シリーズ第4回目(前置き)

お待たせいたしました!

ギンレイホールの素晴らしさ、特にその上映作品の慧眼の素晴らしさを知ってもらおうと書き始めたこのシリーズですが、よく考えてみるとそれは過去の記録に他ならならず、ギンレイホールに行ったことのない方、またこの記事を読まれて是非ともギンレイホールに行ってみたいと思われた方でも、地方にお住まいの方はどうにもならない実態があります。

ですから、この企画はギンレイホールではこんなに素晴らしいラインナップで上映を重ねているんですよ、ということだけではなく、今は大変に便利な時代になって、全国どこででもDVDやブルーレイを簡単にレンタルできるわけですから、そのレンタルする際の参考にしてもらえれば、このブログを読んでもらう全ての皆さんのお役に立てるのではないかと、そちらの効用にも是非とも役立てていただきたいものだと切望する次第です。

映画ファンなら誰が読んでくれてもお役に立てるものと信じて、これからも熱く熱く映画について語っていきたいと決意も新たにしました。皆様の映画ライフの一助になれれば。映画ファンの道しるべの一つになってもらえると本当に嬉しいですね。

今回はこのことをお伝えして、ギンレイホールのトリヴィアばお休みさせていただきます。

ドンドン具体的な映画の紹介を進めていきますね。

今回は特に好きな映画が揃っているんです⁉️
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12.2017.8.5〜8.18

 愚行録  日本映画

監督:石川慶

主演:妻夫木聡、満島ひかり他

これは色々な意味で観応えがあって、鑑賞後の話題にも事欠かない何とも特殊な映画であった。妙に心に引っかかって、いつまでも尾を引く映画なのである。

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1年前に起きたエリートサラリーマン一家の惨殺事件が迷宮入りしそうとする矢先、それを追いかけていた雑誌記者が自らの進退もかけて、周囲の反対の中、最後のチャンスを無駄にすまいと取材を続ける。

その妻夫木扮する雑誌記者が関係者への執念の取材を続ける中で、少しずつ思わぬ真相が判明していくのだが、それはまだまだほんの入り口。最後にとんでもない衝撃的な真相が浮かび上がる。その衝撃に耐えうるか?なんて書くと、調子のよい予告編のようになってしまうが、これに誇張はない。

この映画、ことの展開と語り口調が何かに似ているなとずっと気になっていた。今、ようやく判明!そう、あのナイト・シャマラン監督の世界だ。

あの一世を風靡したシャマランの映画。

「シックス・センス」や「アンブレイカブル」にハマったどころか、大好きな読者が多いのではないか。

この得体の知れない不気味な感じ、何か良く分からないけれど不安を助長する雰囲気。そうだ、これはシャマランの世界に近い

それを分かっていただけると、この映画のことは理解してもらえそうだ。

タイトルの「愚行録」が全てを物語る。ここに登場する全ての人間たちがどうしようもない愚行を積み重ねていることが明確になったとき、思わず唖然とさせられるが、ふと振り返って自分自身はどうなんだと思い至ったとき、背筋に寒気を感じるのは僕だけだろうか。

この映画はこうして、事件の真相の衝撃性だけではなく、観る者自身の生き様も問い続けるのである。重い

 しゃぼん玉  日本映画

監督:東伸児

主演:林遣都、市原悦子、藤井美菜 他

これは僕が好きで好きでたまらなかった映画。これを初めて観た際、その感動に涙が止まらず、こんな素敵な映画に接するのは何十年ぶりだろうかと思った程だ。

そして、この映画を1人でも多くの人に観てもらいたくなり、家族はもちろん、合唱団のメンバー、職場の病院でも声高に宣伝し、たくさんの人をギンレイホールに誘い込んだことが懐かしい。

年寄りや弱い女を相手にひったくりや強盗を繰り返していた主人公は、ある時に、勢い余って若い女を刺し殺してしまう。そこから逃走して流れ着いた先が宮崎県は椎葉村の山中。そこで、ひょんなことから逆に命の恩人とされて、老婆の家に住み込むことになる。
そこで真っ当な生活を余儀なくされた主人公は、苦労しつつもいつのまにか周囲の人々の信頼を得始めるのだったが。

そのままハッピーエンドで終わるなら、僕がこんなに感動するはずもない。

世の中はそんなに甘くないし、自分の罪と真剣に向かい合わずに改心なんかしたって、そんなものはいずれ化けの皮が剥がれるものだ。

自らの行動の責任を思わぬ形で初めて自覚させられた時、生まれ変わりつつあった彼はどんな行動に出たのか?
そして周囲はそれをどう受け止めたのか?

観ていて本当に涙が止まらなくなる。僕なんかはもう滂沱の涙で困ったほどだ

老婆役の市原悦子がもう絶品。残念ながらこれが遺作となってしまった。

主人公を演じる林遣都も素晴らしい。

原作は直木賞作家の乃南アサのベストセラーだという。

僕はこの映画の感動はかつての山田洋次監督の誰からも愛されたい名作「幸せの黄色いハンカチ」に近く、並び称されてもいい傑作だと確信したが、何故か世評はさほど高くなく、キネマ旬報ベストテンでは30位にも入らないくらいの扱いだった。残念でならない。

宮崎県椎葉村の景色もどこまでも美しく、こんないい映画はないと思うのだが、いかがだろうか?

多くの方に観ていただいて、率直なご感想を是非とも聞かせていただきたいところだ。

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13.2017.8.19〜9.1

 ムーンライト  アメリカ映画

監督:バリー・ジェンキンス

主演:トレヴァンテ・ローズ、ナオミ・ハリス 他

これはアカデミー作品賞を取ったのだが、そのアカデミー作品賞の発表時にあの「ラ・ラ・ランド」と違う映画名を読み上げられたことで一躍有名になったという曰く因縁付きの映画。

「ラ・ラ・ランド」は文句なしに素晴らしい映画なので、あの映画よりも高く評価された作品、しかも何が起きたか皆目見当がつかないけれど、それと間違えられて発表されてしまった気の毒な作品ということで、逆に注目を浴びたのは事実。

で、これは「ラ・ラ・ランド」を超える作品だったのか!?

幼少期からずっとイジメられて育った黒人の少年の成長を3人の俳優が演じるという観たことのない珍しい方式で作られている。少年期、青年期、大人期とそれぞれ、辛いエピソードが描かれるのだが、その中で彼がゲイであることが少しずつ明らかにされていく。その辛い人生を過ごしてきた彼が唯一、心を許し、忘れ難い大切な体験として残っているものは?

僕は正直言って、この映画はあまり好きにはなれなかった。「ラ・ラ・ランド」を超えるなんてとんでもない、何でこれが「ラ・ラ・ランド」を超えてアカデミー作品賞なんだ⁉️と最初の頃はかなり反発してしまったくらい。

その地味な盛り上がらない展開そのものは決して嫌いではなく、地味とはいいながら、ものすごく繊細なものを感じるので、エピソード2まで、つまり青年期まではかなり引き込まれた。これは新しい感覚、すごい感性じゃないかと。

盛り上がらないと言いながらも、主人公の溢れ出る思いと焦燥感が本人を駆り立てる部分なんかは、かなりドキドキもさせられる。悪くない。

でも、最後の大人編になってからのエピソードがどうしても好きになれない。何と言っても俳優が僕にとってはダメ

少年期と青年期のあの繊細さがどこかに行ってしまって、全く別の大人に育ってしまったという違和感に尽きる
似ても似つかぬマッチョになって、あの傷つきやすい繊細さがどこかにすっ飛んでしまった。

しかもどう考えても、あの青年がたどり着くとは思えない仕事?と人生感を身につけるに至っているのには、最後の最後まで違和感を拭えなかった。残念でならない。

でも、これは僕の見方が何かものすごく大切なことを見逃している、何かに気がついていないのではないか、という自分に失望しつつも、この映画の復権に期待したい気持ちも非常に強いのだ。どなたかご指摘してもらえないだろうか。
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 ラビング  愛という名のふたり イギリス・アメリカ合作映画

監督:ジェフ・ニコルズ

主演:ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ、マートン・サーカス 他

これはまだ黒人への偏見と差別が非常に根強く残っていた時代の信じられない実話。

アメリカのバージニア州。ある夜、突然、ラビング夫妻が逮捕される。罪の名は結婚だ。それは彼らが異人種間の結婚をしていたから。それだけのことだ。夫が白人、妻は黒人であった。いくら何でもこんなことがまだほんの60年ほど前のアメリカで、実際にあったことなのかとただただビックリしてしまう。

裁判にかけられ、執行猶予を受けるには離婚するしかない、離婚しないのなら直ちに故郷を立ち去り、25年間一緒には戻れないという内容。2人は泣く泣く家族とも友人たちとも別れ、見知らぬ土地へ引っ越すことになる。
出産時にどうしても家族の元で産みたいという妻の願いを聞き入れて、こっそりと妻の実家に帰り、極秘裏に出産。子供は無事に生まれるが2人は再び逮捕され、2人には次々と難題と不幸が襲いかかる。妻は意を決して、当時の司法長官ロバート・ケネディに手紙を送る。それが引き金になって彼らを救済しようという動きが出てくるが、裁判は結局、最高裁まで運びこまれることになる。

アメリカという国の負の歴史に改めて驚愕させられる。現代でも信じられないくらいの黒人差別が横行するこの国にとって、こんなことは当然だったのかもしれない。様々な圧力と偏見に迫害を受けながらも、最後まで闘い抜いて勝利を手にし、法律まで変えてしまった夫婦の愛と勇気。2人の姿には感動させられるが、どうしてこんな理不尽なことがまかり通っていたのか、そっちの方が理解できない。もちろんそこまでの差別はなくなったとはいうものの、移民問題を含め、相変わらず今のアメリカを覆い尽くす差別と偏見に途方に暮れてしまうのである。

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14.2017.9.2〜9.15

 タレンタイム 優しい歌  マレーシア映画

監督:ヤスミン・アフマド

主演:パメラ・チョン、アフェシュ・ジュガール・キショール、モハマド・ナスウィップ他

さあ、遂にタレンタイムの登場だ。

これは僕が愛してやまない名作中の名作。本当に好きでたまらない映画なのである。

しゃぼん玉で感動させられ、その直ぐ後にこのタレンタイムを観たことで、僕のギンレイホールへの感謝と畏敬の気持ちはピークに達した感がある。こうして僕は完全にギンレイホールから離れられなくなった。

この映画には当初、全く期待していなかった。マレーシアの映画なのだ。僕のようなシネフィルでもさすがにマレーシアの映画というのは観たことがない。観始めてからもしばらくの間は、そのマレーシア独自の文化や風習が理解できず、最初のうちは訳が分からない。何なんだろうこの映画は、と不満を抱いたほどだった。

ところが途中からはもうドンドン映画に引き込まれて、そのワンシーンワンシーンに心を鷲掴みにされ押し寄せる感動に身体の震えが止まらない。最後はもう嗚咽の涙。肩で息をするほどの感動に終映後も放心状態。大変な経験をしてしまった。

「しゃぼん玉」以上に周囲にこの映画の傑出した素晴らしさと、これを見逃がすと一生後悔することになるぞと迫り、どれだけのメンバーをギンレイホールに送りこんだか分からない。

マレーシアの高校で数年ぶりにタレンタイムという音楽発表会を開催することになり、それに出場する何組かの高校生たちの取組みと彼らの青春模様を描いていく。言ってみればただそれだけのことなのに、この映画の中には万国共通の青春の痛みと愛の苦しみと喜びが描き尽くされ、観る者全てを感動させずにはおかない。

素晴らしいシーン、一生忘れることのできないような珠玉の名シーンの連続で、何度観ても同じところで号泣させられる。その胸の詰まる号泣シーンが何ヶ所も何ヶ所も出てくるのだ。もうたまらない映画である。

その上、この中で演奏される歌が魂を抜き取られるくらい美しい。マレーシアの作曲家のオリジナルの愛の歌に滂沱の涙を流しながら酔いしれることになる。

監督はこれからの世界の映画界を背負って立つと期待されたヤスミン・アフマド。女性だ。その天才を賞賛されながらも、何とこのタレンタイム公開後に急逝。惜しんでも惜しみきれないが、このタレンタイムで全てを使い果たしてしまったということだろうか。

これは全ての映画ファン、そして青春の真っ只中にある若者も、その母親も父親もみんな観なければならない。青春の輝きと疼き、人を愛することの尊さ、音楽がいかに人の心を夢中にさせるものなのか、その全てを味わうことができるだろう。

残念ながらDVDは出ていない。何たるスキャンダル。

全国のどこかの映画館で上映されていたら、何としても観てほしい。あなたにとって生涯忘れ得ぬ最高の映画との出会いになるはずだ。

 台北ストーリー  台湾映画

監督:エドワード・ヤン

主演:ホウ・シャオシェン、ツァイ・チン他

これは辛い話しではあるが、映画ファンなら是非とも観ておきたい作品。エドワード・ヤンは台湾の映画監督で、4時間を超える名作として有名な「牯嶺街少年殺人事件」を作った名監督。そして驚くべきはその主演男優。ホウ・シャオシェンなのである。

えっ⁉️ホウ・シャオシェンが俳優として出演?ホウ・シャオシェンは台湾が生んだ世界最高の映画監督の一人なのである。侯孝賢。この漢字で見てもらった方が分かるのではないか。ちょっと上げただけでも珠玉の名作が列挙される。「冬冬の夏休み」「童年往時 時の流れ」「恋恋風塵」「非情城市」「戯夢人生」などなど。

あらためてものすごいラインナップ。名作のオンパレード。その侯孝賢が同年生まれの朋友エドワード・ヤンの映画に主演。映画ファンなら誰でも胸踊るに違いない。

この二人、実は同年(1947年)の朋友で、世界を席巻した台湾ニューシネマの担い手だったのだ。この二人の共同作業に注目しないわけにはいかない。

元々この映画は1985年に作られたものだが、台湾で公開当時は全く人気がなく、ほんの数日で打ち切られたという。その後、ロカルノ国際映画祭で受賞するなど外国で非常に高く評価され、エドワード・ヤン生誕70年、没後10年の2017年に、4Kデジタルリストア版で劇場初公開が実現された作品なのである。

これが4Kデジタルリストア?とにわかに信じされないくらい美しくない映像ではあったが、閉塞感に包まれた当時の台湾を見事に描き、そこから外に脱出できるはずだった男の悲哀を切なく映し出す。アジア映画に関心のある方は見逃せない一本だ。

今回は6本しか紹介できなかったのに、もう6,000字近くになってしまった。熱愛している映画が多く、少し熱すぎた感があったかもしれない。

続きはまた次回。どうぞお楽しみに。

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