目 次
シリーズ第15回目
実に久々のシリーズ再開。「ギンレイホールで観た全映画を語る」。前回の第14回目からかなりの時間が経過してしまいました。この間、この熱々たけちゃんブログでは、新たに本と漫画の紹介をスタートさせて、そちらに関係する記事を何本も投稿してきたという経緯がありました。でも、このブログの中心はやっぱり映画なんです。それを忘れちゃいけない。映画の紹介がメインテーマなのです。
それではドンドン進めていきたいと思います。
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40.2018.9.8〜9.21
タクシー運転手 約束は海を越えて 韓国映画
監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン 他
韓国映画は非常に充実していて、素晴らしい作品が目白押しなのだが、この『タクシー運転手』も実に感動的な作品だった。韓国映画の傑作がまた新たに加わったことがとっても嬉しい。
これは韓国の歴史上、非常に有名な全斗煥軍事政権による光州での弾圧事件(1980年)に材を取った映画。アメリカの新聞記者が韓国の光州で、全斗煥政権が民衆を弾圧しているという情報を聞きつけて、現場に入って取材をしようと試みるのだが、戒厳令が敷かれ近づくことができない。何とかならないかと考えたのが、気のいいタクシー運転手を割増料金で釣って、一切事情を説明せずに、光州入りを目指すこと。事情を理解していないお調子者の運転手はうまい仕事だと喜んで引き受けたのだが・・・。
これは実に見応えのある映画であった。気のいいお調子者の運転手役は韓国映画では欠かすことのできないあのソン・ガンボ。
少しづつ事情が分かってくるにつれて、こんな危険な業務から逃れたいと思いながらも、その弾圧の過酷さを目の当たりにして、迷いつつもアメリカ人記者を助け、地元のタクシー仲間達と一緒に、非力ながらも軍事政権に立ち向かおうとするあたりの、屈折した表現は彼にしかできない素晴らしさだ。
弾圧の描写もかなり過激で、手に汗握るハラハラドキドキに思わず身を乗り出して観てしまう。その割に、えっ?それはなあと不満に感じる部分が何ヵ所かあるのだが、それを差し引いても素直に感動したい。
韓国という国は、ほんの数十年前まで、こんな酷い軍事政権が民衆を弾圧していたのである。あの事件からまだそう経っていないのが、色々な意味で感慨深い。
この映画はパンフレットが完売していて、購入できなかった。返すがえすも残念。
ブルーレイのジャケ写で雰囲気を味わってもらおう。
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メイド・イン・ホンコン デジタルリマスター版 香港映画
監督:フルーツ・チャン
出演:サム・リー、ネイキー・イム、ヴェンダース・リー 他
この香港映画の評価はかなり難しい。というのは、今の香港のひどい状況を目の当たりにするにつけ、どうしてもその後の歴史、香港がどのような歴史を辿り、そしてリアルタイムの今を知っているので、何とも微妙なのである。
このメイド・イン・ホンコン(原題は「香港製造」)は、一旦1997年に封切られた地元香港ではかなり人気を博した隠れた名画を、ちょうど20年後の2017年に4Kレストア・デジタルリマスター版として再上映されたものだ。
ここで描かれる香港は1997年、イギリスからの返還直前の話し。アヘン戦争の戦利品としてイギリスに奪われてしまった香港が、約150年ぶりに中国に返還されるという喜びとか感動とは全く無縁などうしようもなく絶望的な青春群像が描かれる。
本当に観ていて気が滅入ってくるくらい救いと希望のない自堕落な若者たち。彼らは自分たちで互いに傷つけ合い、滅んでいく。この映画がどこまで当時の香港の実態を反映しているのか定かではないが、中国に返還される前にもこんな閉塞感漂う社会だったなら、今の中国統治下ではどうなっているのか、空恐ろしくなってくるのである。
今も続く連日の学生達のデモは、やらずにはいられない若者たちの欲求不満のエネルギーの表出なんだろうと思わずにいられない。
中国返還前のあの頃はあんなに良かったのに、という映画であれば単純に受け入れられたのだが、そう単純ではない。古今東西を問わず、報われない若者たちは存在し、悲惨な青春を過ごしていると痛感させられる。
ちなみに、4Kレストア・デジタルリマスター版とは言っても、えっ?これが?と言いたくなるくらいに画質はパッとしなかった。残念!
41.2018.9.22〜10.5
◯ 君の名前で僕を呼んで 伊・仏・米・ブラジル合作映画
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ 他
これはまた僕が苦手なLGBTの映画だ。仕事が忙しいこともあって、あまり無理もしなかったので、結局、見逃したてしまった映画。世評ではかなり評価が高かったので、少し後悔している。
◯ フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 アメリカ映画
監督:ショーン・ベイカー
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ウィレム・デフォー、ブリア・ヴィネイト 他
これも結局、観ることができなかった。予告編では久々に観るウィレム・デフォーがかなりいい味を出していたのだが。
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42.2018.10.6〜10.19
ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 イギリス映画
監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス 他
主演のゲイリー・オールドマンが信じられない程、チャーチルそっくりに化けた映画としてかなり話題になったものだ。それが元々あのずんぐりむっくりのチャーチルに似た風貌の持ち主ならば、それほど驚かないのだが、ゲイリー・オールドマンの素顔はチャーチルには似ても似つかないものだったので、どうやってそんなにそっくりになれたのか、そのメイクというか変身振りにひたすら話題がカッさられた映画。
ゲイリー・オールドマンを一躍有名にし、強烈な印象を残したのは、あの『レオン』の悪徳警官役であることは衆目の一致するところ。それはどう見たってチャーチルとは程遠い。実際、映画の中のチャーチルは、正にチャーチルその人を彷彿させるものだけに、そのカメレオン的な変身振りだけにどうしても意識が行ってしまう。
その意味では、この映画は不幸な作品、狙いを間違えたとしか言いようがないのである。チャーチルの葛藤やヒトラーとの手に汗握る攻防などはまるでない。あの苦難の時代にヒトラーとの融和政策を推し進めたネヴィル・チェンバレンに取って代わって、いかにして総理の座を射止め、ヒトラーに宣戦布告したか。描かれるのはそこまでだ。
本当に面白いのは、その後の実際のヒトラーとの攻防なのに、そこは全く描かれない。副題の「ヒトラーから世界を救った男」というのは少なくともあの映画を観る範囲内では程遠い内容ということになる。その序章に過ぎないのだ。正直言ってこれではなっと思ってしまう。もったいない映画。是非ともこの続編を見たいものだ。
女は二度決断する ドイツ映画
監督:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨナネス・クリシュ 他
これはかなり衝撃的な映画であった。ヒロインの憤懣やる方ない怒りと絶望にいたく共感。これは非常に辛い映画だったが、僕の心の琴線には不思議なくらい良く響いたのだった。
久々に観るドイツ映画。ドイツ映画は1960年代から80年代にかけてニュー・ジャーマン・シネマと呼ばれる興隆の時期があってフォルカー・シュレンドルフやライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ヴェンダーズなど優れた監督が続々と排出して百花繚乱を誇ったのだが、その後は少し停滞気味だった。
それでもこんな問題作が作られることは嬉しい。
ドイツが生んだ名女優のダイアン・クルーガー扮するヒロインは、ある日、無差別テロに巻き込まれ愛する夫と幼い男の子を失ってしまう。台頭しつつあったネオナチによる犯行だった。それだけでも立ち直れないのに、ようやく始まった裁判でも被害者に不利に進み、証拠がないとして無罪になってしまう。絶望の淵に沈むヒロイン。自力で真相究明に乗り出した彼女は決定的な証拠を掴むのだが、そこで彼女が取った決断とは。言葉を失う衝撃が待ち受ける。
これは本当に辛い映画。主人公の他にぶつけようのない怒りと深い絶望を見事に表現したダイアン・クルーガーがすごい。これは今のドイツを知ってもらうためにも不可欠な映画だと思われる。辛いけれど、これは是非観てもらいたい必見の一本。
43.2018.10.20〜11.2
◯ 犬ヶ島 アメリカ映画
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ユーユー・ランキン、リーブ・シュレイバー 他
日本を題材にしたストップアニメーション映画。黒澤明にインスピレーションを受けたというアンダーソン監督のコメントを聞いて、是非とも観てみたいと思っていたのだが、結局、仕事が忙しくて、観ることのできなかった映画。
◯ リメンバー・ミー アメリカ映画
監督:リー・アンクリッチ、エイドリアン・モリーナ
出演:アンソニー・ゴンザレス、ガエル・ガルシア・ベルナル 他
これも忙しくて観ることができなかった。これら2本の上映期間、すなわちおととし(2018年)の秋は、僕の合唱団の2年に一度の定期演奏会目前であったことに加え、職場の病院でも病院改革の方向性と僕の首をかけてトップと喧々諤々やっていた真っ最中で、正直言ってギンレイホールに行っている余裕が全くなかった。
この時期だけで、4本も観れなかったのは異例中の異例。今、思い出しても胸が苦しくなる。
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44.2018.11.3〜11.16
ファントム・スレッド アメリカ映画
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル 他
これは大いに期待していた作品。ポール・トーマス・アンダーソン監督は現代アメリカを代表する実力派の名監督で、特に名優ダニエル・デイ=ルイスとのコンビでは、2007年の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』が映画史の残る超ド級の名作として名高い。
ダニエル・デイ=ルイスは、アカデミー主演男優賞を一人で3回も受賞している唯一の男優(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で2回目の受賞)。世界最高の名優の一人だ。ポール・トーマス・アンダーソン監督との2度目のタッグであり、しかも今回は何とこれで俳優業を引退すると公言しているだけに、期待に胸が高まる。
名声に包まれた世界最高の仕立て屋という役柄だけに、これ以上、この名優の最後にふさわしい映画はない。実際に素晴らしい出来栄え。
ダニエル・デイ=ルイスが精魂を込めて慎重に進める採寸や仕立ての描写には思わずため息がこぼれ、うっとりしてしまう。そのセクシーさとダンディ振りには惚れ惚れさせられる。本当に絵になる俳優。この格調の高さと存在感はもう別格としか言いようがない。
さて、そのストーリーだが、この最高の腕を持った仕立て屋があるウエイトレスを見染め、彼女のためにせっせとドレスを作り続け、やがて2人は結婚するのだが、天才特有の独善性とわがままさが原因で、すぐにギクシャクし始める。そこで彼女が取った衝撃の行動は?
優雅極まりない映画がジワジワと様相を変え、背筋が凍りそうな不気味なミステリーに変わってくる。この変化が最大の見どころだ。よもやと思っていたことが的中するあたり、本当に怖い。しかもその恐怖は単純なものではなく、かなり屈折しているだけに、観ている者は呼吸をするのも憚られるくらいに緊張を強いられる。そして最後は、解き尽くせぬ愛の不可解さに言葉を失ってしまう。
映画全体のトーンというか格調の高さはいささかも減じることがないのは、さすがの一言。実に見応えのある重厚な映像にしてドラマなのであった。
ダニエル・デイ・スミスは正に適役。これが最後の映画出演とは残念過ぎる。そんなことは言わず、映画ファンを喜ばしてほしい。切にそう願わずにいられない。
モリーズ・ゲーム アメリカ映画
監督:アーロン・ソーキン
出演:ジェスカ・チャステイン、イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー 他
アメリカのトップアスリートが事故に遭ってスポーツを断念。ひょんなことから始めた全く別の世界で大成功を収めるのだが、そこにも思わぬ危険が待っていて、苦境に立たされるという波乱万丈の才媛の実話。
ヒロインのモリーは全米を代表するモーグルの選手で冬季オリンピックでメダルを期待されたが、最終予選で大きな怪我を負ってしまい、アスリートの夢を断念させられる。スポーツだけではなく学業も優秀だったモリーは主席で大学を卒業するが、ひょんなことからパーカーゲームの賭博場の手伝いを始めることに。
そこで頭角を表し、全米を代表するような超セレブたちが出入りする賭博場を仕切るまでになり、更に20代にして自らがオーナーになって超人気の賭博場を開設するまで上り詰めるのだが。
文武両道の才媛が挫折を乗り越えて、想定外の世界でもトップにのし上がるというアメリカン・ドリームの体現なのだが、そこでもまた挫折してしまう。それでも持ち前の頭脳と強運で危機を脱することができるのかどうか。
言ってみればただそれだけの話しなのだが、アメリカの賭博場の実態を垣間見ることができるという点では、興味がある人にはたまらない魅力であろうか。ポーカーの駆け引きが人生の駆け引きそのものにもなってしまうようなハラハラドキドキもある。ギャンブルに全く興味のない僕にはピンとこないが、主役のジェシカ・チャステインは、今、最も引っ張りだこの名女優で、彼女を観ているだけで、十分に楽しめた。この欄でも既に取り上げた『神の見えざる手』でも似たような役柄だったが、やり手の才媛を演じさせたら、彼女の右に出る人はいない。父親役のケビン・コスナーもいい味を出していた。
今回は6本を紹介。対象期間は3ヵ月間にも及び、観ていない映画も4本もあった。これで通算79本を紹介させてもらったことになる。
まだまだ先が長い。引き続きよろしくお付き合い願いたい。