一気にチャンスを掴んで大きく飛躍するものと思っていたが、そうはならず、むしろ一家にとってロサンゼルスは呪われた最悪の街だった。
サミーはロスで映画作りをやめてしまう。
物事は、周りが思っている程そう単純ではないということを思い知らされた。
スピルバーグによる珠玉の名作を楽しんで
映画は2時間半超のかなり長いものだ。だが、波乱万丈のサミーの映画への格闘ぶりとそれを支えながらも一筋ならではいかない家族の様々な葛藤の連続で、あっという間にラストシーンを迎えることになる。
このラストシーンがまた実に感動的で素晴らしいのだが、それは実際に映画を観て、ご自身で確認してほしい。
映画を扱った映画には名作が引きを切らないが、この「フェイブルマンズ」はその中でも屈指の素晴らしさ。
映画の歴史を変えたと言ってもいい稀代の映画監督スピルバーグならではの非常に興味深いシーンの連続で、スピルバーグだけが作り得た傑出した映画を描いた映画と言っていい。
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