目 次
すごい映画を観た
すごい映画を観た。かなり話題になっていた「LAMB/ラム」である。この映画のことは土曜日に放送中のTBSの「王様のブランチ」のLiLiCoの映画コーナーで知った。
3週連続して取り上げられ、一度は特集としてかなり詳しく紹介された。LiLiCoがいつになく非常に熱くなって、周囲のスタッフに、観た?観た?と言って、観たことのあるスタッフと盛んにこの映画のことを語りたがっていたことが、印象に残った。
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ストーリーを聞けば誰だって興味を持つ
その中でストーリーが映像と共に紹介されるのだが、そのストーリーを聞けば誰だって観たくなるのは当然だ。
僕も非常に興味を持った。これは観ないわけにいかないと思ったことを忘れられない。
アイスランドの人里離れた厳しい環境の中で羊を飼育している夫婦に、ある日、羊が羊ではない「あるもの」を産み落とす。夫婦はその「あるもの」を大切に育て上げるのだが、やがて・・・。
これはもう心を鷲掴みにされてしまう。SFなのかホラーなのか、ミステリーなのか?はたまたスリラーなのか?それともファンタジー?全く見当もつかない。ジャンルが定めきれない。
どうしても観たい!一刻も早く観たい!
ブルーレイの発売を今か今かと首を長くして待っていた。
そして先日、遂にブルーレイ化され、販売。僕は事前に予約しており、発売日その日に届いたディスクで、早速視聴した。
一瞬たりとも目を逸らせない不気味な緊張感
釘付けになった。一瞬たりとも目を逸らすことができない。息をするのもはばかれそうな異様な緊張感を強いられた。
すごい映画。衝撃を受けた。冒頭から終わりまで、衝撃を受けっぱなし。
と言って、どこまでも静かで静謐の極みのような映画なのである。
こんな映画には滅多にお目にかかれない。
観ている真っ最中の衝撃が尋常ではない。そして観終わってからも、この映画は何を言おうとしているのか?映画のテーマは何なのか?ズッとこの映画のことを頭の中で反芻してしまうのである。
LiLiCoがこの映画を観たことのある人と盛んに意見交換したがっていたのは、実に良く分かった。
この映画は、正にそういう映画なのである。
映画の基本情報:「LAMB/ラム」
アイスランド・スウェーデン・ポーランド 合作映画 106分(1時間46分)
2022年9月23日 日本公開
監督:ヴァルディミール・ヨハンソン
脚本:ショーン、ヴァルディミール・ヨハンソン
出演:ノオミ・ラパス(製作総指揮も)、ヒルミル・スナイル・グドゥナソン、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン 他
撮影:イーライ・アレンソン
受賞:第74回(2021年)カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門 オリジナリティ賞 2021年シッチェス・カタロニア国際映画祭 最優秀作品賞・主演女優賞(ノオミ・ラパス)
キネマ旬報ベストテン:2022年度 第96回 第15位(NOPEの次)。 読者選出ベストテン第28位 惜しくもベストテンからはみ出してしまったが、評論家からの評価はかなり高かった。ちなみに第1位に挙げた評論家が3人いる(これはNOPEも一緒)。
どんなストーリーなのか?
ストーリーは既に話してしまったとおり。
アイスランドの人里離れた、周囲に全く人が住んでいない高山のような厳しい環境の中で羊を飼育している夫婦。
羊の出産は頻繁にあるのだが、ある日、産み落とされたものは、羊ではなかった。頭部は羊そのもの。映画を観ている観客には、それがどのようなものなのか、全体像はかなり先まで映し出されず、分からない。
とにかく羊ではない「あるもの」だった。それを夫婦は嫌がったり、気味悪がったりすることなく、羊小屋から引き離して、自分たちの部屋で大切に育てていく。
この夫婦にはかつて娘が死んでしまったという悲しい過去があった。
夫婦はその羊が産んだ「あるもの」に死んだ娘と同じ「アダ」という名を付けて、我が子のように大切に育てていく。
ある日、夫の弟がやってきて、一緒に住み始める。この弟は生活能力がない風来坊のような存在。弟は「あるもの」を我が子のようにかわいがる兄夫婦に、「おかしい、何故そんなことをする」と批判し、そのアダと名づけられた「あるもの」を撃ち殺そうと連れ出すのだった・・・。
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息を呑む程美しいアイスランドの絶景
とにかく美しい映画。その映像美は最近観た映画の中では傑出している。とびっきり美しい映画である。
先ずは舞台となっているアイスランドの絶景が特筆もの。
アイスランド映画、あるいはアイスランドを舞台にした映画というものに、ほとんどお目にかかったことがないので、アイスランドの景色を目にしたことも、かつてなかった。
その景色は本当に美しく、目を奪われてしまう。
舞台となるのは、アイスランドと言っても首都のあるレイキャビクでもなければ、人口の多い他の都市でもない。
描かれているのは、どの辺りなのだろうか?周囲は小高い大地のようであり、人家は主人公一家しかない。大地の周りは峻厳な山々で取り囲まれていて、その景観たるや、本当に息を呑む美しさ。アイスランドは緯度が非常に高いので、それほど標高が高くなくても高山のような景観を生み出すことはある。
映画の中ではかなり標高の高そうな天を衝く荒々しい岩山が映し出されるが、地図で調べるとアイスランドは緯度の高さもあって、氷河がいくつも存在し、2,100メートルを超える高山があることが分かった。このあたりが映画の舞台となっているのだろうか。本当に美しい。
この絶景を観るだけでも、この映画を観てもらう価値があるというものだ。
その絶景をシネマスコープというか横長の大画面で映し出され、息を飲まされる。
絶妙なカメラワークに引き込まれる
景色そのものが美しいだけではなく、この映画のカメラワークが非常に印象的な素晴らしいもので、僕のようなシネフィルは本当に嬉しくなってしまう。
決してワンシーンワンカットの長回しではないのだが、カメラの動きは実に落ち着いていて、ゆっくりと静かに流れていく。
あのスタンリー・キューブリックのこの世のものとも思えないような美しさを極めた「バリー・リンドン」のカメラの動きを彷彿とさせるものがある。
「バリー・リンドン」は18世紀のヨーロッパを再現した信じられないような美しい映像が延々と続く映画だったが、もちろんそこには宮殿やそこに住む様々な人間たちが映し出されていた。
片や今回の「LAMB/ラム」には、羊の群れと人間は3人しかいない大自然の絶景。その違いは大きいが、映像の美しさとカメラワークには合い通じるものを感じる。
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極端な賛否両論に分かれる
この映画、極端なまでの賛否両論に分かれている。
キネマ旬報のベストテンでベストワンに押す映画評論家が3人もいる一方で、ネットでググってみると、全く鑑賞に値しない、観る価値がない!と一刀両断に斬り捨てる感想も少なくない。
否定論者の評価の厳しさは常軌を逸している程の激しさで、目も当てられない散々な酷評の嵐。時間の無駄、金を返せと言わんばかりのものまである。
ここまで評価が分かれる映画も珍しい。
おもしろくなかったり、興味を持てなかったり、退屈だったり。
それはそれでいいと思うのだが、唾棄すべきとばかりにあそこまで頭ごなしに否定するのは、単につまらないとか、訳が分からないというような次元を超えて、やはりこの映画に特別な何かを感じ、それが自分にとっては受け入れ難いものであり、それ故にムキになって否定したくなる、そんな心理が働いているのではないだろうか?
そう思いたくなってしまう。
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決して難解な映画ではない
この映画は、一体何を言いたいのか、何を訴えたいのか、映画のテーマと主題が分からないというモヤモヤ感は分からなくもない。
そもそもこんなことがあり得るのか!?
観終わった者同士で意見交換したくなるのは、もっともだ。
だが、僕にとっては、この映画は全く難しい部分などない、非常に分かりやすい映画だったと言うしかない。
一度観て、良く分からなかった人は、どうかもう一度、頭からじっくりと観てほしい。2回観てもらえば、真相はハッキリする。
全ての謎は解ける。
ここで起きる奇跡の行方と顛末の意味するもの。決して難解なものではないの思う。
キリスト教の理解が不可欠でもない
羊飼いの夫婦。妻の名前はマリアと言えば、キリスト教そのもので、この映画を宗教的なもの、特にキリスト教の奥義に関連づけようとする解釈もあるが、僕はそんなことはほとんど関係ないと考えている。
そんな罠に嵌まらなくてもいい。ここは議論の余地があるところだとは思うが。
少なくともこの映画に過剰な宗教色は禁物だ。そんな先入観に捉われずに、素直に映画を楽しんで、感じてもらえばいい。
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アイスランドの新鋭ヴァルディミール・ヨハンソンに注目
この映画の脚本を書き、監督を務めたのは、アイスランドの新鋭ヴァルディミール・ヨハンソン。
「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフ作品「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」のSFX(特殊効果)を担当したことで知られているが、長編映画の監督は初めてだと言う。そんな初監督作品でここまでの映画を作ってしまうのは、並大抵の力量ではない。
絶景の中で静かに展開していく静謐極まりない映画。少しずつ緊張感を孕みながら、そこで起きた奇跡の行方と顛末をどこまでも丁寧に描いていく。
これは中々できないことだ。この監督の次回作が楽しみでならない。
音と音楽の扱いが傑出している
映像の美しさだけではなく、音と音楽の取り扱いが並外れている。このヴァルディミール・ヨハンソンという監督の音と音楽に対する感性の鋭さには感嘆させられる。
この映画の鍵を握るのは音。音が映画の謎を握っている。
耳を澄ませて音に注目してほしい。
そして、映画の最後に流れてくるのは、えっ!?と驚かされるあの音楽だった。一瞬、耳を疑う。
何とそれが前述したスタンリー・キューブリックの「バリー・リンドン」のテーマ音楽なのである。
ヘンデルのサラバンド。「バリー・リンドン」のように荘重な響きを強調するのではなく、もっと軽みのある音楽に変容されているのだが。
でも、紛れもない「バリー・リンドン」のあのテーマ音楽が最後に流れてくる。
やっぱりスワンソンは「バリー・リンドン」とキューブリックを意識していたのであろうか?
色々な意味で、音と音楽にどうか注目してほしい。
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画面から一瞬たりとも目を離せない衝撃作
受け入れられない人には全く受け入れられないだろうが、映画を純粋に愛する人にとっては、この映画は稀有の衝撃体験となるはずだ。
静謐極まりない静かな映像の連続なのに、その動きの少ない落ち着いた映像から、一瞬たりとも目が離せない。
この緊張感は半端ではない。
ここで起きる奇跡の行方と思わぬ顛末に心を震わされ、言葉を失うことになる。
滅多にないすごい映画。
映画ファン、必見の問題作。じっくりと堪能していただきたい。
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