シリーズ第14回目

「ギンレイホールで観た全映画を語る」シリーズの第14回目です。今回もお気に入りの映画が多く、またまた長くなってしまいそうな気配がプンプン。
前回同様にギンレイトリビアは省略し、具体的な映画の紹介をドンドン進めます。

ではスタート!
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38.2018.8.11〜8.24

 シェイプ・オブ・ウォーター アメリカ映画

 監督:ギレルモ・デル・トロ

 出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス 他

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2018年(第90回)のアカデミー作品賞に輝いた傑作の登場だ。この年のアカデミー賞では作品賞だけではなく、監督賞も獲得。更に音楽賞と美術賞も獲得したこの年の最大の話題作と言っていい。作品賞と監督賞の二冠は大したもの

このオスカーを獲得したギレルモ・デル・トロ監督は以前より映画界では一部熱烈なファンを持つ、知る人ぞ知る鬼才

何と言っても10年ちょっと前の2007年に公開された『パンズ・ラビリンス』が大変な傑作で、これを観た映画ファンはたちまちこの映画と監督に心を奪われてしまったのだ。もちろん僕もその一人。

更にギレルモ・デル・トロ監督は日本のアニメの熱狂的なファンとしてつとに有名で、それにちなんだ作品も多い。日本と非常に縁の深い監督なのである。

その一部ファンから熱烈に注目されていたギレルモ・デル・トロ監督が遂にアカデミー賞の監督賞に輝き、作品賞まで獲得したことは世の映画ファンを狂喜させた。

で、このシェイプ・オブ・ウォーターである。感動的な素晴らしい作品という他はない。

東西冷戦の真っ只中、アメリカの軍事基地で未知なる生物が捕獲されていた。地球外生物というか異形の生物。軍事基地で研究対象とされてひどい扱いをされていたのだが、またまたそこで清掃を担当していたパッとしない吃音の女性がその存在を知って、人目を忍んで交流が始まる。やがてその異形生物を殺処分することが決まってしまうのだが、彼女は「彼」を何とか救い出そうとする。軍を相手にどうやって救い出すのか?

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サスペンスとしても実に良くできていて、ハラハラドキドキのしっぱなしだが、ここは何と言っても異形ではあるが、彼女が心底愛してしまった「彼」との間に芽生える愛の行方から目が離せない。いわばマイノリティの愛の成就を固唾を飲んで見守ることになる。そしてやがて訪れる悲劇。でも、それが単なる悲劇で終わらないところがいかにもデル・トロだ。それは観てのお楽しみ。

ヒロインを演じたのは前回紹介したあのモード・ルイスを演じたサリー・ホーキンス。美人でも何でもないのにこの存在感となりきり感はすごい。全く大した才人だ。

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これは正しく必見の名作なのだが、一つだけ困った点が。ストーリーの本筋と離れたところで品のない露骨なシーンがかなり出てくる。かなり過激な官能的なシーンで、家族揃って観るわけにいかない代物。困る。

ストーリー的には是非とも子供にも観せたい作品なのに、あの余計なシーンのおかげでとても観せられない。これはダメだよね。

どうしてあんなに官能的なシーンばかり入れるんだろうと訝しがっていたところ、職場の映画仲間曰く「それは決まってます。このマイノリティの愛に比べて人間どもの愛が如何に愛情の欠落した快楽だけを求めたダメなものになっているか。それに比べてあの異生物と彼女の愛は崇高なものだと描きたいんだ」と。

う〜ん。なるほど。これには眼から鱗。僕の映画鑑賞眼も大したことないなと恥じた次第。

でも実際に、あれは困る。家族と一緒に観たいのに〜。そう思っている人、かなり多いと察します。

この映画を気に入った方は、是非とも『パンズ・ラビリンス』を!正直に言うと、僕はパンズ・ラビリンスの方が遥かに好きだ。あのスペイン内乱に題材を取った素晴らしいファンタジー。正に必見。エロいシーンも皆無で、これは心の底から感動できる名作。

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 ナチュラルウーマン チリ・アメリカ・ドツ・スペイン合作映画

 監督:セバスティアン・レリオ

 出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニエッコ 他

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僕は何度か触れてきたが、どうもLGBTは苦手なのである。こんなことを言ってはいけないと思いつつも、本当のことだから仕方がない。トランスジェンダーについてもあまり良き理解者ではなかった。

このナチュラルウーマンはずばりトランスジェンダーの「女性」を描いたものだ。この後昨年12月に観た例の「ガール」で、僕のトランスジェンダーに対するイメージは一変したのだが、この映画を観た当時はまだトランスジェンダーの何たるかも全く理解しておらず、気の毒だなあ、ひどいなあと思いながらも、本質的な理解はなかったと言っていい。

トランスジェンダーのヒロインが付き合っていた男性がある日、あっけなく亡くなってしまう。同性愛に対する偏見はすさまじく、遺族から徹底的に忌み嫌われ、葬儀にも顔を出せない。周囲から排斥される辛い生き様と、何とかそれに立ち向かおうと必死に前向きに生きる姿を感動的に描く。

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このナチュラルウーマンを観た段階ではトランスジェンダーのことを全く理解していなかった僕も、『ガール』を観た今日、もう一度観れば相当に感銘が深くなっていることと思われてならない。それくらい真摯に描かれた誠実な作品ではあるのだ。「ヒロイン」のマイノリティならではの悲しい表情と、それに立ち向かう決然とした表情、そのいずれもが、脳裏から離れない
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39.2018.8.25〜9.7

 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 アメリカ映画

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ボールソン 他

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これはスピルバーグの久々のクリーンヒット。とても良い映画に仕上がっていて素晴らしい!

ここでスティーヴン・スピルバーグのことを語っても膨大な字数を要するだろうし、また別の機会にしたいが、いずれにしてもスピルバーグは、本当に桁外れの力量を持った天才としか言いようがないのは事実だ。

僕はほんの数本を除いてほぼ全てを観ているが、本当にこの人が映画の歴史を何回も変えたことは間違いない。もうピークを超えて、後はどうだろうかと思っていたが、何の何の。ここ数年、また小粒ながらも素晴らしい作品を連発している。「戦火の馬」、「ブリッジ・オブ・スパイ」、そして今回の作品。もう70歳を超えているのに、本当にすごい。

「ペンタゴン・ペーバーズ」は、実話の映画化である。時はニクソン政権下の1971年。泥沼化しつつあったベトナム戦争に国内の反対運動も高まる中、ベトナム戦争に関するペンタゴン文書という極秘資料があったのだが、それが表に出れば時の大統領が辞任に追い込まれるような国家機密。その文書の存在をニューヨーク・ポストがスクープ。

映画に描かれるのは、このニューヨーク・ポストのライバル紙であるワシントン・ポストの幹部の苦闘。存在の明らかになったペンタゴンペーパーを苦労の末、何とか入手したトム・ハンクスだったが、これを暴露したら時の政権から新聞差し止めとなり、下手をすると新聞社が倒産しかねない究極の選択を迫られる。夫が死んだ後の新聞社の経営を任されたばかりの経営ど素人のメリル・ストリープはどう判断し、どう対処するのか?

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実に見応えのある第一級の作品となった。

編集長は目覚えのないルックスだが、声がトム・ハンクスそっくりで驚くと、何とトム・ハンクスその人。実在の人物に近づくために顔の作りまで変え、素晴らしい演技を見せる。

それ以上に観るものを感動させるのはメリル・ストリープだ。この名女優がいつものストリープ色を廃して、とにかく静かな抑制の効いた演技を見せる。その静謐なる落ち着いた演技に注目だ。闘う経営者を如何にも勇しく、力強く演じるのではなく、控えめに自信なさげに、しかし内面では非常な決意を秘めた本当の強さを示すのは容易なことではない。これは大絶賛されていい。

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この作品は驚くほど短時間で撮影され、早く完成されたというが、スピルバーグの才能にあらためて驚かされる。

 ザ・シークレットマン アメリカ映画

 監督:ピーター・ランデズマン

 出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・レイン、マートン・ソーカス 他

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この作品もペンタゴン・ペーパーズ同様に、政府の重大な秘密を明らかにするために生命をかけた男の物語である。

同じくニクソン政権下。大統領を辞任に追い込んだあのウォーターゲート事件。あの事件では、内部告発した“ディープ・スロート”という隠語で呼ばれた人物の存在があったことは広く知られているが、その“ディープ・スロート”元FBI副長官マーク・フェルトの苦悩と決断を描いた実話だ。

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FBIに長きに渡って君臨し続けたあの有名なフーヴァー長官が死去した際、本来は副長官代理のフェルトがその後任ポストに就くはずだったが、時の大統領ニクソンは自分の息のかかった人物を据えて、FBIに圧力をかける。やがてウォーターゲート事件が発覚。フェルトはニクソン大統領自身による陰謀を確信し、身の危険を感じながらも正義を貫こうとするのだが。

FBIの天下の副長官が自ら内部告発することへの躊躇と上からかかる激しい圧力。そして長官就任を心待ちにする家族などとの葛藤を抱えながら、遂に考えられない行動を起こすその姿には、やっぱり感動してしまう。

スピルバーグの有名な「シンドラーのリスト」で主人公を演じた名優リーアム・リーソンの存在感はさすがの一言に尽きる。いかにも重厚な見応えのあるドラマだ。

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この二本は、いずれも時の権力の腐敗を告発するために自らの危険を顧みずに権力と真っ向勝負した人々の映画。アメリカという国には失望させられることも多いが、こんな感動的なこともかつてはできた国だったのだ。

それなのにどうして、今のトランプ政権のやりたい放題のデタラメ、正しい報道がフェイクニュースの名の下に排除されてしまう風潮。それに対して闘い抜く人々が出てこないのか、弾劾裁判にまで持ち込んでも何とか擦り抜けようとする手練手管のトランプ。本当に嫌になる。

でも、アメリカのことなど言っていられない。翻って今の日本はどうなのだ!?

もういたたまれなくなって逃げ出してしまいたくなる。どうしてこんな国になってしまった?自らへの問いかけに、力なく項垂れるしかない。どうしたらいい??

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