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ソマリア内戦の凄まじさを知るための必見映画
前回、韓国映画の「モガディシュ 脱出するまでの14日間」を大絶賛したときから、続いて紹介するのはこれしかないと決めていた。
それが「モガディシュ」の紹介記事の中でも触れたリドリー・スコット監督による「ブラックホーク・ダウン」である。
これはもう大変な映画で、ソマリア内戦の凄まじさを知るにはこれを観てもらうしかない代物であるばかりか、およそ戦争の凄まじさと悲惨さを知るには、これ以上の映画はないという超弩級の傑作なのである。
監督はこのブログでも何本も紹介してきた、僕が大好きなあのリドリー・スコットである。
リドリー・スコットのことを再び
リドリー・スコットのことは何度も書いてきた。この熱々たけちゃんブログの中で彼の映画を4本も取り上げている。
最新作の2本と、あまり知られていないどちらかというと隠れた傑作の2本だ。
その際に詳しく紹介してきたが、リドリー・スコットはもはや生きる伝説とでも言うべき特別な高みにある天才監督であり、名作・傑作がひしめき、枚挙にいとまがない。
映画ファンなら誰でも名前を挙げられる名作・傑作は、忽ち10指を超えてしまいそうだ。
「ブレードランナー」「エイリアン」という映画史上に残る究極の傑作SFが2本。「ブラック・レイン」「ハンニバル」といった犯罪・サスペンスもの。現代に生きる女性たちの破天荒な生き様を描いた「テルマ&ルイーズ」。
その一方で、古代ローマを舞台とした大スペクタクル「グラディエーター」もすごい作品だった。
そして僕がこのブログで取り上げた隠れた傑作の「マッチスティック・メン」と「ワールド・オブ・ライフ」。近作の「オデッセイ」も感動的な素晴らしいSF。
80歳を超えて少しも衰えを見せない最新作の2本「最後の決闘裁判」と「ハウス・オブ・グッチ」についてはブログで紹介したとおり。
これら映画史上に残る屈指の名作群に勝るとも劣らない作品が今回紹介させてもらう「ブラックホーク・ダウン」なのである。
リドリー・スコット作品のベストテンに入ってくることは間違いなく、ベスト5に入ってもおかしくない戦争映画の巨編である。
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戦争映画を塗り替えた歴史的傑作としての評価
この映画はリドリー・スコット監督作品の中でも屈指の傑作であるばかりか、戦争映画の描写を抜本的に塗り替えてしまった歴史的な傑作としてもつとに有名な作品。
戦争を扱った傑作映画は古今東西、枚挙にいとまがないが、戦争映画の描写と在り方を抜本的に塗り替えた作品として映画史にその名を留める映画が、数本ある。
単なるアクション映画として戦争を描くのではなく、あくまでもリアリズムに徹して、悪夢のような悲惨な戦争とその地獄の戦場を情け容赦なくありのままに描いた映画である。
残酷な描写も全く厭わずに、地獄絵図のような悲惨を極める戦場の有り様をありのままに描くことによって、観る者に勇ましくカッコいい戦闘シーンではなく、二度とこんな悲惨な戦争は御免だ、戦争は嫌だと思わせる狙いがあることは間違いない。
それがスピルバーグ監督の非常に有名な「プライベート・ライアン」と今回紹介するリドリー・スコット監督の「ブラックホーク・ダウン」の2本であった。
というわけで、「ブラックホーク・ダウン」は「プライベート・ライアン」と並んで、戦争映画を抜本的に変えてしまった歴史的な映画と讃えられている。
映画の基本情報:「ブラックホーク・ダウン」
アメリカ映画 145分(2時間25分)
※スペシャル・エクステンデッド・カット〔完全版〕158分(2時間38分)
2002年3月30日 日本公開
監督:リドリー・スコット
原作:マーク・ボウデン
文庫本:ブラックホーク・ダウン―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録(上)(下)
脚本:ケン・ノーラン
出演:ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、トム・サイズモア、サム・シェパード、エリック・バナ、オーランド・ブルーム 他
撮影:スワヴォミール・イジャック
音楽 ハンス・ジマー
アカデミー賞「音響賞」「編集賞」
評価:公開当時の評価はかなり低かったが、その後じわじわと評価が上がり、今日では最高の戦争映画との評価が定着している。
どんなストーリーなのか
1993年、ソマリア内戦が泥沼化する中、首都のモガディシュに駐留していたアメリカ軍は、内乱軍の指導者アンディード将軍の副将2人を拉致する計画を策定する。
反乱軍の本拠地に地上部隊と最新型のヘリ「ブラックホーク」で乗り込めば、作戦はほんの1時間もあれば終了し、基地に戻れるはずだった。参加する特殊部隊の兵士は100名ほど。
そして決行日の10月3日。簡単に成功するはずだった拉致作戦は、最初から細かいところで次々と失敗が起こり、綻び始める。
反乱軍の抵抗は思っていたより遥かに強く、遂にブラックホーク1台が墜落させられてしまう。想定外の事態にアメリカ軍は浮き足立ち、簡単に済むはずだった作戦は地獄の様相を帯びてくる。
次々とアメリカ軍に襲いかかってくる反乱軍。果たしてアメリカ軍は任務を達成することができるのか?
墜落したブラックホークの乗組員を助け出すことができるのか?そして隊員たちは無事に帰還することができるのか?
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実力派の名優たちがズラリ
ひたすらリアルな戦闘シーンを描く映画なのに、ここにはビックリするほど豪華な俳優陣が出演を誇っている。ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、トム・サイズモア、サム・シェパード、エリック・バナ、オーランド・ブルームなどこの時代の味のある名優たちがズラリ。実に壮観だ。
こんな人気も演技力も抜群の俳優たちを使って、人間ドラマを繰り広げさせるでもなく、ひたすら戦う兵士役に徹底させている点が、これまたすごい。何という贅沢な使い方。こんなことが可能になるのもリドリー・スコットが監督を務めればこそか。
それぞれの俳優は一兵士に徹しているとはいうものの、みんな実にいい味を出していて、感動を呼ぶ。
なお、この映画には女性はほとんど出てこない。男だけの映画。
あのデヴィッド・リーンが監督したピーター・オトゥール主演の映画史上屈指の名作「アラビアのロレンス」以来のことではないだろうか?
ソマリアの民族音楽が胸に迫る
音楽は有名なハンス・ジマーが担当しているが、何といっても印象に残るのは、全編を通じて響き渡る地元ソマリアの民族音楽だ。祈りともつかぬ絞り出すような咽び泣くような歌声が、どこまでも胸に迫り、心に沁みてくる。
元々はソマリアの辛い内戦である。地元のソマリア人が最大の被害者であり、身を切られるような辛苦の極みにある。この民族の悲劇、切ない思いがこの歌声と音楽に託されているかのようだ。
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ほぼ全編が戦闘シーンという破天荒にして非常識な映画
この映画は約2時間半という決して短くない映画の全編を通じて、激しい戦闘シーンが延々と映し出される破天荒な作品。
映画のほぼ全体が戦闘シーンという常識では考えられない映画なのだ。非常識な映画と言っていい。
戦場を舞台にしたアクション映画ではなく、もちろん娯楽映画でもない。
原作はこの戦闘の細かい事実を綿密に描き出した極めて貴重なルポルタージュであり、映画も実際にあった戦闘そのものを事実に基づき、細部まで徹底的にリアリティを追求して、再現している。
あの日に実際に起きた激烈な市街戦の実態を最初から最後まで、一切の作り話や虚構を排除して、一つひとつの事実だけを忠実に再現する。それがこの映画の目指したものだ。
したがって、この映画には戦争映画につきものの英雄譚や、人間ドラマなどはほとんど出てこない。あるのは事実だけ。まさにリアリズムに徹したドキュメンタリーのような作品だ。
CGなしで、この度肝を抜く迫力とリアリティ
それにしても容赦ない凄まじい戦闘シーンの連続に、空いた口が塞がらなくなってくる。
2時間半(150分)の映画のほぼ全編が戦闘シーンということは、映画の始まりから終わりまでのほぼ2時間半、ひたすら戦闘シーンばかりを観続けることになる。
こんな映画は古今東西、他にはない。
この激しい戦闘シーンが、一切のCGなしで、実際に撮影したものだというのだから、すごいの一言である。
リドリー・スコットの映像魔術が圧巻
監督した全ての映画において息を飲む映像美を誇り、ビジュアルに徹底的に拘り抜くリドリー・スコット。
この天才監督をして初めて可能ならしめた驚異すべき戦闘シーンが目の前に延々と繰り広げられる様は、言葉を失う迫力と激しさ。目を覆いたくなるような地獄の戦場を、忠実に再現してくれる。
実際、これだけ迫力あるリアルな戦闘シーンは他では観たことがない。前代未聞、空前絶後と言っていい。
それが2時間以上も続く。誰もが一刻も早く脱出したいと熱望せずにいられなくなる。リドリー・スコットの映像魔術が圧巻で、圧倒されてしまう。
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死者も重傷者も帰還させることで被害拡大
このアメリカ軍の拉致作戦は全て実話である。こと細かい戦闘の顛末も事実を忠実に追いかけたものだが、この悲惨な地獄絵を観ていると、素朴な疑問が頭をよぎってくる。
ほんの1時間もあれば無事に戻れると踏んでいた作戦が、次々と破綻して、地獄のような戦場に一変してしまうのだが、アメリカ軍の被害の拡大、つまり戦死者や重傷者が量産するのは、負傷者を必ず救出し、基地に連れ戻るということを徹底し、それに拘っているからなのだ。
戦死者の死体も放置せずに、持ち帰ろうとする。それが更なる被害を呼ぶことは明白なのに。
このジレンマはちょっと理解できない。
どうしても全員を帰還させる必要が
最初に墜落してしまったブラックホークの救出に全部隊を向かわせようとする。それは戦友の熱い絆の証だと思って見ているのだが、どうやらそうではなく、アメリカ軍の今回の軍事作戦の本質に関わっているようなのだ。
つまりこれは戦争ではなく、元々は国連の認めた平和維持活動(PKO)から一歩進んだ平和強制活動による軍事的介入と位置付けられており(作戦は国連主導ではなく、あくまでもアメリカが単独で実施)、どうやら死体や負傷者を戦場に残すことは許されない、というのが事の真相のようだ(正確には良く分からない)。
だから、全員を必ず帰還させると。その全員には戦死者も含まれる。
そのままアメリカ軍基地に逃げ帰れば被害は最小で済んだはずなのに、救助に行く、遺体を回収しに行くことで、更なる戦死者と負傷者を生み出してしまう。
負のスパイラルならぬ死のスパイラルを地で行くのが、何とも理不尽かつ不合理に見えてならない。
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戦争の悲惨さを映像で体験させる稀有な映画
こうして、この軍事作戦は地獄の戦場を生み出すことになった。
2時間以上も激しい戦闘シーンを延々と観せられることはかなり辛く、神経が消耗してくる。
これを観ていると、本当に戦争は嫌だ。一刻も早くこの地獄から抜け出して、争いのない場所に身を置ければいいのにと、無意識のうちに強く願ってしまう。その願望に胸が張り裂けそうになる。
ことの顛末は
結果的に15時間もかかったこの戦闘で、アメリカ軍の被害がどれだけ出たのかは、映画の中でご自身の目で確かめてほしい。
惨憺たる大失敗で終わったこの悲惨な軍事行動の後、2週間後にアメリカ軍はソマリアから撤退を余儀なくされた。大統領はクリントンだった。
それでも、ソマリアの内戦は終わらない。今日に至るまでまだソマリア内戦は続いていることを申し添えたい。
どうして終結させられないのだろうか。
戦争の悲惨さ、実際の戦闘の恐ろしさ。人と人とが殺し合うことの残酷さを知ろうとしたら、この映画を観てもらうのが最適だ。
この映画を観れば、戦争は止めなきゃダメだ。人と人が殺し合うなんていうことは、即刻止めなければダメだと、痛感させられる。
今もウクライナで毎日戦争が続いている。
ロシアによるウクライナへの侵略戦争の真っ最中の今だからこそ、観ていただきたい映画。観てもらう必要のある映画。
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