目 次
ジョーダン・ピール監督の待望の新作
この映画のことは、見過ごしていた。というのは、映画館で観ることができなかったということだけではなく、この映画のことをほとんど知らなかったのである。
シネフィルを自称しながら、我ながら恥ずかしい。
というのは、この映画を作った監督の、前作にかなり心惹かれていたからである。
あの映画を作った監督の新作なら、どうしても観てみたい、そう思わずにいられないのに、そもそもその映画の存在すら知らなかったという次第。忸怩たる思い。
その前に作った映画というのは、ギンレイホールで観た「ゲット・アウト」である。
これは秀逸なミステリーというかサスペンスにして、ホラー映画であった。
この作品のことは、このブログの中でも「ギンレイホールで観た映画を語る」シリーズの中で紹介ているので、参考にしてほしい。
僕は「ゲット・アウト」を非常に気に入った。
あの何時の間にか急に空気が変わる作風に魅せられていた。ある時を境に、急に映画の空気というか映像の空気が変わって、ジワジワと急に恐怖感が充溢してくるあたりの呼吸というか、観せ方が実に巧妙なのである。
ジワジワと徐々に徐々に、それでいてしっかりと確実に忍び寄ってくるサスペンスと恐怖。
そして気がついた時にはすっかり監督が作り出した恐怖のど真ん中にいることを自覚させられる一方で、もうそこから逃れられないという、恐ろしくも、映画を観る醍醐味を満喫させてくれるような実に巧妙な盛り上げ方。
これをやられたら、映画ファンはいちころだ。映画好きなら誰だってこの監督のことを好きになってしまう。
この監督の力量は大したものだな。これからが本当に楽しみだと痛感させられたのである。
その「ゲット・アウト」の次に作った「アス」も非常に評価が高かった作品なのだが、これも僕は観過ごしてしまっている。猛省。
2本連続して映画ファンを虜にした抜群の能力を持った監督による、これまたホラーにしてサスペンス、今回はSF的な要素も盛り込まれているとなれば、どうしたって期待せずにいられない。
観る前から期待に胸が高鳴ってしまう。
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映画の基本情報:「NOPE/ノープ」
アメリカ映画 130分(2時間10分)
2022年8月30日 日本公開
製作・監督・脚本:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、ブランドン・ペレア、マイケル・ウィンコット 他
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
キネマ旬報ベストテン:2022年度 第96回 第14位 読者選出ベストテン第21位 いずれも惜しくもベストテンからはみ出してしまっているが、評論家からの評価はかなり高かったことが分かる。
どんなストーリーなのか
この映画は本当に、一切の先入観と事前情報なしで観ていただくのが、一番楽しめ、ワクワクドキドキを満喫できると思うので、ストーリー紹介は極力控えたい。
この映画の宣伝用のキャッチコピーは「絶対に空を見上げてはいけない。最悪の奇跡が起こる。」というものだ。
本当にこれだけで十分のように思える。
アメリカの牧場で馬を調教し、映画やテレビ撮影のために貸し出している親子。ある日、空から硬い物質がパタパタと落ちてきて、父はそれに頭蓋骨を貫通され死んでしまう。
それからも牧場ではおかしなことが頻繁し、息子は父の死にも不審を抱く。上空の雲の中に何かが潜んでいるのではないかと考え、妹と一緒にその姿を何とか映像に残そうと試みるのだが・・・。
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ちょっと特殊な映画
サスペンススリラーにしてホラーでもあり、SFでもあるというジャンル分けが難しいちょっと特殊な映画である。
なお、タイトルの「NOPE」はNOのくだけた表現で、「あり得ない!」といったようなニュアンスだ。
監督のジョーダン・ピールは黒人の映画監督で、この映画の中でも出演者は黒人とアジア人が中心となる。白人にはあまり重要な役柄が与えられていない。
「ゲット・アウト」でもそうだったし、「アス」もそうらしい。
黒人とアジア人と動物たち、そして雲が織りなす何とも奇想天外なおかしな映画で、全く先が読めずに困惑させられながらも、確実にドキドキ感が高まってくる。
極端な賛否両論に分かれている
そして、最後にはジョーダン・ピールにマンマとやられてしまう。
僕はそんな結末に大いに興奮させられ、「ゲット・アウト」同様に映画を観る醍醐味を満喫させられたが、この映画ほどハッキリと賛否両論に分かれる例も珍しいと言ってみたくなるほど、否定的な映画ファンも多い
全く観る価値に値しないとコテンパンに否定する人も少なくない。
僕は信条として、どんな映画にも何らかの観る価値はあって、全面否定することは決してしないのだが、この映画を否定したい気持ちは、分からないでもない。僕は気に入ったが、これを否定する人、理解できない人もいるだろうなとは思う。
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ナイト・シャマランを連想させる作風
この少し思わせぶりな、何か突拍子もないことが起きて、世界が一変するような不穏な景色を描こうとする作風は、どっかにあったな、さて、誰だったか?
と思い巡らせ、直ぐに思い至った。
あのインド出身の鬼才ナイト・シャマランだ。「シックス・センス」で世の映画ファンを熱狂させたあの監督である。
デビュー作の「シックス・センス」は紛うことなき歴史に残る興奮の傑作となったが、その後の作品は、いずれも常人の想像を絶する特殊な世界を描き、その誰も想像できない特殊な世界というか、特別なシチュエーションを設定して、その中で観る者の感性を手繰り寄せ、大いに期待させておきながら、蓋を開けると呆気ないというか、散々煽られてその気にさせられながらも、最後にズドーンと落とされて失望感だけが残るような作品を量産し続け、今日に至っている。
残念ながら最初の「シックス・センス」を超えるものは一本もない。何本かはそれなりに楽しませてもらったが。
今回のジョーダン・ピールの「NOPE」は、キャッチコピーも含めて、何だか雰囲気が非常によく似ている。
否定的な評価は、シャマランにその気にさせられながらもいつも裏切られ続けてきた映画ファンが、ここにも同じものを感じたかもしれない。
但し、トーンと描く世界観が似ているというだけであって、「NOPE」の方がズッとおもしろいことだけは、ハッキリと言っておきたい。
でも、この映画にはツッコミどころが満載で、不満を感じた観客も大勢いたことは事実である。
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映像の抜群の美しさ
映像の美しさは強調しておきたい。全体を通じて非常に美しい映像に酔わされる。その抜群の美しい映像が徐々に姿を変えていくのが、いかにもジョーダン・ピールなのである。
日本アニメへのオマージュが嬉しい
日本のアニメファンなら、この映画の中にそっくり借りてきたと思えるようなシーンと映像に満ちていることが分かるはずである。
ピール監督は日本のアニメの影響をハッキリと認めている。
これは嬉しい。アニメファンならちゃんと観て、実際に確認していただきたいところだ。
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荒唐無稽の中に潜む意外な程の深い問題提起
この映画を子供騙しの荒唐無稽だと片付けないで欲しい。一見、確かに荒唐無稽なように取れなくもない。
しかも、前半に出てくる非常にインパクトの強いシーンが、後半に連動しないように思えてしまう難点もあって、いったい何を言いたいのか、テーマが判然としないように見えるのだが、実はこの映画は予想外に奥が深く、思っている以上に哲学的な命題と深い問題提起が潜んでいる。
それをどう捉えるかが、また賛否両論の分かれ目にもなっているのではなかろうか。
是非とも実際にご自身の目でご覧になっていただいて、確かめていただきたいと切に願う。
サスペンスとスリラー、ホラーとSFが好きな人には大いに満喫できること間違いなし。どうか楽しんでいただきたい。
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