目 次
シリーズ第11回目
このところブログ記事が進みません。ギンレイホールで観た映画の各論編が思うように進みません。一つはラグビーのワールドカップのせい。ラグビーに夢中になり過ぎました!
そのラグビーのワールドカップも感動のうちに全て終了してしまいました。ラグビーロス‼️
そして、先週ギンレイホールで観たばかりの「希望の灯り」にノックアウトを食らって、少し脱線してしまったせいもあります。本当はこの「希望の灯り」について書きたいのですが、シリーズの先を急ぐことにしましょう。
今回はエピソード=トリヴィアは省略させてもらって、早速、久々の個別映画の紹介に入ります。
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31.2018.5.5〜5.18
ノクターナル・アニマルズ アメリカ映画
監督:トム・フォード
出演: エイミー・アダムズ、ジェイク・ギレンホール他
これはベルリン国際映画祭で審査員グランプリに輝いた作品なので、傑作には違いないのだが、中々複雑な作りになっていて、集中してじっくりと観ないと話しについていけなくなる。
現実に今、起きている事実と、映画の中で特別な意味を持つ「小説」が映像となって表現されるのだが、そのいずれも同一人物が演ずるので、何だか区別がつかなくなってしまう。つまり映画の主人公が、その主人公が書いた小説の映像化の中でも主人公を演じるのである。それだけではない。小説世界ではない現実世界においても、現在と過去とが行ったり来たりするのである。これは相当頭の中を整理して観ないとこんがらがってしまう。
しかし、逆に言うと、その点さえ気をつけて観れば、これはかなり良くできた一級品だということ分かってくる。相当な傑作であることは間違いない。
デザイナーとして成功したヒロインの元にもう別れて20年以上も経つ元夫から小説が送られてくる。その小説のタイトルがノクターナルアニマルズ、「夜の野獣たち」。そして映画はその元夫が書いた小説の内容を、現実世界の映像と並行して描いていくわけだ。小説の中の世界と現実の世界とが複雑に絡み合ってくる。
そもそもこの元夫婦はかなり辛い別れ方をしていた。妻から愛想をつかれ、夫としては全く納得できない状態のまま別れざるを得なかったのだ。妻が愛想を尽かしたのは、夫の優柔不断な性格と小説家として成功できないだろうと彼の能力を見限ったせいもある。
そして20年振りに送られてきた小説は、妻と娘がチンピラ達に誘拐される残酷で神経を逆撫でされる実に衝撃的な話しであった。むしろ毛嫌いされそうなのに、元妻はその小説の中にかつての夫にはないものを感じ、魅力を感じてくる。
これは元夫の愛なのか、それとも復讐なのか?
過激な小説世界が進行する中で、元夫婦の関係も明らかに変化してくるのだが・・・。
様々な要素が錯綜する複雑なストーリーではあるが、実に観応えがあって、僕は大いに堪能させられた。
元夫にして小説世界でも悲劇の主人公を演じるジェイク・ギレンホールがもう絶品だ。僕はこの底知れぬ憂いと悲しみを体現できるギレンホールの大ファンなのだが、この映画でもその持ち味を存分に発揮。
ちなみにギレンホールって、あまりにもギンレイホールと同じ名前。驚きですよね(笑)。
妻役のエイミー・アダムスも素晴らしい。
これはハラハラドキドキさせられながら、観る者に人生の何たるかを迫り、深く魂を揺さぶらずにおかない傑作だ。
2回観てもらうと映画を通じて何を訴えたかったのか、良く理解できるのではないか。複雑だからと敬遠されないことを切に望む。
そのためにはレンタルショップは実にありがたい存在となる。僕なんかは直ぐにブルーレイを購入してしまったが。
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否定と肯定 イギリス・アメリカ合作映画
監督:ミック・ジャクソン
出演:レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール他
これは驚くべき映画。ナチスのホロコーストがなかったと主張するイギリスの歴史家から名誉毀損で訴えられたユダヤ人女性の歴史学者が裁判でその真実を争うというストーリー。何と実話だと言うから驚嘆するしかない。
ナチスのホロコーストという蛮行を今更否定してみても始まらない、あんな紛れもない歴史的事実をハッキリと否定する勢力があって、更に裁判で争われるとは。
ヒトラーとナチスが研究テーマでもある僕は、数多く描かれてきたナチス関連の映画をそれこそたくさん観てきたが、こういう視点から描かれた映画はこれが初めて。こんな描き方があるんだなあといたく感心したが、観ていて本当にやりきれなくなる。
裁判上の戦略で、実在の主人公リップシュタットは、裁判で自らが直接反論することを禁止されてしまう。弁護士が代わって答弁するのだが、それがいかにもやりきれなさを増長する。まともなことをまともに主張できない口惜しさを散々味合わされることになる。
前代未聞の裁判の行方も気になるが、とにかくこんな馬鹿なことで議論することの不条理に怒りが収まらない。
日本では南京大虐殺があったかどうか、またその規模がどの程度だったのかを巡って今でも燻り続けているが、まさかあのナチスのユダヤ人大虐殺でもそんなことを主張する有識者がいることに唖然とさせられる。
と言いながら、僕はかつて日本でも『ナチスの「ガス室」はなかった』という日本人の内科医が書いた記事が雑誌マルコポーロに掲載され、大騒動が起き、知る人ぞ知る有名な編集長が更迭され、雑誌そのものも廃刊になったことを、もちろん良く覚えている。日本でもこんなことがあったのだ。1995年のこと、まだ最近のことだ。
本当にやりきれない。現実を直視しようとしない人間が存在することに、どうしようもない憤りが込み上げてくる。この嘆きをどこにぶつけたらいいのだろうか?
32.2018.5.19〜6.1
非常に重い2本立ての後は、一挙に雰囲気が変わって、健気な子供たちの心温まる優しい映画に切り替わった。この対比がまたギンレイホールならではだ。
gifted/ギフテッド アメリカ映画
監督:マーク・ウェブ
出演:クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、オクタヴィア・スペンサー 他
特別な才能に恵まれた天才の子供をギフテッドと呼ぶことは日本でもかなり浸透してきたようだ。
この映画に登場する女の子も正にそのギフテッド。数学の恐るべき才能の持ち主だ。母親は死んでいてその弟である叔父の2人で仲良く暮らしている。
叔父は亡き姉の遺志もあって、その天才少女を特別扱いせずに、普通に教育し育てていきたいのだが、遂には英才教育推進派の祖母によって裁判沙汰にまで持ち込まれ、親権を奪われる危機に瀕してしまう。この天才少女の未来や如何に?そもそも彼女の幸福はどこにあるのだろうか?
もうこの天才少女を演じるマッケナ・グレイスの可愛らしさと天才的な演技力にメロメロになってしまう映画。マッケナ、本当にギフテッドじゃないんだろうかと感嘆させられる。実に愛くるしく、言葉に言い表せない底知れない魅力をこれでもかと発散する。彼女の演技を観るだけで一見の価値がある。
それにしても、この普通の教育を受けさせたいとする叔父の気持ちも痛いほど分かるが、こういう天才は本当にどう育てられるのが幸せなんだろうと考えさせられる。本人の意思を何よりも尊重したい、そうするべきだ、と当たり前の答えに行き着いてしまうのだが。
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はじまりのボーイ ミーツ ガール フランス映画
監督:ミシェル・ブジュナー
出演:アリックス・ヴァイヨ、ジャン=スタン・デュ・パック、シャルル・ベルリンク 他
これは愛すべき小品と呼ぶべきだろう。
チェロの天才少女が目を患って視力が日毎に衰えてくる。それでもそれを乗り越えて音楽大学に進もうとするのだが、当然に視力に負荷がかかるため、両親はチェロをやめさせたい。
そんな少女に淡い恋心を抱く男の子。少女はチェロを諦めざるをえないのか?
これも「ギフテッド」と同じテーマだ。天才的な天分に恵まれている子供は、それを伸ばそうとするにあたって大きな支障が生ずる場合に、どうすべきなのか?
これもやっぱり本人の気持ち次第だよな、それを両親や周囲がいくら本人のためだと言っても、容喙することは避けるべきだと、これまた当たり前のことを言ってしまいたくなるが、親には親の、子供には計り知れない思いもあって、そんなに簡単なことではない。映画は一つの解決策を示すが、これが本当に一番いいことなのかどうか?簡単に解決できる問題ではないのだ。
4本しか紹介できなかったのに、またまた長くなってしまった。
次回をお楽しみに。